第58話.ネオの声
ひとまず、俺達は出発の準備を整えた。
記憶がない俺にとっては、ここの2区も新天地だったんだけどさ。
皆にとっては本当に新天地な訳で。
戦争で攻めたことがあるリーヴが知っている情報しかない状態だ。
だから、シュカさんが同行を申し出てくれた時は本当に嬉しかった。
第2区のナンバー5の討伐、2区の探知機能入手の阻止の成功。
メルの正体については伏せてくれたが、“久遠達人間に味方する、第2区からの脱走アンドロイド組”という俺達の存在にシュカさんのリーダーが興味を示したらしく、シュカさんの俺達への同行を許可してくれたのだ。
まぁ、ギンいわく……
「ずる賢い頭脳派のリーダーですから。僕達という異端な存在を自分の監視下に置いておきたいのでしょう。
そして、シュカさんはシュカさんで、堂々と第1区に行く口実が出来た訳ですから、嬉しくて仕方ないでしょうね。……って、おや?シュカさんはどこへ?」
「出発前に風呂入って来るって」
「気持ち悪いんですけど!!」
「まぁまぁ、出発前ぐらいならいいんじゃない?」
「あの人朝2回風呂入ってましたけど。」
「気持ち悪いんだけどー!!どこ洗うの!?もう洗う所ないじゃん!!」
「心ですよ!!あの心の汚さは、簡単には落ないのでしょう!!」
「むしろ3回じゃ落ちねぇだろ!!」
「言いたい放題やなぁー」
ギャアギャアと騒ぐ俺とギンを見て、久遠がこらえきれずに笑っていた。
「久遠!!そっちはどお?」
「おぅ。最後にナッツが乗っとったダイヤモンドキメラ2匹な、いちはんの電流ですぐもう1匹にリンク移してナッツ逃げおったやろ?残ったダイヤモンドキメラの方がな、そのまま落下して置いてかれてんやんか。」
「きぃちゃんみたいに、仲間に出来る!?」
「せや。幸い、元からこっちにはきぃちゃんがおるからな。お互い捨てられた同士や。説得も楽やったで。
今ノアの姉ちゃんがへばりついとるわ。」
ダイヤモンドキメラが2体……。
これはでかい……!!
「…つーか、ちょっと待って。
久遠、何それ。何その背中。ちょっと何それ。」
「…え。」
俺に言われてクルリと後ろを向いた久遠の背中には、メルがベッタリと引っ付いていた。
4本の足、全てが爪を立てて。
それはもう、しっかりと。
「かっ……………可愛いっ……!!」
「一体化してますね。何してるんですかメル?」
「アゥ……」
ノックアウトされた俺の横で、全く動じていないギン。
メルは久遠の背中に押し付けていた顔を上げて、プルプルと震えながら涙目でこちらを見つめた。
「可愛い!!!!」
「うるさいんですけど。凄いですね…いちさんの萌え沸点の低さ。羨ましいです。」
「お前が変なんだよ!?あれ見て萌えないって…ちょっと俺は悲しいよギン君!!お前それ、子どもとしてどうなの!?」
「子ども扱いしないで下さい!!メル!!いつまで、そんな所に引っ付いているんですか!?大体あなたそんな所で何をしているんです!?」
「メル、おいでおいでー!!怖いねぇこのギン君は。
ほーらほら、そんな所にいないで、こっちにおいでー!!」
「そんな所って、何やねん!!!」
どうやら、メルは久遠とノアにくっついて きぃちゃん’Sの元に行ったらしいのだが、その際きぃちゃんに舐められた時に勢い余って口の中に入ってしまった様だ。
食べられるという恐怖心から、速攻で久遠の背中にしがみついて部屋を出たがった為、今こうしてここに一緒に来たという訳だ。
確かに、大きさが像とアリみたいなもんだからな……
きぃちゃんがじゃれたら、メルは踏み潰されそうだ……。
なんとか久遠の背中からメルを引きはがして、腕の中にメルをゲットした俺は ハッと我に返った。
「…久遠……莉音ちゃんの様子は?」
「…さっき少し起きたんやけどな。また眠ったわ。」
「…そっか…」
莉音ちゃんの怪我は予想以上に酷く、手術は成功したものの絶対安静が必要な状態だ。
皆で話し合った結果、体がある程度回復するまでサクの事は黙っておこうという事になった。
「……まぁ…合流したら、そん時に俺から話すわ。」
「うん……」
……ん?合流?
