第50話.凪の出陣
「とにかくメル。探知機能をオフにして?
正門前の事は、黒子の鷹でわかるから」
「……アイサ。」
メルの目が、クリクリとした黒色に戻る。
その瞬間にメルは俺の腕からポテンと落ちた。
「……ムキュ」
「メル!?大丈夫!?」
「…アゥ」
連続して探知機能を使わせすぎた…。
エネルギーがほとんど残っていないんだ。
「凪ちゃん、リュックを……あれ?凪ちゃん?」
メルを抱き抱えて振り向いたものの、さっきまでそこにいた凪ちゃんの姿が見当たらない。
「…凪ちゃんは!?」
「……え?」
俺の声に、話し合っていた久遠とノアが振り向く。
薄暗いからか、ノアには視界が悪い。
俺と久遠で手分けして本棚の影を探したが、凪ちゃんの姿は見当たらない。
「…なんや…?どこ行ったんや!?」
「凪ちゃん!?」
久遠とノアが必死に声を掛けて探すものの、凪ちゃんは言葉が話せない。
返事がある訳がなかった。
「………ギン……」
言いようのない不安感がふつふつと沸いてくる。
「…ギン!!」
俺の声に、電話口のギンが言葉に詰まっているのがわかる。
「さっき…凪ちゃんと何を話してた?」
『………』
「…え、ちょっと待ってえや。凪ちゃんと話すって…電話でどうやってギン坊が話すんや?」
「…いち。凪ちゃんは声が出ないのよ?
やだもう……。頭が悪いにも程があるわ?どうしよう…一度思いっきり頭を殴ってみた方がいいんじゃないかしら。」
この女の怖い所は、これを本気で言っている所だ。
お前に頭殴られたら間違いなく死ぬわ。
「話してたよ。ギンは凪ちゃんと。
だよね?ギン。」
『………』
「いや、だから……どーやってや?
あかんわぁ…俺も殴ってみよか?」
「そうね。一人より二人だわ。一気に直るかもしれない。」
「アホか!!電化製品じゃねんだよ!!久遠まで一緒になって何言ってんの!?馬鹿はノアだけで十分だから!!」
「……っ……」
ほんと、心の底から自分は馬鹿ではないと思っているノアの、馬鹿と言われた時の驚いた顔が凄いな。
「ギン。話してたよね?凪ちゃんがケータイを指で叩いてたのって、あれモールス信号でしょ ?」
『……はい。』
「は?ギン坊モールス信号分かるんか!?そんな古典的なん使うの人間ぐらいかと思ってたわ。」
「…で?何を話してたの?」
『…凪は一度じゅんと戦って、逃げ切る事に成功しているんですよ?』
「……え?…ちょっと待って?じゃあ…まさか!?」
俺は窓に向かって全力で走り、外を見た。
建物の外には、1人全力で武器庫に向かって走って行く凪ちゃんの姿が見えた。
「凪ちゃん……まさか一人でじゅんを武器庫に閉じ込めて戦う気か!?」
「何それ!?嘘でしょう!?」
「メルをリュックに入れぇや!!姉ちゃんリュック頼むわ。凪ちゃん追うで!!」
久遠は床に置かれていた凪ちゃんのリュックにメルをそっと入れて、それをノアに渡した。
ノアは頷き、リュックを背負う。
メルの存在の大切さは、ノアだってよくわかってるんだ。
この中で一番強いノアなら、大丈夫だ。
『いちさん!!落ち着いてください!!凪は強い。きっと5番をあの武器庫に閉じ込めておいてくれます!!
僕たちはここからどうするかを!!』
ハッとした。
頭が混乱していて、今にも皆で武器庫に走ろうとしてたものの、よく考えたら行ったって俺たちは中には入れないんだ…。
『凪を信じるしかありません。』
「簡単に言うなや…相手はナンバーの5番なんやぞ!?」
「俺達は、どうするべきなの?ギン。」
『久遠さんは、正門前の援護に。正門前には赤金がありますから、蛹はノアさんにお願いします。』
「けどっ、凪ちゃんは!?」
『いちさん、あなたとノアさんは、ナッツとの戦いに集中して下さい。正門前が片付けば、シュカさんと久遠さんをそれぞれに応援に向かわせます。』
「でも、それじゃあ怪我してる莉音ちゃん達を中野博士のコロニーに連れて行く事が……」
『楓さんと、そのガードとしてリーヴさんがすでにそっちに向かってます!!
こちらの目的は達成しましたし、襲ってきていたシュカさんの部隊ももういません。生き残っていたシュカさんの部下の方が何名か、ここの守備を担当してくれるそうなので、こちらは心配いりません。』
「目的を達成した……?
電磁波結界の、最後の1個を見つけたの!?」
『はい。』
良かった……!!
これで、後はここの敵を一掃すれば
しばらく皆には安全が確保出来る!!
