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祭りの記憶  作者: なんとかさん
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祭りのあと

想う気持ちに偽りはない。傍に居ないからと言って変わるわけではない。むしろ一層自分の中で強くなっている事を感じる。ただ会いたい。それだけかも知れない。会えたとしたらそれはずっと一緒に居たいという気持に早変わり。なんてらしくない事を考えてしまいそうな今日この頃。



高校は一緒だったけど俺は専門学校、裕美はずっと都会の大学へ。以来、遠距離恋愛と言われるものをずっと経験していて、その生活にもほとんど慣れてしまっている。連絡なんていつでもできるからマメにはしなくなってきたけれど、社会人になって心の安らぎが何となく欲しくなってくると、



<学校なんて休んでこっちに会いに来ないかなぁ>



なんて無茶な発想が出てきてしまう。俺の方から行けばいいのに思い切って仕事を休むという事はまだしてはいけないように感じる。でもこの前の金曜、祭りの日、初めて有休を取って祭りを見に行ってから少しだけ気持ちが変わってきたようにも思う。




中学時代の友人『齋藤優介』に会ったのは思いがけない喜びだった。祭りの情景も深夜のカラオケも何か特別な光景として目に焼き付いている。考えてみると俺は中学時代から優介の事を気に入っていた。どこか掴めない性格をしているものの素直で思いやりのあるやつ。グループは違ったが、この前話してみてもっと優介と話がしてみたいと感じた。例えば音楽とか。




そういえば2、3年時に裕美も含めて俺達は同じクラスだった。小柄で可愛らしい裕美が同級生にもそこそこ人気があるというのは俺が知るところだった。裕美とは幼馴染のようなもので、あたり前過ぎて意識してこなかったけど、その頃に一層女の子らしくなってそれまでとは違う魅力を感じ始めた時、少しグループの友達にからかわれて、



「佐藤の事好きなんじゃないのか!?」



と言われた時、さすがに肯定はしなかったけれど否定できないなと思った。そこで俺は裕美が好きと気付いたのだろう。一瞬裕美との会話がぎこちなくなったけれど、それで裕美の方も何か勘付いたらしい、後で訊いたら



「なんかあんたが変だから意識し始めて…」



という事らしい。同じ高校に進学する為に3年になってからさり気なく塾に通ったり、必死で頑張った甲斐があって県内でもレベルの高い進学校に、裕美と一緒に進むことが出来た。けれどそこからが結構大変だった。もともと勉強がそれほど好きではない俺は、いつからか勉強そっちのけで部活に精を出し、成績は散々だった。裕美も心配してくれたのだが、部活引退からの勉強では流石に中学と同じようには挽回できず、そもそも大学に行きたいという気持もそれほどなかったから就職に有利な専門学校に進むという選択をした。裕美からはずっと前から都会の離れた大学に行きたいという希望を聞いていたけれど、毎日一緒に登校して帰ったり、休みには一緒に出掛けたりしているうちに



『離れても大丈夫だ』



という根拠のない自信が出来あがってしまっていた。だから焦らないで自分の道を進んだのだが、最初の一か月を過ぎ裕美が近くに居ない日々はこういうものなのだと実感した瞬間、俺は言いようもなく後悔した。でも、一方で自分の進むべき道のビジョンも出来ていた。だから俺はその頃から、



<いつかは一緒に居られるようになる>



と言い聞かせて日々を過ごすようになっていた。裕美とは反対方向の都市の専門学校だったのでそれなりに毎日が楽しく、話の合う仲間と過ごして気を紛らわせていたのかも知れないが、色んな事を経験できて充実していた。裕美からはときどき悩み事のメールが届いた。



あるものは『サークルどうしよう』とか『バイト大変だよ~』とかありきたりなやつで、励ますような、結構愛情のこもった感じの返信をしていたものだ。ただ、



『淋しいよ…』



というメールだけは何とも答えようがなかったというか、俺も同じ気持ちだったのを我慢していたからどうしてもはっきりした言葉を伝えることが出来なかった。よく女性シンガーが『会いたい』という歌詞の歌を唄っているけれど、俺もその気持ちがよく分かってしまった。ただ男の方が女々しくてもしょうがないという気持ちがどこかにあって、ちょっと虚勢を張ってしまった時もあった。



それでもお互いに限界だなと思った時には、俺の方から会いに行ったり、裕美も遠い距離を乗り越えて会いに来てくれたりした。それがとても嬉しくて、裕美も嬉しかっただろうし、一緒に居るだけで幸せなのだとその度に確信したのだ。



それが今年に入って俺が就職してからというもの、何となく裕美も連絡をし難くなっているらしい。その原因は俺にあって仕事の方で精一杯だったのもあって、裕美へのメールや電話でも仕事の事を中心に話すようになってしまったのだ。もともと遠慮がちな裕美は迷惑にならないようにと思っていると想像している。お盆の休みで会えたのは会えたのだが、どちらも実家の方に居なくてはならないという事情もあって再会もほんの数時間だった。



その際、



「私も早くこっちに帰ってきたいな…」



と漏らしていたのだがこちらで就活をした手応えを信用するなら、裕美がやりたい仕事がこちらにあるかどうかは分らない。勉強も出来るし、バリバリ働けそうなタイプだからこちらに居るだけでは持てあましたりしないかと今でも悩んでいる。




