⑨
賑わいのある道の端までやって来た。出店はそこまでで、右側には花が売られていたりする。ざっと歩いてみて思ったのは「少し減ったかな」という事である。記憶よりも店の数が減っているように感じる。もしかすると齟齬があっただけなのかも知れないが、もっと賑やかだった印象がある。渡邊に訊いてみると、
「う~ん。どうだろうな。確かに少し減っているように見えるけど…」
と大体同じ印象を抱いたようである。自分達の時から少子化などが語られていたけれど、祭りでお金を落としてゆくであろう子供の数が減れば当然商売も続けにくくなる。今はその傾向が強いから恐らくは何かしらの影響があるのだと思う。それでも何となくこの文化は続いてゆくだろうと思うのだ。
「じゃあ引き返すか」
提案すると渡邊は頷いた。ここに来るまでに少しお土産になりそうなものを眺めていた様子だが、とりあえず最後まで見てみるというのは賢明だと思う。帰路も同じ道を反対方向に歩くだけなのだが、見え方が少し違っていて面白い。渡邊は酒を売っているところで立ち止まった。
「お、こういうのもあったのか。えっと、ワイン?」
「いや、違うな。リンゴの酒らしいぞ」
柔和な表情で僕等を見ているおじさんとお兄さん。気軽に話を聞いてみると、
「これはシードルですね。リンゴのお酒です」
と説明してくれた。さらに詳しく訊くと地元の農家さんが最近開発したものらしい。試飲してゆけたので少し飲んでみると、甘くて飲みやすい。
「あ、チューハイみたいな感じ」
普段飲んでいるものと近いが、もっとリンゴの味がしっかりしている。
「これだとプレゼントでも喜ばれるかもね」
何となく渡邊にすすめてみた。渡邊も美味しいと感じたらしく、
「じゃあ、これ1本…甘い方ので」
と言った。『甘い方』と言ったのは、種類が幾つかあって完熟のリンゴと青リンゴで酸味が少し違うらしいからである。値段的に自分はケチってしまって買ってないのだが、後で買っておけばよかったなと思っていた。その後、時間もまだまだあるので行ったり戻ったりしながら神社の方に動いてゆく。途中で袴姿の男の子やいかにも『祭り』という出で立ちの女の子を目にしたりして、微笑ましくなる。
「まだ時間あるな。どうすっか?」
神社の隣の休める場所に着いたのは3時頃だった。これでも大分じっくり見回った方である。
「まあここで話でもしながら祭りの雰囲気を味わってようかな」
「そうだな。ここだといろいろ注文できるし」
長いベンチや机があるのでそこに座っているのだが、目の前にはトラック型の店があってメニューはほぼ居酒屋のような感じ。時々注文をしながら二人で駄弁っていた。たいして内容がある話ではない世間話だったが印象に残っているのはやはり中学時代の思い出である。
「中学の頃って確かサッカー部だっけ?」
「ああ。あの伝説のサッカー部だな」
「え、伝説って?」
「〇中で史上最弱と言われた世代だ」
渡邊は照れくさそうにそれを言った。
「そうだっけ?サッカー部他に誰が居たっけ?」
「遊佐とか根本とかが目立つ奴だったよな」
「お前も相当目立ってたぞ」
「目立つけど、なんかチームワークがバラバラで個人プレイが多過ぎて雑魚だった」
多分渡邊も当時は不満があったかもしれない。けれど今それを振り返る時の表情はどこか嬉しそうである。
「今でも誰かと交流あんの?」
渡邊とは話もしていたけれど、どちらかというと目立つ方のグループがあってその人達とよく喋っていたような気がする。その人達の事が聞けるかも知れないと思って訊ねてみた。すると渡邊は、
「まあ高校も違うし、みんなバラバラだよな結構」
と少し寂しそうに言った。僕の方もそうだが、仲の良い友人ともメールなどは今でも続いているけれど高校、大学と離れた場所になってしまうとどういう切っ掛けで連絡したらいいのか分らなくなる。疎遠になったわけではないけれど、自然と連絡がマメではなくなるものなのかも知れないと最近では思う。
「地元に残ったやつも多分いると思うんだけど、本当に時々会うくらいだな」
「そっか。俺の方は全然会わないなぁ…まあ出歩かないってのもあるけど」
こういう事を考慮すれば、今日渡邊と会えたのはとても良い偶然だと思った。渡邊はこんな話もした。
「そういえば来年かな、同窓会っていうかクラス会やるらしいよ」
「2、3年の時のってこと?」
僕と渡邊は2、3年の頃に同じクラスだった。
「そう。委員長が幹事やってくれるらしくて、多分そろそろメールが届くと思うよ」
「そっか。どうすっかな…微妙にそういうのって参加しずらいよな」
「参加しようぜ!こういうのって段々少なくなるから」
「分った。考えとく」
「よろしく」
6時がちょうちん祭りの開会式だと聞いていた。それまであと一時間弱ほろ酔い気分でこういう話をしていられるのは何となく幸せだなと思ったりした。




