第18話.初めての戦闘(1)
俺の叫び声を聞いて、全員が素早く立ち上がった。
「走れ!!!」
左手を大きく振り回して、リーヴが行き先を促す。
俺は走りながら手を下にかざし、通りざまに大きな葉っぱの上に並んでいる果物の中のぶど……豚を数個すくい上げて、それを両腕で抱えながら全力で走った。
「ちょっとあんた!!!何抱えてんのよ!?そんなもん置いて行きなさいよ!!!!」
「だって俺一粒しか食べてないもん!!!食べないとエネルギーどうすんだよ!?ただでさえ起動力ないのに!!!!」
走りながら、俺に怒鳴るノアに 俺も怒鳴り返す。
「バカなの!?あんたエネルギー変換帯壊れてんのかもしれないって昨日言われたでしょ!?壊れてたら食べたってエネルギーになんないわよ!!!!全部うんこになるだけよ!!!!」
「うんこって言った!!!うんこって言った!!!女の子がそんな言葉使うんじゃねーよ!!!!恥を知れ!!!」
「お前ら声でけぇよ!!!!いち!!お前機動力低いくせに怒鳴りながら走るんじゃない!!すぐバテるだろうが!!!ノア!!いちいちいちを煽るな!!!」
「いちいちいちって何!?いち3人いるわ!?」
「ちょっとリーヴ!!それ面白いんだけど!!」
「やかましい!!!!!!」
「「すみません。」」
怒られた。
リーヴ怒ると迫力ありすぎて怖い。
「いちさん!!相手には気付かれたんですか?」
「わ、わかんない……」
「目は合ったんですか?」
「え!?20~30メートル近くあったんだよ!?しかも、相手水中だし……目が合ったかどうかなんてわかんないよ」
「止まれ!!!身を低くしろ!!」
リーヴの声に、全員がキキキーッとブレーキをかけたかの様に止まった。
そのまま、しゃがんで身を低くする。
「いち、何人いた?」
「えっ………姿は2つ見えたけど……」
「2つ!?」
「え?うん……」
そのまま、黙って考え込むリーヴ。
え?ちょ、ちょっと……!?
早く逃げなくていいの………!?
「どう思う?ギン。」
「………追っ手では、ないですね。」
「やっぱりそう思うか……」
えええ!?
「じゃあ、あれ何!!?」
「追っ手は、最低でも3人一組だ。2人組というのは有り得ない。第2区では、そう決められている。」
「じゃあ、あれ何!!!?」
「恐らくは、他の地区の………」
「スパイだな。」
「スパイですね。」
「スパイだわ。」
リーヴとギンとノアが口を揃えて言った。
スパイ…………!!?
追っ手は3人一組………
確かにそう言われれば、俺達を追いかけて排気口から出て来たあいつら……3人組だった。
「来る方向が、おかしいとは思ったんだ。まぁ、あの場所からは離れる必要はあったから 少し距離を取る為に走ったが………」
あぁ、だから今止めたのか……。
「じゃあ、俺達が目的ではないんだよね?襲っては来ないって事?」
「あっちが、こちらに気付いていたのかどうか……によるな。」
「気付いていたとしたら、襲って来ますよ。スパイなんですから、侵入するのを見られた以上は消さないと……と、思うでしょうし。」
け……消す……!?
いきなりの恐ろしい言葉に、豚を抱える腕が震える。
「相手、強いの?」
「まぁ……スパイは、腕の立つ奴が多いわな。敵の中に入る訳だし。」
「じゃあ、早く逃げようよ!?」
「もし襲ってくるとしたら、追ってくる。しらみつぶしに探されたら、遅かれ早かれ見つかるだろう。」
「倒せるとしたら、待ち伏せが出来る今だけなんですよ。まだ相手には今の位置は知られてません。奇襲を仕掛けて倒すしかないんです。」
「倒せる……?」
俺の質問にリーヴとギンは、目を合わせてすぐに俯いた。
「……今の僕達には、武器が何一つないんです。」
「銃が一つでもあれば……」
そう言えば、リーヴはガンナー部隊とか言ってたっけ……。
「リーヴ、近接戦闘出来ないの??」
「出来ない事はないが……、スパイは素早さが異常に高い。俺の近接戦闘レベルでは、攻撃がまず当たらない。かなり大振りになるからな。その場合、空振りした時に出来る隙がでかいんだ。そこに反撃される可能性が高い。」
「一時的にでも、動きを止める必要があるって事?」
「そう言う事だ。ただし、1人止めて俺が攻撃しようとしても、 もう 1人がいる。動きを止めて攻撃を当ててる間に、もう1人の方にやられる。」
「なら全員で手分けして、2人いっぺんに飛びかかれば?」
「ギンと凪は子ども型だ。特にギンは両腕がない。いくら素早さが高いと言っても、相手だって素早さが高いんだ。なら、故障持ちである以上………かわされる可能性が極めて高い。もともとギン達のは逃げる為の素早さだしな。スパイの素早さスキルとは、種類も違う。向かって行くのには向いてない。
そして、俺では まず動きを止めないと攻撃は当たらない。不意打ちをして、素早さで相手とやり会えるとしたら、踊り子のノアだけだ。かろうじてノアが一人と闘えたとしても、もう一人の相手をどうするか。誰かが体当たりでもして動きを止めれば、俺の近接で何とかなるかもしれない。だが、その瞬間そいつは速攻で反撃される。
その上俺の攻撃が降りかかるんだ。そんな状態で俺の攻撃だけを上手く避けるなんて出来るとは思えない。つまり、動きを止める役をする者は………犠牲になる可能性が極めて高い。」
目の前が、真っ白になった。
誰かが死ぬ確率が極めて高いって事……?