俺達がガッツポーズをして笑顔になった、その瞬間だった。
俺達が隠れていた建物の窓が激しい音とともに割れたのだ。
「……!?」
全員が身構えて割れた窓を見たが、誰もいない…。
すると、外から声が聞こえてきた。
「ほんとに忍び込んでんのかぁ?」
「だって人間だろー?味方してるアンドロイドとかマジでいんのかよ?
信じらんねーんだけどー。」
「まぁ、一応知らべるだけ調べとこうぜ。ナッツ様今機嫌悪いからなぁ。」
メルが言っていた、敷地内にいる敵兵6人のうちの何人かだ!!
息を飲んで隣を見ると、すでにノアが身を屈めて臨戦態勢に入っていた。
けど、ここは薄暗い。
ノアの視界が悪い以上、下手にエネルギーを使うのは避けたいんだよな…。
反対側の久遠は、持って来ていたという代わりの刀を構えている。
「…ノア、何人いるかわかる?」
小声で言った俺に、ノアは4本の指を立てた。
「その4人は、俺と久遠でやる。
ノアはメルをお願い。
エネルギーはナッツの時まで溜めておいて貰いたいから」
ノアは渋々ではあるが、コクンと頷いた。
「いちはん、電気は使わん方がええで?まだどのくらいエネルギー使うかわからへんからな。」
「…うん。」
俺は、リーヴから預かったレールガンを足のホルスターから抜き取ると、本棚に向かって構えた。
窓から入ってくるとしたら、多分一番近いこの本棚の間を通る。
ここには1冊分の隙間があるから、向こう側から敵がここを通った瞬間にレールで射線を取って素早く撃つ。
これがベストかな。
俺は記憶がある時は、銃とか撃ってたのだろうか?
チビキメラ達に向かって銃を撃ってたあの時は、俺には銃の腕はないなって思ってたけど……。
今手に持っているレールガンを見つめていると、なんだか不思議な感覚に陥る。
このレールガンと全く同じ物ではないだろうけど、俺は多分…レールガンって物を使った事があるんじゃないかな…?
パキ……
割れた窓のガラスを踏む足音が部屋に響いた。
建物の中に入って来たんだ。
俺たちは本棚の影に身を隠し、声を殺した。
最初に動いたのは久遠。
最後に窓から入って来た敵兵の後ろに回り込み、素早く首を切った。
そのまま倒れ込んだ敵兵を抱き抱えて部屋の奥に隠す。
[隠れて敵を減らすなら、一番後ろから。]
久遠に戦闘について色々教わっていた時に聞いた事の1つだ。
俺は前を歩く二人の兵士が通り過ぎてドアの方を調べているのを確認した後、少し後ろを歩く兵士の頭にレールガンを向けた。
兵士は自分の頭の部分に赤い射線が伸びていることに気付いたのか、先に行った二人に何かを言おうとしていたが、俺が引き金を引く事の方が早かった。
発砲音で気付かれるかな?とも思ったけど、そこはリーヴ様様です。
サイレンサーを
付けておいてくれたんだ。
久遠が、俺が撃った敵兵を部屋の隅っこに移動させてくれた。
残りは兵士2人だ。
その2人は、入口で何かを話している。
まだ仲間が2人やられた事には気付いていない様だ。
慎重に二人の後ろを取り、手にしていたレールガンを握った瞬間
その2人が会話を始めた。
聞いてる暇なんてない。
そんなのは誰もがわかっていた事なんだけど……。
その2人の会話を聞いた瞬間、俺は持っていた銃を床に落としそうになってしまった。
「ナッツ様が機嫌悪いのってさぁー、あれだろ?ネオ様関係だろー?」
「そりゃなぁ…。ここまでやったのに、撤退命令はないよなぁ。」
………撤退命令!?
「ナッツ様も、何回も説得したみたいなんだけどな。ネオ様のご乱心っぷりが酷すぎて、ほとんど話さえ聞いて貰えなかったって感じらしいぞ。」
「ネオ様は、ノアちゃん命みたいな所あるからなぁー。そのノアちゃんがいなくなったとなれば、もう人間コロニーの相手なんてしてる場合じゃないわな。」
「いや、でもさ。ここだけの話……一番の原因はノアちゃんじゃないって話だぞ?」
「なにそれ………っ…え!?」
「なんだ?」
「お前っ…頭にロックされてるっ……レールガンだ!!ふせ…」
パシュンッという音と共に、レールガンで射線を取っていた男は倒れ込んだ。
顔を上げると、横の本棚から飛び出した久遠が、残り一人の首を斬り飛ばした所だった。
再び静かになった建物内。
『…シュカさんが言っていた、援軍が来ないという事がハッキリしましたね。』
ノアがいなくなったことを知ったネオが、ぶち切れてご乱心中……か。
でも…
一番の原因は、それじゃないって……どういう事だろう…?




