⑦
「優介じゃないか!!優介だよな!?」
と僕の名を連呼するのは中学時代の知り合いの渡邊という人物だった。彼とは実は同じクラスになった事があり、わりと話す方だったので「友人」と言えるのかも知れない。当時と比べると体格が良くなっていたので一瞬迷ったのだが、笑うと目尻が下がってちょっと恵比須顔になる特徴的な表情で確信した。
「おう!久しぶりだな、えっと、か…和喜?」
そういえば名前で呼んだことがあまりない相手だったので何と呼べばいいのか迷ってしまった。
「何で名前でちょっと不安そうなんだよ。ふふふ、まあいいや。今日何してんの?」
「そりゃあ祭り見学でしょ。そっちは?」
「俺も同じ。いやぁ…知り合いに出会うとは思ってなかった!なんかテンション上がったわ」
「いつ以来だっけ?成人式の時か?」
確か成人式後に少し広い会場で同窓会が開かれて、その時に他の友人と一緒に話していた記憶がある。どうやら正しかったらしく相手も頷くと、
「そうだな。前会った時は専門学校通ってたんだけど、こっち戻ってきて今年から働いてる」
「え、そうなのか。早いな!どういう仕事?」
大学3年の自分もそろそろ就活の事は考えなければならないのでこれはとても気になった。
「職場はF市なんだけどIT系かな」
「へぇ…そういえば昔からPCとか詳しかったもんなぁ…ちなみに俺はまだ大学生」
「そっか。じゃあ、今だと大学の…三年って事か。いやぁ、学生時代が恋しいよ」
と言って若干苦労が滲み出ているような表情をする渡邊。同年代の人でもこうして早くも社会の荒波に揉まれ、成長して行っているであろう様子を見ると何か感慨深いものと同時に僅かな焦りを感じなくもない。
「まあ、今日は完全にオフだから。実はまだ有休取った事なくて、折角取るんならこの日が良いなと思って。で、祭りに来たよ」
ここで渡邊は僕の隣の席に「よいしょ」と座った。こういう状況だともしかしたら酒を飲むのも自然なのかもなと思って提案してみる。
「お、良いね。優介は酒飲むの?」
「まだ慣れてないけどチューハイくらいならちょびちょび飲んでるよ」
「じゃあ地酒とかは初めてか。最近市内で家族と外食するんだけど、そん時は必ずと言って良いほど地酒を飲むね。なんかめっちゃ旨く感じるんだわ」
「普通に旨いんじゃないの?種類とかは分んないけど、あの辺の酒蔵とか通り過ぎる時とかに呑んでみたいと思ってた記憶がある」
「じゃあ、2つお願いします」
渡邊が酒を注文する。といっても小さな紙コップ一杯分の酒だ。二人でそれをちょっと掲げてニヤニヤしながら呑み始める。
「うわ…やっぱり日本酒ってアルコールがすげえな…うっ…ぐふ…」
飲みなれていないので少し噎せる。対して渡邊は本当に少しづつ飲んでいたので問題なかった。
「ははは。やっぱり旨いなぁ。俺昔からこういうシチュエーションに憧れててさ、『大人』って感じだろ?」
「『おやじ』って感じもするけどな」
と返したものの、自分でもこういう感じに憧れを持っていた事に気付いた。酒はやはり友と飲むのが一番なのだろう。ここで渡邊が、
「そういや今日ってこれからどうすんの?」
「ああ、とりあえずこの辺周る予定。本当は夜のを見たいんだよ」
「夜のって、『太鼓台』のやつだろ?俺は今日少し居て帰るつもりだったけど明日って土曜日じゃん?」
「だな。今年は金、土、日になったから人結構来るかも」
祭りは10月の4、5、6と3日続けて行われる。だから年によっては平日の3日間になってしまったりするのだが今年は土日と重なっている。
「どうすっかなぁ…」
渡邊は何か迷っているようだった。
「何?」
そう僕が聞いてもまだ躊躇った様子だったが、少し間があり意を決したのかこんな提案をしてきた。
「今日さ、夜の祭り観た後にさカラオケとか行かねぇ?」
「カラオケって、あそこの?」
「あそこの」と行って大雑把に指さしただけで通じたのはN市にはカラオケ屋という括りの建物が2か所しかないからである。そこはどちらかといえば僕の実家に近い方のカラオケ店で、帰省した時に本当に娯楽が少ない町なのでそこに出掛けるのが一番お手頃である。
「え、和喜カラオケとか行くんだ!」
「結構行くね。歌いたいのもあるけど、明日も休みだしちょっと深夜カラオケとか久々に行ってみたいなと思って」
「あ、それ良いな。おお、テンション上がってきたぜ!俺は大丈夫だよ。行ける」
「よっしゃ!決定!今日混むかな?」
「ああ、混むよね。予約しとくか?」
「そうすっか。9時くらいからで良いか?」
と言ってスマホを取り出した渡邊。ネットで番号を調べてカラオケ店に電話すると無事予約する事ができた。




