第56話.想いと願いを受けて
コロニーの自爆は凄まじく、侵入して来た2区と6区の兵士達は 跡形もなく吹っ飛んでしまっていた。
自爆してしまったコロニーは、もはやネオにとっては用済み以外の何物でもないのだろう。
それは6区にとっても同じだった様で、偵察と思える兵は1人もいなかった。
おかげで俺達は、サクが残した物を見つける事が出来たのだ。
表面はコゲてしまっていたものの、中身はほぼ無傷という、サクが託した最後の希望。
莉音ちゃんが手術後、まだ目を覚ましていない事が唯一の救いなのかもしれない。
俺は、ほぼ3日ぐらいだと思う。
現実が受け入れられず、ただ呆然とサクとの思い出を何度も何度も頭の中で再生していた。
サクが作ってくれた手袋をはめた手を、ずっと見つめながら。
「いち。」
隣にノアがちょこんと座り、俺の顔をのぞき込んできた。
「サクの事考えてたの?」
「……うん。」
「ずっと?」
「…うん。……忘れたくないなって、思って。…絶対、忘れたくないなって。」
すると、ノアがキョトンとして言った。
「大丈夫よ。いちは忘れまくってるんだから、脳みその容量なら腐る程開いてるんじゃない?
てか、もう腐ってるんじゃないかしら。使ってないもの。」
「…俺、最近お前を尊敬しそうだよ。」
「はぁ?遅くない?」
「………」
ほんとに、ある意味尊敬してしまいそうだ。
「リーヴやギンは?」
「どっちも、ショボくれてるわ。まぁ…二人共、サクの義手を貰ってるし……。義手眺めながらボケーッとしてる。」
「……凪ちゃんは…」
「………ずっと泣いてるわ…」
一番心配なのは、凪ちゃんだ。
人間探知を持っている凪ちゃんにだけは、サクが中野博士のコロニーではなく地下コロニーに向かった事に気付いていたはずだから。
それを考えたら、じゅんを一人で止めようとした…あの時の無茶苦茶な凪ちゃんの行動に少しだけ納得してしまったんだ。
絶対に自分を責めてる。
そして、恐らくは責められる事さえ覚悟しているだろう。
サクの性格上、あらかじめ凪ちゃんに気付かれる事を想定して口止めをしていたに違いないんだけどさ…。
サク…随分と残酷過ぎることをしたね。
辛かっただろうな…。
サクも、凪ちゃんも。
俺は椅子から立ち上がり、凪ちゃんの姿を探した。
コロニーの、本当に隅っこ。
そこに体育座りをしたまま顔を伏せている凪ちゃんを見つけた。
隣では、凪ちゃんの体にじっと身を寄せて、俺をただ見つめているメルがいた。
メルの目が、助けて と訴えているのがわかった。
ああ、ごめんメル…。
ずっと待ってたのか。
俺は皆の主人なのに、あまりのショックで自分ばっかりになってた。
ほんと、ダメダメな主人だなぁ…。
「凪ちゃん。」
声を掛けると、凪ちゃんの肩がビクッと揺れた。
俺が頭を撫でようとしたその瞬間、まさかのノアが凪ちゃんに物凄い勢いで抱きついた。
「凪ちゃんっ……!!辛かったね、辛かったね…!!」
「…っ…」
あれ?
「凪ちゃん。凪ちゃん。誰も凪ちゃんを責めたりなんかしないのよ?
凪ちゃんは悪くないの。
もし責める奴なんかがいたら、私殺す…。殺すわ!!」
おい。
なんだこの猪突猛進な馬は。
凪ちゃんは、目から涙をポロポロと流しながらも首を必死に振った。
「…ノア。ちょっとお前、あっち行ってなさいよ。」
「嫌!!」
凪ちゃんをギュウッと抱き締めるノアを見て、メルも凪ちゃんにギュウッとしがみついた。
ダメだこりゃ。
「…凪ちゃん。凪ちゃんが自分を責めてる今の姿をサクが見たら、サク泣くよ?」
「………」
「サクの為にも、凪ちゃんは自分を責めちゃダメなんだよ?…もし逆の立場だったら、凪ちゃんはとても悲しいでしょ?」
「………」
凪ちゃんの目に、たくさんの涙が溜まる。
「…すぐに切り換えろってのは、難しいよね。
わかるよ。
俺も……同じだもん。」
凪ちゃんの頭を撫でると、凪ちゃんの目に溜まっていた涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「…絶対に、忘れないようにしよう。
この辛さも、悲しみも、サクの思いも。
じゃないと、サクの思いも願いも、全てがなくなっちゃう。
それだけは、絶対にしたくないよね?」
「………」
凪ちゃんは、泣きながらコクンと頷いた。
「サクの願い、一緒に頑張って引き継ごう?
絶対に叶えよう?」
凪ちゃんが声をあげながら泣き出した。
声が出ないから、実際には静かな泣き声だったんだけど。
顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
ノアは、そんな凪ちゃんをもっと強く抱き締めた。
そうだ。
サクの思いを。願いを。
叶える為に、出来る事をしなくちゃいけない。
俺は、その場でコロニーの皆に聞こえるような声で叫んだ。
「ごめん!!皆に話があるんだ。」
皆が俺の言葉を聞いて、次々と集まってくる。
リーヴとギンも、俺の近くの椅子に座って俺を見つめていた。
これからの話をするのだという事は、皆気付いているのだろう。
俺は、精一杯の声で皆に向かって決意を言葉にした。
「この2区を、出ようと思うんだ。」
俺の言葉に、全員が目を見開いている。
当然だよな…。やっと安全な場所が手に入ったと思っていた矢先なんだから。
「ナッツに、ノアの顔も見られてるし、もうネオがいつここに来てもおかしくないんだ。」
「でもっ…電磁波結界があれば、ネオだって入れないよ?」
一人の少年が、不安そうに俺に言葉を返した。
「うん。この中にいれば安全だよ?今、ここの中にいる人だけはね。
でも、ここの場所自体はネオにはもうばれてるんだ。たぶん包囲網とか張って、ずっと見張る事だってしかねない。」
「それに…、外の…。他の地区の人間は結界持っとらんしなぁ。ここにいる人間しか安全っちゅーもんがナイのが現状やしなぁ」
「サクは、他の人間も助けたがってた。だから俺ね、他の地区に行ってまだ無事な人間達に、この結界について伝えてあげたいんだ。
人間にとって安全な場所はあるんだよって。」
「んで、結界で守る人間を増やして行こうっちゅーことか…。けど、そうなるとこのコロニーじゃ狭くなってまうなぁ」
「うん。それにこのコロニーは、一応2区の領土でしょ?2区の領土って、なんだかんだ言って人間には凄く危険な地区だと思うんだ。
…そりゃあ、他の地区だって安全なのかは、まだわからないけど…」
「でも、この第2区を出て、どこに向かうねん?」
俺は一度目を閉じて深呼吸をしてから、再び久遠の目をしっかりと見て答えた。
「…第1区。」




