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祭りの記憶  作者: なんとかさん
11/13

人波をかき分けるように駅前に辿り着いた僕等はタクシーを探した。ここからカラオケ店まで車だと5分程度なので丁度良いと思ったのである。だがやはりというかお祭りの混雑もあってかタクシーは見つからない。だが方法がないというわけではない。祭り会場から離れたところまで歩いてそこでタクシーを呼べばいいのだ。



「失念してたなぁ」



「まあ大丈夫さ」




実際、大通りを跨いだところまで歩くと交通規制もないし、目印になりそうな建物の所でタクシー会社に電話してみると以外にもあっさり通じてすぐ来てくれるという。ものの5分で到着したタクシーに乗り込んで馴染みのカラオケ店に。そこからの夜はひたすらに楽しかった。



お祭りと深夜のハイテンションで何を歌ったかあまり覚えていないけれど、渡邊も僕も日頃の鬱憤を発散させるように熱唱していた。音楽の趣味も意外と合うみたいで、好きなアーティストの話題で花を咲かせたりしっとりとした曲でしみじみしたり。




朝近くなって流石に体力の限界だったのでそこで解散という事になった。帰りはどうするのかと訊くと、歩いて帰れる距離だという事でお互い徒歩で帰路に就くことになった。15分程歩いて家に着いた頃には辺りが薄明るくなっていた。その日僕は疲労と満足感からか非常に心地よい睡眠を味わう事ができた。




午前の11時。僕はすっきりとした気持ちで目覚めた。土曜日だし、別に早く起きる必要もないのだが、家の人に少し報告した方が良いと思ったのである。家の人にはメールで知らせてあったけれど母は少しばかり苦笑いするように、



「おそよう」



と言った。一方父は僕を見て妙に笑っている。



「おはよう。今朝帰ってきたの気付いた?」



「まあね」



と答えた父がこんな事を訊いてきた。



「どうだった、祭りは?」



カラオケの事もあるけれど、やはり昨日は祭りの事で沢山刺激を受けたような気がする。



「良かった。なんか大人になって見るとちょっと見え方が違うような気がした」



「そうか。せっかくだから俺も今日行ってみようかな?」



父は地元生まれで地元育ちの人である。母は県内だけれどずっと地元ではない。やはり自分と同じで祭りには思い入れがあるのだろう。少しばかり父の昔話で盛り上がった。



「で、今日はどうするの?」



母が訊ねる。



「今日もうこの時間だし、帰るのは明日の朝一にするつもり。そういえばお母さんって祭り見た事あるっけ?」



「昔見たけど、最近は見てないわね。人が凄いから迷子になりそうで…」



そこで僕は提案した。



「じゃあさ、今日の夜少しだけ行ってみない?雰囲気を味わうくらいでいいからさ」



「え、あんた今日も行くつもりなの?」



僕の発言に母もさすがに驚いているようである。でも僕は今一度祭りを目に焼き付けておきたかった。すると父が、



「いいんじゃない?今日『本祭り』だし、車どこかに停めて歩いて行けばそんなに面倒くさくないよ」



と乗ってくれた。それに促されるように母も「じゃあ、そうしましょうか」と言って、今日の夜も祭りに行く事に決まった。




そういえばしばらくして渡邊からメールがあった。



『昨日はありがとう!楽しかった。今度はクラス会で会おうぜ!』



そのメールには写真が添付されていた。僕と渡邊がカラオケ店でお互いに撮りあった時のものである。僕の写真のアプリには渡邊の嬉しそうな…あの恵比須顔になった表情が、メールの写真には僕のゆるみ切った赤ら顔がしっかり映っている。

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