第21話.凪の涙
俺は、リーヴと交代して外の様子を洞窟の入口に寄っかかって見ていた。
リーヴは大丈夫だと言っていたけど、夜はリーヴの暗視がないと見張りはキツイ。
昼は俺が見張りをして、リーヴには昼に寝て貰う事にした。
やっぱり、リーヴには少しでも寝てエネルギーを蓄えてもらっておいた方がいいと思ったんだ。
その日の夜、リーヴと見張りを交代した俺は 楽しみにしていた豚を食べようと思ったのだが……
あの爆発を考えると、躊躇してしまう。
「食べないの?」
ノアが不思議そうに俺を見て豚を指差す。
「だってさぁー、もし俺が食べたあの時にあんな爆発してたらと思うと………」
「頭吹っ飛ぶわね。」
「でも、見る限り電流みたいのは出てないしなぁ」
「あの豚が特殊な豚だったんじゃない?ほら、貸してみなさいよ。爆発しない様に殺してあげるから。」
「なんで食事するのに、こんな物騒な会話になるんだ……」
ノアは、俺から豚を受け取ると
魚を殺す様に急所か何かに攻撃でもして殺すのかな?と思ったら
おもむろに半分食いついた。
「食うのかよ!!!!」
残りの半分を俺に差し出す。
「こひぇで、びゃいびょーぶよ」
「食いながら喋んな!!何言ってるかわかんねぇよ!!メルよりわかんねぇ!!」
一気に食べて即死させて食べるのが基本だとは言っていたけれども!!!
俺は残った半分にかぶりつく。
やっぱり赤ワイン煮込みのジューシーな肉……。うまー……
ほわほわ幸せに包まれる。
今日やっと、まともに物が食えた気がする。
全部食うと、腹がいっぱいになった。
あれ?ぶど……豚1つで腹がいっぱいになった。すごく腹持ちがいいのかなぁ。
しかも食ったのは半分なのに。
ノアに半分食われたし。
「あ。」
「何よ??」
「いや、何でもない……」
俺はバリバリの思春期ですって!!
だからって間接キスごときでうろたえるとか、俺ってもしかしてあんまり耐性ないのか!?
あれ?
アンドロイドって、そーゆうのあるのか?
「ねぇ、いち。」
「はい!!!何でしょう!!」
「?何?気持ち悪いんだけど。」
ノアが首を傾げながらも、ゴソゴソと腰から何かを取り出した。
「あのね、これ。腰に刺してたんだけど、乾いちゃって。」
出して来たのは、昨日の夜にノアが使っていた発光ゴケがついた枝だった。
あぁ……そっか。洞窟の中は暗い。
これがないとノアはほとんど見えないんだ。
「近くに水場ってあるかな?ちょっと濡らして来る」
枝を受け取って、立ち上がる俺に
ノアが耳を疑う様な事を言って来た。
「………ごめん。ありがとね。」
しおらしいノアとか、調子狂うぞ。
俺は洞窟の入口に向かうと、そこにいるリーヴに 発光ゴケを濡らしに行きたいと伝えた。
「もうすぐ雨が来る。すぐにぬらせると思うぞ。」
「え?雨が来るとかわかるもんなの!?」
「雨の匂いがする。空気も湿ってきたしな。」
軍人さんパネェ。
すると、ポツリポツリと空から雨が降って来た。
天気予報いらねぇじゃんこれ!!!
