第54話.最愛の別れ
中野博士のコロニーに着き、まず驚いたのは思っていたコロニーよりもかなり小さいコロニーだったという事だった。
電磁波結界が完成するまでのつなぎとして地下コロニーに住んでたって久遠は言ってたけど、これ…地下コロニーの人間全員が戻って来た時に入りきれるのかと言われると、かなりビミョーだと思った。
そんな俺の考えていた事に気付いたのか、久遠が俺の隣に来て懐かしそうにコロニーを見つめながら笑った。
「……思ったより狭いやろ。」
「……はは…。うーん…」
「嬉しい誤算やってん。」
「誤算?」
「1つは地下で生活しとる時にな、人間が殺される数が激減した事や。
もう1つは、生きてる人間をかなり保護出来る程までに俺ら戦闘員がそこそこ戦える力を手に入れられたっちゅーことやな。」
それでも。せっかく保護して増やす事が出来た人間を、ナッツのチビキメラに何人も殺されてしまった。
それに…………。
俯いて肩を震わす俺を見て、久遠が俺の肩を抱いた。
久遠の肩も震えていた。
ベットの上で治療を受けるたくさんの人々。
懸命にその手伝いをするノアとギンと凪ちゃん。
ただ一人、リーヴだけは端っこの椅子にただ黙って座り、大きめの箱をずっと眺めていた。
俺はリーヴの側に歩み寄り、そっと声をかけた。
「…リーヴ。…せっかくなんだから、付けてみたら?手伝うよ」
「……そうだな……」
ギンの義手を付ける時にも手伝ったので、だいたいの手順は俺も知っているからだ。
リーヴは丁寧に箱を開けた。
「…す…凄い……」
思わず息を呑んでしまう程の、義手。
見た目はギンの時と同じ様な機械丸出し感満載なのだが…
とにかく細かい。
物凄く細かい。
細い筒のようなものが幾つも交じりあっていて、目が回りそうになる。
でも、これはリーヴの為だけの義手だと、すぐにわかるんだ。
「……この筒のやつって……」
「…全部…銃だなぁ……」
リーヴが優しく笑って義手を見つめた。
「……リーヴ、俺、付けていい?」
「…あぁ、頼む。」
箱から義手を出し、リーヴのひじの部分にねじ込んで半回転させる。
カチリと音がして、接続が可能になるとリーヴが静かな声で呟いた。
「コネクター」
キィィィン……という耳鳴りに近い音と共に、リーヴの右ひじが淡く光出した。
光が消える頃には、リーヴは右の指をカチャカチャと動かし、接続が上手くいった事は誰が見ても明らかだった。
動く右手を見つめ、寂しそうにずっとだまり続けるリーヴ。
俺は、もうそれ以上は何も言えなかった。
するとリーヴが、腕が入っていた箱から黒い手袋のような物を取り出し、俺に渡して来た。
「…?…手袋?俺寒くないよ?むしろ暑いくらいだよ?」
「違う。おそらく、これはサクからお前にだ。」
「……サクから…?」
手袋が入っている袋の中には、小さなメモのような物も入っていた。
[いちさん、電気を使う攻撃をすると、リーヴさんに聞きました。
あなたは優しいから、他の近くにいる皆にも感電させてしまうかもしれないと考えてしまい、使うのに躊躇してしまうでしょう。
だから、あなたが誰に遠慮する事なく、皆を守る為の力を使える様にと、密かに作っていました。
この手袋は、電気を通しません。敵と戦う時にだけ外せば大丈夫です。
いちさん、とても。とてもおこがましいお願いをしてしまいますが……
どうか。どうか。
1人でも多くの人間を助けてあげて下さい。
僕はいちさん達に会えて本当に良かった。どうか1人でも、そう思える人間が増えますように。願ってます。
PS.どうか凪ちゃんを責めないで下さい。僕が頼んだ事です。
サク]
溢れ出る涙が止まらなかった。
手袋を握り締めて泣きじゃくる俺を、ノアはそっと後ろから抱きしめてくれた。
俺が泣いている声が届いたのか、凪ちゃんも耐え切れなくなってしまい…
その場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。
その場にいた人間、全員が次々と涙を流した。
居るはずだったんだ。
ここに。
戦いを終えてここに来た時、お帰りって言って迎えてくれるとばかり思ってた。
思ってたのに………。
ー………サクが死んだ。
信じたくない事実に、心が押しつぶされそうだった。




