第37話.久遠(3)
「うっわ…川の水めっちゃ冷てぇ!!!」
ノアの言った通り、小さな川がサラサラと流れている。
森の木々で影になるからなのか、森の中を流れているからなのか、水はとても綺麗に透き通っていて、
水温は手ですくうと冷たさが身体中に伝わる程に冷えていた。
「うまっ!!!」
カラッカラの喉に、冷たい水が染み渡る。
あぁ、幸せ。
すると、水筒に水を入れていたノアが
ふいに口を開いた。
「…あのさ、いち。」
「ん?」
「私、いちにお礼言っとかなきゃなんないんだよね。」
「何の?」
「脱出する時にさ。私を見捨てるのは得策じゃないって、ギンに言ってくれたでしょ?……あれのお礼、言ってなかったから。」
「へ?言ったっけ?」
「言ったよぉ!?忘れたの!?….信っじらんない。すっごい嬉しかったのに!!」
「え、そんなに?」
「……だって。処分決まって捨てられるって所だったんだよ?また捨てられるとかさ……ちょっとキツイなって。」
アンドロイドにとって、捨てられるってのは よっぽど辛い事なんだなぁ…。
「なぁ、ノア。それならさ、さっき久遠が約束して欲しいって事を言ってたんだけど……」
「あぁ。言ってたわね。」
聞いてたのかよ!!!!
「ノア、約束出来る?」
「するも何も、手なんか出さないわよ。」
「え?ほんとに!?」
「……凪ちゃん。コロニー襲われたって言ってたじゃない?」
あぁ…確かに、久遠が言ってた。
コロニーが襲われた時、何も出来なかったって……。
「凪ちゃん。人間に作られたんだから当たり前なのかもしれないけど…。人間のコロニーにいたのね。」
「そうだなぁ。中野博士に育てられたんじゃないかな?」
「無理矢理、連れてこられたのかな?コロニーから。」
「無理矢理連れて来といて、喋れなくなったから捨てたって事かよ……。ひっでぇな……。」
ノアは、水筒の蓋をキュッと締めると
俺の方に向き直った。
「凪ちゃんにとっては、人間は大事な存在なんだと思う。……だから、久遠に殺意を向けた事は反省する。」
ノアが大人になった………。
「だから、凪ちゃんの為にも。コロニーの人間には手を出さないよ。………正直、全員殺したいけど。」
うん。
最後のは聞かなかった事にしよう。
「さ、戻ろうぜ。」
水筒をノアの手から受け取り、皆のいる所へ戻ろうと歩き出した俺だったが……
後ろを振り向くと、ノアがうつむいたまま立っていた。
「ノア、帰ろう?」
「………でもね、いち。」
「ん?」
「もしも、人間が…ギンやリーヴ、それに…あんたに何かしたら………」
「私は約束を破るよ。」
そう言ったノアの顔は、あの冷たい笑顔でBランクの隊長を倒した時の顔とは全く違っていて。
何だか、祈る様な……そんな感じの表情をしていた。
俺はノアの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ちょおっと!!髪ボサボサになるじゃん!!」
「あーりがーとなっ!!」
「はぁぁ?」
「さ、戻ろうぜ!!」
そうして、帰り道もいつも通りギャアギャアと喧嘩しながら帰った訳ですが。
ノアに言われて俺も思った。
久遠にとって、コロニーの人達が大事な様に
俺だって、ここまで一緒に来た仲間は大事だ。
「お。水はいっぱいくめたんか?」
戻って来た俺達を、笑顔で迎える久遠。
「うん。久遠。ノアも約束してくれたよ。」
「ほんまか!!おおきになぁー、いちはん!!」
いち……………はん?
「それでさ、久遠。」
「ん?」
「逆の約束も、してくれるかな?」
「逆?」
「コロニーの人達が、ギンやリーヴ、ノアに酷い事はしないって。」
久遠は、ポカンとしていたが、すぐに笑って答えた。
「せやんなぁ。こっちだけその約束させんのはずるいわな。人間がアンドロイド憎んどるのも事実やしな。何するかわからへんもんなぁ。……わかったわ。皆には俺から責任もって言うさかい、それでええか?」
「うん。ありがと。いやぁー、うちのお姫様キレるとちょっと手が付けられないからさぁ。助かる。」
「はははははっ!!!ほんま 、あんたらは人間みたいなアンドロイドやなぁ」
俺もそう思う。
初めの時は、皆淡々としてたけどね。
だんだんと話すようになって、ふざけたりとかも、できるようになって。
いつの間にか大事だって思える、仲間になってる。
今日、ノアも少なからずそう思ってるんだなってわかって嬉しかった。
今度リーヴやギンとも、こーゆう話出来るかな。
「着いたで。ここや。」
久遠が指差したのは地面。
なんと地面にドアがついている。
「地下……!?人間は地下にコロニー作ってるんですか!?」
「どーりで、サーモグラフィになかなかひっかからない訳だな。」
久遠が、コンコンとドアを叩き、「久遠や」と伝えると…
地面のドアはゴトゴトと音を立ててスライドした。
中には階段がある。
「そこ降りてな。すぐコロニーやさかい。」
ついに辿りついた人間のコロニー。
ここで、俺達はとんでもない事に巻き込まれる事になる。