入口から手を伸ばして発光ゴケを雨に当てていると、リーヴが俺の腰に手を回した。
「………リーヴさん。俺、そっちの趣味ないんですけど……」
「趣味?なんの趣味だ?このあたりの岩場の岩は、雨に濡れると極端に滑る。お前は面白いくらいコケそうだ。」
「どんなコケ方想像してんの!?」
発光ゴケがほわほわと光り出したので、それを持って中に入ろうとすると
リーヴも付いて来た。
「雨が降っている時のこの岩場は、誰も近付かないからな。見張りはいらんだろう。雨が上がるまでは安心して休める。かなり大降りになりそうだしな。」
リーヴの天気予報2。
洞窟の奥に行くと、俺が持ってる発光ゴケをみてホッとした顔のノアがいた。
ゴツゴツしている場所を探して、発光ゴケがついた枝を2本刺すと 洞窟の中がホンワリと優しい灯りで明るくなった。
凪ちゃんは洞窟に寄っかかって座っており、メルは凪ちゃんの膝の上でスヤスヤと寝ていた。
「これから、どうしましょうか……」
ギンが、話を切り出した。
「いつまでも第2区の領地にいるのは危険だと思うのです。」
「俺も、それは賛成だな。かと言って、どこを目指すかとなると……」
「ねぇ、俺さ。……やっぱり中野博士に会ってみるべきだと思うんだけど。」
俺の言葉に、ギンとリーヴはあからさまに嫌な顔をした。
人間になんか、会いたくない。
そういう顔だった。
「でもさ、今生き残ってる人間ってさ、アンドロイドから隠れて暮らしてるんでしょ?」
「時々食料調達なのか、山の中をうろついてたりはしますね。まぁ……見つかってだいたい殺されますけど。」
「でもさ、俺達だって、アンドロイドから逃げてるんだよ?隠れたいんだよ??それをしてる人間なら、今の俺達よりもずっと隠れ方を知ってるんじゃないの??」
ギンとリーヴが驚いた顔をする。
「確かに……言われてみればそうだな。」
「いちさん……少し頭の故障が治ったんでしょうか。」
馬鹿も故障の1つですか。
「だが、俺は人間を見たら殺してしまうかもしれん。」
「う……。でも……。」
「会うと言っても……あっちが会ってくれるかどうか……それが一番問題ですよ。」
「そっかぁ……人間だって、アンドロイドを憎んでるんだもんなぁ。中野博士も、きっと俺達アンドロイドを憎んでるだろうし……」
「ハカセ、ニクンデナスデスヨ!!!」
奥から、メルがパタパタと飛びながら俺達に叫んで来た。
「メル、もう睡眠はいいのか?」
「ナカノハカセ、ニクンデナスデスヨ!!!ニクンデナス!!」
「え……?中野博士は、アンドロイドの事憎んでないの!?」
「ニクンデナス!!ハカセ、アンドロド、スキッテ!!ダイスキッテ!!」
アンドロド………アンドロイドか!!
「博士は、アンドロイド好きでいてくれてるの?」
メルの頭を撫でながら聞くと、メルは一生懸命に俺達に叫び続けた。
「ダイスキッテ!!ハカセ、アンドロド、アイシテマスターデシタ!!!アイシテマスター!!!!」
「いくらロボットを作るのが好きだと言っても、まさかアンドロイドまで好きだなんて人間はいませんよ」
ギンがそう言った瞬間、凪ちゃんが地面にヘタり込んだ。
「凪ちゃん?どうしたの?」
慌ててノアが駆けつけ、凪ちゃんの肩を掴むが ノアの目が硬直する。
「……え?……凪ちゃん……?」
「どうした?凪ちゃん、具合悪いの?」
慌てて駆け寄った俺は、地面を見て足が止まった。
ポトリ、ポトリ と、水が地面に落ちて行く。
地面の水を見て 顔を上げると
そこには地面にへたり込んでポロポロと涙を流している凪ちゃんの姿があった。
泣い……てる?
え?アンドロイドって、泣くのか!?
皆の方を振り向くと、リーヴもギンも信じられない といった顔をしている。
やっぱりアンドロイドが泣くっていうのは、特殊なのか?
「ナギ!!ナギー!!ナカナデ!!ナカナデー!!!」
メルが凪ちゃんの胸に飛び込み、必死になぐさめているが………
ビックリした事に、そのメルの目にも涙がたまっていた。
ギンが静かに凪ちゃんとメルの元に歩み寄る。
「……どうりで、僕のデータにいない訳だ。」
ギンは、泣きじゃくる凪ちゃんの前にゆっくり座ると、静かに呟いた。
「凪。あなたは……僕たちの様にアンドロイドによって制作工場で作られたアンドロイドじゃない。
……中野博士に作られたアンドロイドなんですね?」
凪ちゃんはメルを抱きしめ、涙を流しながら静かに頷いた。




