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祭りの記憶  作者: なんとかさん
12/13

賑やかな音が聞こえてくる。夜、父の車で移動し、駅にほど近い市内の某所で車を停め、そこから歩いて踏切を渡ったところだ。


「今日はそれぞれの場所で太鼓台の引き回しがあるらしいね」


一応ネットで調べた事を伝えると何処の太鼓台を見るかという話になった。


「とりあえず近い所から見て行けばいいんじゃない?」



母の提案でそこからまっすぐ坂を登った所から引き回しを見る事にした。昨日渡邊と一緒に見ていたのもその辺りだ。メインストリートに出るとそこでは既に昨晩と同じような光景を目の当たりにする事ができる。合同ではないので、太鼓台も一つだがお客さんの数は昨日とそんなに変わらない気がする。



わっしょい わっしょい


わっしょい わっしょい



昨晩に比べるとそれほど移動する必要がないので掛け声と囃子で盛り上げるパフォーマンスになっている。威勢のいい男達を見ていると、同年代かもう少し上の人なのに随分と逞しいように感じる。すると父が赤く照らし出された太鼓台をぼんやりと眺めながらこんな事を言った。



「それぞれの地区で張り合うようになるのも見どころなんだよ」



「え?」



大音量のせいで聞こえにくかったのか母が訊き返した。すると父は少し声を大きめにして、



「地区ごとに自分の所が一番だっていうパフォーマンスをするんだよ」



と繰り返した。



「地区って言っても、みんな近いと思うけど」



母が呟いた通り、市の大きさもそうだがそれぞれの地区が城下町だった時の名残で区分けされていて、今ではどこもそんなに大差のない一つの小さなエリアである。けれど僕は中学校の時に教材として見せられたちょうちん祭りのビデオで、やはり父が言ったような事が伝統としてずっと続いているのだという事を知っていた。400年近い歴史がある祭りというのは純粋に凄い事だと思うし、続ける以上同じようにして続ける事が祭りというものなのかも知れない。




家族で話していた時に母が言った事だが、地元の人ではない母にとっては祭りというのは参加できないし見ているだけのものというのも一理あるのかも知れない。でもそうは言いつつ今はすっかりお祭りの雰囲気に呑まれているようだし、しっかり太鼓台の写真をスマホに収めていた。



僕はこの時、祭りというのはそれぞれの人にとって色んな思い入れがあるのだろうなと実感した。いつもは大人しめの父でさえ熱心に祭りの光景を眺め、良く見える場所にちゃっかり移動していた。自分もそうだがやはりあの祭りの中心に近づいてみたいという気持ちはある。この祭りを今年見ようと思ったのも、祭りの雰囲気を味わいたくなったからだと言えばそうである。




じゃあ祭りとは?




ここにあるもの。としか言いようがない。一人暮らしのアパートで言葉にしようと思っても出来ない何かがあると感じた。それは間違いない。あの浴衣を来て、ただ只管『祭りここにあり』を体現してみせている人々がいる。観客は非日常の祭りだという事を受け入れてそれを見守っている。




『作り物ではない』




一瞬そんな言葉が浮かんだ。映画や劇のように、何かを演じているわけではない。彼等は本当に、それを行っている。普段はごくごく普通の生活をしている少し血気盛んな若者が、今日は確かに主役で、この日に全てを出しつくさんばかりである。




少し移動し別の地区での太鼓台も見て回る。同じようであって、何か違う。でもやはり同じように一つの祭りとして心の底から祭りを楽しんでいるように見える。そう、祭りは楽しいものなのだ。それだけではない。この日の為に多くの人が…町全体が着々と準備してきたのを僕は知っている。長い歴史の中で途切れそうになった事もあったに違いない。けれど今僕が見ている光景は、ずっとずっと昔の、名前も知らないような町の人にとっても同じように意味あるものであったのだろう。




そこには何かの願いが込められている。そして少なくとも、この光景をずっと後の世代にも語り継いで、僕と同じような事を感じてもらいたい、そういう気持ちは確かにあると思う。この本物の祭りが、今太鼓台の中で囃子によって盛り上げている次の世代に引き継がれてゆく。小気味よい太鼓のリズムと供に。




「あぁ…何か、今年は満喫したなぁ…」



三つ目の太鼓台を眺めている時にそう呟いた僕を父がほほ笑むような表情で見ているのに気付いた。そして父はこう言った。



「それは良かったね」



そういえば僕が急に祭りを見に行くと言った時、父は特に何も言わなかった。多分父も僕が見たくなったという気持ちが分ったのではないだろうか。父にも僕と同じような祭りの記憶がある。




もしかして僕等にも『祭りの記憶』というものが受け継がれているのではないだろうか。




そんな事を考えながら帰路に着いた。翌日、僕は朝早くから出発する準備をしていた。慌ただしい帰省になってしまったが家を出る時に、



「じゃあ、行ってくるから」



と言うと母は、



「楽しんだ分、しっかりやんなさいよ」



と激励してくれた。その言葉を父は満足そうな表情で聞いていた。僕は家を出て駅まで歩いた。少しして電車が到着し、間もなく僕を乗せて走り出す。次の駅は今日が祭り最終日のN市の駅。



<今日も祭りは続いているんだろうな>



少し思って窓の方に顔を近づけ耳を澄ませてみた。まだ流石に音は聞こえてこないが、あの囃子と「わっしょいわっしょい」という掛け声がどこかで聞こえるような気がした。





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