皆で乗り切るのは無理ってこと?
何これ?
逃げて1日で、俺達の誰かがすでにいなくなるの……?
せめて、俺が相手に気付かれたのかどうかわかっていれば……気付かれていないとわかってさえいれば、このまま逃げられたのかもしれないのに。
どちらかわらないから、逃げる選択が出来ない……。
愕然とした。
自分の甘さに。
知らなすぎる、自分の状態に。
どこかの地区のスパイだなんて、考えもしなかった。
もし、俺の立場にいたのが俺以外の誰かだったら……
すぐに身を隠して、2人だとわかった時点で追っ手ではないと判断し 、きっと叫ばず
に静かに素早くあの場を去って皆に知らせていたんだろう。
誰かが犠牲になるって言うんなら
ここで犠牲になるのは、間違いなく俺であるべきだ。
どっちにしても、話を聞く限り
その役をやれるのは俺しかいない。
「ごめん……皆。俺のせいだ。俺がやる。」
頭を下げたものの、怖くて皆を見る事が出来ない。
許して貰えるんだろうか?犠牲が一人では済まなかったら?
……そいつは、巻き添えで死ぬんだ。
状態じゃないよな……。
ギュッと目をつぶって どんな恨み言が来ても仕方が無いと覚悟していたのだが
いくら待っても、誰も答えない。
恐る恐る顔を上げて目を開けると
目の前には誰もいなかった。
「へ?」
すぐ横で、4人が輪になって勝手に話を続けている。
あれ?
誰も俺の謝罪と決意を聞いてなかった?
「有利な条件を生かしましょう。人数は、私達の方が圧倒的に有利よ。手分けして2人を引き離しましょうよ。1人だけなら、待ち伏せの利を生かして………そうね、罠なんてどう?ツルを張って転ばすの。そこにリーヴがすかさず攻撃!!攻撃さえ当たればいいんだから。転ばせましょう!!なんなら二人とも転ばせるとか。」
「この地域に、そんな長いツルを持った植物は生息してません。せいぜい、50cmほどの、このゴムツルぐらいです。しかもゴムなんで伸びます。転ばないかもしれません。」
「しかも俺はまだ片腕でのバランスに慣れていない。転ばせただけではなぁ……。確実に攻撃を当てられる……という保証が出来ない。」
「……リーヴさん、左腕での射撃ってどうなんです?」
「片腕になってからは一度も撃ってないから、わからん。こっちは利き腕じゃないしなぁ……。まぁ、どっちにしても銃がない。」
「いや、銃はないですが。即席でパチンコでも作れないかと思って。ゴムツルあるんで。」
「パチンコ使った事ないぞ?」
「あの…………皆?」
「そりゃそーねぇ。戦場でパチンコ使って闘ってる奴がいたら、腹抱えて笑うわww」
「ねぇ……皆………?」
「何処かに固定すれば、左腕でも何とかなるのでは?ガンナー部隊の隊長クラスなんですから。狙撃スキルかなり高いじゃないですか。」
「お前……ハードル上げてくれるなぁ」
「ちょっと!!!!皆さん!?聞いてくれますか!?男が頭を下げて謝っております!!!決意を語っております!!ガン無視とは、これいかに!!?」
全く聞いてくれないので、無理矢理割って入った俺を やっと全員が見た。
「あら。やっと戻ったわ。つーかやめてくれる?あんたがショボくれるとか、似合わなすぎてキモイから。」
「謝る暇があるなら意見ください。頭を下げて今の状況が何か変わって良くなると言うのなら、別ですけど。あ、それとも変わるんですか?策なんですか?ならば、いくらでも。頭を下げるなんて甘っちょろい事ではなく、どうせなら土下座してください。」
「お前がそんなんだと俺も調子狂うな。やめてくれ。士気が下がる。どうせなら士気を上げてくれ。」
2人はまぁ、いいとして。
なんか1人………くっそムカつく!!!!