祭りの日を境に、俺自身何か変化があったように感じたのだが具体的には俺は祭りの次の2日後の日曜日に裕美へのプレゼントを買いに出掛けていた。今思えばそう言うことはいつでも出来たのだが、祭りの日に自然と裕美と祭りに来ているような気分で彼女が出店で何かを見ているならどういうものを見るのだろうと想像して、



<飴細工なんか良いよな>



と見ていた時にプレゼントという方法を思いついたのである。プレゼントとして贈れそうなものはちょっと見つからなくて試しに買ったリンゴのお酒も家族と一緒に開けてしまった。どうせなら心の籠った気持ちが伝わりそうな何かが良いと思うのだが、何が良いだろうかと考えていた。




会いたいという気持ち。偽らざる気持ち。『そしてずっと一緒に居たい』という心からの言葉。そして…





出来れば身に着けるものというのは…ベタだろうなと思った。でも、この際ベタでもいいなと思った。俺はガラスのケースからそれを見つめていた。





そして時間は過ぎ、クリスマスイブ。俺は二度目の有休を取っていた。裕美は冬期の休業でこちらに帰って来ている。車を走らせて裕美の家まで迎えに行った。外は雪でうっすらと白くなっている。彼女は玄関の前で俺を待っていたようだ。車を近くに停め、降りてから



「よう!」



とニヤニヤを抑えきれない感じで言った俺。それに対して裕美もおどけて、



「よう!」



と真似した。思わずほほ笑んでしまう。



「元気してたか?寂しがり屋さん」



「そっちこそ」



「じゃあ、ちょっと連れて行きたい場所があるからさ、乗ってよ」



「気をつけて運転してね」



「ああ、そう言えば俺の車乗るの初めてか」



ドライブ、と言っても精々10分程度。けれどちょっとした坂を登って行く。そちらに行くと思っていなかったのか裕美は、



「え…?こっちに何しに行くの?」



と若干驚いていた。まあこれは雰囲気というかムードの問題で、ちょっとしたノスタルジーも兼ねている。俺は結構前に卒業した中学校の近くに車を停めた。中学生の部活もあるかもと思ったが昨日が終業式だったらしく流石に閑散としている。自分にとってホームのようなだだっ広いグラウンド。そこにはやはり雪がうっすら積もっている。



「え~意外だな…でも懐かしいね。やっぱり変わんないなぁ」



戸惑いつつもしみじみと語る裕美。俺も同じことを考えていた。



「まあ、何というか他に適当な場所が見つからなかったのもあるんだけど、やっぱり地元らしさがあるしな」



「同感。こんな山の上にあるような中学校なんて滅多にないもんね。通う時大変だったよ」



「思い出もあるしな…やっぱり特別だ」



普通の話をしつつもタイミングを見計らう俺。既にプレゼントをジャンパーのポケットの中にひそませている。



「うんとさ…なんかこういう所に連れてくるって事はさ、何か特別な事があるんじゃないの?」



こういう時は裕美も鋭い。誤魔化そうと思ったが、彼女の嬉しそうな顔を見て辞めた。



「図星。プレゼントを渡したくって…」



すると裕美はみるみる驚きの表情に変わっていった。何か凄いものを期待しているような顔である。俺は意を決して、



「はい…これ…」



と渡す。裕美はちょっと泣きそうな顔だが、「えっえっ…」と口許に手をあて焦っているようにも見える。



「うわ。マジ…!指輪じゃん…」



「今までプレゼントとかあんまりあげたことなかったから。そんで出来れば身に着けられるものと思って」



「ありがとう…」




・・・・・・・・・・



それから裕美は無言でこちらを見つめていた。まだ何かを期待しているような。俺はその時、もしかして何か勘違いさせてしまったかもと冷静になった。



「えっと、裕美に「会いたい」、「ずっと一緒に居たい」って気持ちを伝えられると思ってさ」



「うん…」



・・・・・・・・・・




またしても無言。堪えきれず、



「それだけだよ…」



と小声で言った。すると裕美はキツネに抓まれたような表情になって、



「え…?それだけなの?」



強い口調で確かめるように言った。それに気圧されつつも頷く。



「…。」



間が持たないので俺は急いで話をした。



「あ、そういえばな、この前ちょうちん祭りに行った時にさ、優介にあったよ」



「優介?え、それって同じクラスだった齋藤君?」



「そうそう。齋藤優介。偶然会ってさ、意気投合してそのままカラオケ行った」



「へぇ~良かったね。そう言えばクラスの子いまどうしてるかな~」



そこから昔話と、知り得る限りの現在のクラスメイトの話が始まった。ちょっと悪いのかなとも思ったが、グラウンドの外側を少し歩きながら。寒くなってきたのもあって、折角なので二人でカラオケに行こうという話になった。車の中で裕美が、



「これ、ありがとね」



と言って左指に着けた指輪を見せてくれる。そして聞こえるか聞こえないかくらいのトーンで、



「折角だったら、けっこ…してとか言ってくれれば良かったのに…」



と続けた。俺は流石にその時は聞こえないふりをしておいた。まあそれはいずれ。遠くない未来。

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