12話.俺の名前
敵のスパイ………。
あまりのショックに言葉を失っていると、ノアが口を出して来た。
「ちょっと待って?スパイって事なら、第3·第4に限った話じゃないでしょ?なんでこの2つなの?」
「簡単な話です。身体機能の低さですよ。第3·第4の2つは、頭脳派の集団が治めている地区です。あそこのアンドロイドは、頭脳的スペックばかり上げていて、肉体的スペックにはほとんど手をつけません。
1番さんは、さっきから随分と身体機能が低い様でしたので………。もしスパイなら、この2つの地区のどちらかのスパイである可能性が高いのでは、と。」
…………ん?
「今、なんて?」
「はい?」
「ギン、今俺をなんて?」
「スパイでは?と。」
「や、違くて。俺の事を変な呼び方……」
「え、あ。1番さん。」
「何それ!?」
「名無しさんと呼ぶのも失礼なので、1番最初に目を覚ました………という所から、1番さんでいいかと。1番という数字は、優劣で考えれば 優 ですので、失礼には当たらないかと。」
「えぇー…………なんかギンなりの優しさは垣間見えるけれども………優しさを使うポイントがズレてるというか、何と言うか……」
「あんたが1番っていうのは私も気に入らないわね。1番トロイし、1番馬鹿だし………あ、1番って合ってるかも!!!」
おい。
「じゃー、もう “いち”でいいんじゃねーの? 番つけんの面倒くせーし、名前って感じしねーし。いちにしよーぜ。いち。これなら名前っぽいだろ?」
面倒くさい という所を聞かなかった事にすれは、とても嬉しいよリーヴ……。
結局、ひょんなことから俺の名前は『いち』に決まった。
いきなりだったし、名前の由来がびっくりする程単純だったけれど ……
自分の事が何もわからず、名前さえ持っていなかった俺にとっては、 めちゃくちゃ嬉しい事だった。
「ねぇ、ギン。今出た第3区とか第4区ってなんなの?ごめん、俺それもよくわかんなくて。ここは何区になるの?」
「あ………、そうですね。記憶がないのだからそこから説明しないと、いちさんにはわからないですよね。失礼しました。」
そう言って、ギンはペコリとお辞儀した。
俺の事をスパイとか言い出したから、敵対心剥き出しにしてくるかと思ったけど………。
いい子だ……。
「さっきの僕の話をきちんと聞いてくれていたのなら、ここが2区という事は分かる筈なのですが………おかしいですね。僕は第2区に所属しているアンドロイドのデータと言いましたし、リーヴさんのデータを言った時も第2区所属の………と言った筈なのですが、おかしいですね………。うん……おかしいですね。おかしい。……おかしいですね。おか………」
「すいません!!すいません!!それは俺が悪かった!!確かに言ってた!!言ってました!!」
一瞬ギンが壊れた。
「えー……、では。
今、この日本は全部で8つの地区に別れています。そしてその8つの地区は、お互いに相手の地区を手に入れ、自分の地区を拡大させる為に 領土の奪い合いをしている状態です。」
た……大変な世の中になってるな……。
戦争………まさに、あちこちで戦争してるって状態なのか……。
「じゃあ、俺は……お前らがいるこの第2区を奪う為に……?」
「“もしスパイなら”と、言いましたよ僕は。」
「へ?」
「スパイかもしれないと言うのは、あくまでも可能性です。僕が持ってる第2区所属アンドロイドのデータに名前がないから、もしや……と思ったのですが。もしかしたら………いや、多分……」
ギンが、ギリッと歯ぎしりをした。
おや?温厚なギン君、なにかお怒りで?
また壊れたか?
「もしかしたら、僕でも盗み切れなかった極秘のデータが存在していたのかもしれません。」
「極秘の……。え、ちょ、なんて?盗……?」
「盗みましたけど。」
「それ、やっちゃダメなやつ!!!!!」
「情報なんて、奪ってなんぼの世界ですから。盗んだもん勝ちですから。盗まれる方が悪いんです。」
なんてことだ……
ここは、子どもがこんな事を口にする世の中なのか………。
「それでですね。僕が持ってる第2区所属のアンドロイドのデータの中に名前がないの、いちさんだけじゃないんですよね。」
「え?」
「もう一人、居るんですよ。データに名前のない者が、この中に。」
「え………?……それって……」
まさか………?
ギンの視線がチラリと動く。
その視線の先には、黙ってリュックを抱きしめて座っている 凪ちゃんがいた。




