第31話.ノア
現場に到着した時
ハッキリ言って、俺はその場の光景に目を背けた。
間違えた。目を疑った。
そのくらいの、地獄絵図だったのだ。
7人の男が地面に倒れている。多分7人で合ってると思う。……多分。
なぜなら……何人かは……バラバラなのだよ……。
その中央で、1人の男とノアが睨み合いをしている。
立っている男の腕には青色の腕章が。
この隊の隊長。つまりBランクを持つ男だ。
「あばばばばばばば……」
あまりの光景に、まともな言葉が出て来ない。出て来る訳がない。
俺の声に気付き、ノアが振り向く。
いつものアホなノアであった時の雰囲気は 少しもなかった。
誰だこいつーー……?と思ってしまう程、ノアの表情は冷淡だった。
「……なんだぁ。来たんだぁ。」
ノアが冷たい表情のまま笑い、俺達にそう言った瞬間だった。
隊長の男が スキあり とばかりに、ノアに向かって持っていた剣を素早く振り下ろしたのだ。
あっ と思う間もなく、ノアはそのまま かがんだかと思うと 男の手首を後ろ向きのまま蹴り飛ばし、その勢いで剣は空に飛び上がった。
空に飛んだ剣に目を取られていたら、ノアがその剣を掴んだもんだから、俺の目玉は本気で飛び出るかと思った。
なんでこいつまで飛んでんだよ!?と。
ノアは、剣を蹴り飛ばしたその勢いで身体を一回転させ、そのまま男の肩に足を乗せて飛び上がったのだ。
俺なんかじゃ、どんだけ目を凝らしてもわかんないよ?
だって倍速……どころの話じゃないよ?
数十倍速ぐらいの速さだよ!?
ちょっと誰かスロー再生出来る機能付けてくれませんかね?
ちょっと、あの速さはずるくね?
とか考えてる間に、全ては終わっていた。
空中で剣を掴んだノアは、そのまま下にいる男の首を斬り飛ばしてしまった。
何か手助けする暇も、声をあげる暇さえもなかった。
俺に至っては、見る事さえ難しかったのだから。
急いでノアの元に走り寄ろうとしたその時
「お……前、何……番だ…」
真っ赤なオイルに浸された生首が喋った。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」
だってホラーだよこれ!?
ふざけんなよ下手に赤いオイル流すんじゃねーよ!!めちゃくちゃ怖ぇよ!!!
今日絶対夢に出て来るんですけど!!!その前に、今日絶対眠れないんですけどーー!!!
思わずノアに抱きついてしまった俺な訳だが、ノアは怖がる事も慌てる事もなく、微動だにせず淡々と口を開いた。
「残念。そんなモンないわよ?私、裏だから。」
何?
なんて?
ノアと生首を交互に見ながら首を傾げる俺だったが、生首はそのまま二度と話す事はなかった。
二度と話さないで下さい。
「おーおー、やっぱり噂はマジだったか。」
リーヴがひきつった顔でノアに声をかける。
「うわー……、噂になってんだ?ダメじゃーん……隠れ仕事だっつーの。」
「噂って言ってもなぁ……上の方では、な。ほとんどの奴は知らんさ。どっかの情報処理係さんは知ってたみたいだが?」
「あはは。知ってましたー。」
「俺、知らないんですけど?」
「あんたは何も知らないでしょ」
「傷ついた!!!!傷ついたよ!?めっちゃ傷ついた!!メル!!メルー!!!!!」
あれ?メル?モフモフは?
辺りを見回すと、メルがキョロキョロしながら歩き回っているのを見つけた。
「ナギ?ナンギ?ナギー?ナギハー?」
必死に凪ちゃんの名前を呼びながら歩き回るメル。
「そ、そうだよ、凪ちゃんは!?ノア、凪ちゃんはどこ!?」
するとノアは 「あっ」 と、小さい声を上げた。
あれ?うっそ。忘れてたのこの子!?
攻撃スイッチ入ってアドレナリンみたいなの溢れ出ちゃった感じ!?
「お前まさか凪ちゃんにまで攻撃してねーよな!?」
「はぁあ!?する訳ないでしょ!?そうなったら困るから、戦う前に凪ちゃん隠したもん!!!!」
あぁ、自覚あるんだ。
そうなる予感はしてたんだ?
「どこに隠したの?」
「そこの草むらの中。」
「でも、だったらなんで出て来ないんだよ?」
「もういないから。」
「は?」
「そこの草むらの中に隠れとくように言ったんだよ?危ないから絶対出て来ちゃだめだよって言ったんだけど、戦いの最中に そこから飛び出して走って行っちゃったの。」
「よっぽどお前の戦い方が怖かったのか……見るに耐えなかったのかな……」
「何がーー?」
「全部だよ!!!見ろよ!!このホラーレベルの大量殺人現場を!!!!俺もう絶対今日寝れないからね!!!今日メル抱いて寝るの俺ね!!じゃないと俺トイレにも行けやしない!!!」
「ダメよ!!今日は私の番でしょう!?」
サッとメルを抱き上げるノア。
「絶対俺が抱いて寝るから!!早く凪ちゃん探そ。どれだけ怖かったか、凪ちゃんとじっくり語り明かすわ俺!!」
「いちさん……。凪は、喋れません。」
「……」
そうでした…。
「でも、どうやって探す??呼んだって返事出来ないんじゃ、居場所俺らに教えられないじゃない。どこか穴に落ちたりとかしてたらどうしよう……あんな、可愛いんだもん。変な奴とかに連れて行かれちゃったりしてたらどうしよう……通った場所とかわからなくなっちゃって、迷って俺の名前とか泣きながら呼んでたらどうしよう……ねえ!!どうしようギン!!!どうしよう!!!!」
「はいはい。そうですね。大変ですね。喋れないのに、どーやって泣きながら いちさんの名前を呼ぶんでしょうね。ほんとにあなたの頭の中は大変だ。……メル、探知機能を。」
探知機能という手があった!!
どうりで全く焦らない訳だ。
いや、この現場を見ても焦らない子どもってのも ある意味ホラーなんだが。
「メル……エネルギ、ナス…」
ノアに抱かれたまま、メルは目に涙をためてションボリと答えた。
ギンはガックリと肩を落とし、俺とノアを睨みつけ、珍しくあまり聞かない様な低いトーンの声で言った。
「これからは、夜にメルを抱いて寝るのはやめて下さい。」
ごめんなさい……。
しらみ潰しに探すしかないのか。
なにか痕跡は残ってないかな!?
俺が四つん這いになって、凪ちゃんが隠れていた草むらの中を必死に探っていると
ノアが手を挙げた。
「あたし、追跡してみるよ。」
「まぁ……お願いするしかないでしょうね。」
「夜になったら、いくらお前でもその目では追跡不可能だろ?急ごう。」
「え?え?ノア、追跡とか出来んの?」
「まぁねー。暗殺には必要不可欠なスキルだもん。」
なんか、今サラッと怖い事言った。
聞いていい事なのか、いや、聞かない方がいい事なのか……むしろ俺個人としては聞きたくない事の様な気がする。
そんな俺の心の声を聞けちゃうエスパー君が、俺の心の声を無視して説明してくれてしまった。
「踊り子ってのは、表向きの職業なんですよ。裏では、プロの暗殺集団なんです。」
ほんとね。
なんか……アホとか馬鹿とか言ってごめんなさい。