よくそこまで、言葉がスラスラと出てくるなぁ!?このクソガキが!!!!
思いっきりギンを睨むと、ギンはニヤッとほくそ笑んでいた。
なんか、やられた感がする。
こいつわざと憎たらしい事言って、俺怒らせて。
俺の罪悪感 根こそぎ消しやがった。
「はぁ…………。パチンコ、俺も賛成。」
ため息をついて、手を挙げる。
「遠距離で1人の動きを止められるなら、二手に別れてわざわざ引き離す必要もないしさ。1人をパチンコで動きを止めて、その瞬間にもう一人の方を先に倒す。
そしてその間に、パチンコで撃ったリーヴがパチンコで動きを止めた奴をやる。とか?」
「パチンコ撃つ人……まぁ、リーヴだろうけど。それと、もう1人の方を倒す人。私?……何よ。結局二手に別れるじゃない。」
「いち。パチンコで動きを止めるやつ、そんな長く止まるか?もう一人をノアがやってる間に、パチンコで止めてたそいつはノアに飛びかかるぞ?パチンコってのは距離が長い程威力が増すんだ。撃ってすぐ俺が駆けつけるまでを考えると、ほとんど足止めにはならん。」
「引き離すとなると、俺達だって結構離れちゃうじゃん。お互いに場所がわからなくなっちゃったらどうやって合流すんだよ?
パチンコで……なら、そこまで別々にはならない。距離も、そんな長くしなくていい。短くていいんだ。そうだな……すぐ近くの木の影からでいいよ。近いからパチンコ組はもう一人と闘う組の場所だって目に入れていられるし、撃ってすぐに駆けつけられる。」
「パチンコ……組?」
「うん。リーヴともう一人必要になるよ。玉は、これだもん。」
俺が差し出した手に乗っている物を見て、皆の口が開いた。
「あぁ………なるほど。面白いですね。」
「左腕で、しかも慣れないパチンコを撃つ以上……確実に当てるとなると、玉はでかい物にするしかないとは思ったが……でかい石となると重さで射程が狂う。……うん。でもこれならイケるな。当たった時の威力も申し分ない。当てさえすれば、かなりの時間そいつを止められる!!パチンコを撃ってすぐに、俺が飛びかかって攻撃をする。」
「まぁ、別にパチンコじゃなくて投げてもいいんだけどさ。出来れば勢いも+した方が威力は確実でしょ? 」
「うん。うん。じゃあ、私が隠れとく係?パチンコで1人の動きを止めた瞬間に飛び出して、もう1人の方をぶん殴ってボコボコにしてればいいのね?なんなら、そいつボコッてから パチンコを当てたもう一人の方も私がボコボコにしてやろうか。」
「いやいやいや、一人を確実にやってくれ………。その馬鹿力は、ほんとに出来そうで怖いけどな……。でも、パチンコが正確に当たらないと、ノアが危なくなる。リーヴ、撃ってから相手までに当たるまでの時間って、だいたいわかるもの?」
「うーん……。多分わかる。でも俺、いつも感覚で撃ってたからなぁ。」
「あ、いいです。僕が計算します。時間から距離を割り出せばいいんですね?リーヴさんは、凪とすぐにパチンコ作りを。片手ではキツイでしょう?」
「わかった。凪、来い。」
コクンと頷いて、リーヴの元に走り寄る凪ちゃん。
お父さんと娘みたいだな………。
「いちさん。当たるまでの時間、どのくらい必要になるかわかりますか?」
「そりゃもう。
一粒ちぎってから、爆発まで3秒ピッタリ。ついさっき、くらったばっかりだからね。」
俺は、手の上に乗っている ぶど……豚を顔の横に当て、堂々と答えた。
心中しようとして爆発するくらいだ。食べ物を粗末にするな、なんて怒らせねぇよ?
怒るんなら爆発なんてせずに、大人しく食われるべきだったな。
さぁ、豚よ。
パチンコの玉として、堂々と潔く爆発して来い。