「え!?合流って…もしかして久遠も俺達と行くの!?」
「当たり前や。俺ら人間の安住の地探しやで!?リーダーの俺が行かんでどーすんねん。」
「でも…久遠がいなくてコロニー大丈夫なの?」
「…皆、色々思う所があるみたいでな…。なんやびっくりするぐらい、しっかり前見ようと頑張っとる。
せやから、俺もあいつらの為にもどんな危険が待っとろーが飛び込むで。
皆で生きてく為の場所、絶対見つけんねん。」
ほんと、久遠は凄いなぁ。
俺はまだ皆の主人として全然ダメダメだから、リーダーのお手本みたいな久遠には憧れる。
「…それにな、いちはん。俺もまだ言ってへん事があんねん」
「…?」
「初めて会った頃な、いちはんが記憶喪失って聞いた時に、俺が少し驚いてたの覚えとるか?」
「……?」
「覚えてへんか。やっぱ一発殴ってみた方ええんかなぁ。」
「覚えてます。思い出しました。」
「…ほんまかいな。……まぁ、実はな、俺中野博士に昔言われた事あんねん。」
「……何を?」
久遠は、少し黙って手を口元に当てていたが、決心したかの様に俺の方を見上げて俺の目を見て言った。
「中野博士にな、いつか記憶を無くした少年と出会うかもしれないから、どうかその少年の力になってやってくれって。」
「…それって…俺の事?」
「俺は、そうやと思う。普通に力になりたいって思うしな。」
「……」
嬉しかった。
なんで中野博士が…?という疑問はあったけど、それでも久遠の言葉は素直に嬉しかったんだ。
そんな時、ノアが物凄い勢いでドアをぶち破った。
「……普通に入るという事がなぜ出来ないの?別に鍵かかってないんだけど。」
「緊急感が伝わると思って。」
緊急感ってなんだよ。
「…で?どうしたの?」
「黒子の鷹って、何匹か結界の中に入れてるじゃない?」
「ああ、うん。外の鷹は結界の中に入れないからな。」
「その、中に入れてる鷹の1匹に……ナッツが強制リンクして来たの!!」
「はぁ!?黒子の鷹なのに、ナッツリンク出来るの!?」
「普通は無理なんだけどね。黒子も、結界の中だからって油断してたみたいで…。明らかな実力者のリンカーは、条件が整えばリンクの乗っ取りが出来るのよ。
まぁ…そんなん出来るのはナッツぐらいなんだけどさ。」
そうだ、ナッツは馬鹿でもナンバーだ。
油断してた…!!
「今どこ!?」
「捕まえたじゅんの牢の中。見張りの為に鷹を入れてたのがアダになって…」
「とにかく行こう!!」
俺はノア、久遠、ギン、腕の中にメルを連れて じゅんを拘束している牢に走った。
薄暗いその部屋に入ると、縛られたままのじゅんと、その目の前の椅子に止まっている黒子の鷹がこちらをクルリと向いた。
見ただけでわかった。
ナッツが鷹を乗っ取っているという事が。
『どぉもぉ~♪なかなか良い鷹ですねぇ。リンクするの苦労しましたぁ~』
その部屋にいたリーヴの後ろに隠れながら、黒子が悔しそうな顔をして鷹をニラんでいる。
『あ、怖いなぁ~。心配しないで下さいよぉ。こんな鷹じゃ、なーんにも出来ませんよぉ~』
「…じゃあ、何しに来た?鷹じゃ、じゅんは助けられないぞ?」
俺の言葉に、ナッツはケラケラと高笑いした。
『違いますよぉ~。今日はぁ、どうしてもネオ様が話したいって言うからぁ~リンク乗っ取り頑張りましたぁ~』
……ネオ!?
鷹のリンクって、ナッツだけが話せるんじゃないのか!?
ネオも話せ……
『……やぁ。』
声を聞いた瞬間、体中がゾクッとした。
第2区のリーダー、ネオ。
俺はこの時初めてこの男の声を聞いた。




