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祭りの記憶  作者: なんとかさん
10/13

辺りが次第に暗くなってきて雰囲気が出てくる。夕方5時を前に二人で近くのロータリーの所まで移動する。ちょうちん祭りではここに各地から太鼓台が集合するのである。先ほどから男たちの威勢の良い声が響いてきたのだが、人力で太鼓台を動かす時の掛け声だ。周囲には明らかに人が増えてきて、到着した太鼓台を見た人がざわついている。



「おお。やっぱりすげぇな。迫力ある」



「まだ火は着いてないね」



『ちょうちん祭り』の名のごとく太鼓台の「ちょうちん」に火が灯ると眩しいくらいなのだが後で調べたところによると、このあと神社に向かってそこで松明の篝火の火を受けてそれで灯す事になるという。神事らしさがある。混雑してくると移動できなくなるので早めにロータリーの前で開会式を見るつもりだった。



「開会式見るのは実際はじめてかも知れんな」



「俺も初めてだよ。今回は事前に調べておいたんだよ」



渡邊はどんな気持ちであの光景を見るのだろう。やはり自分と同じように感じるのだろうか。などと考えているうちに到着。「ちょうちん祭り」の会場である事を示す赤い大きな布が台の前に掛けてあった。その台上で多分市長などが挨拶するのだろう。



「知ってる人居るかな?」



渡邊はきょろきょろと見回していた。暗くなっているので見分けがつかなくなって来ている。



「多分知っている人も来てるんだと思うんだけど、気付かないのかもしんないよな」



「あり得る」



そう言いつつ渡邊が写真を取っていたので僕もそれに倣って何枚か収めた。10月という事もあるが夕方になると少し冷えてきているのでもう少し厚着しておけばよかったと思ったりした。だがそんな事を考える必要がなくなってきた。




各地からの太鼓台が無事全て集まると開会式が始まった。『若連』や実行委員会の主導で粛々と式が進行し、火が灯り出した時には隙間がないほど人が密集していた。正直言って混雑してきて火を灯すところが良く見えなかったくらいである。だが提灯の煌々とした多くの灯りに照らし出され、その熱と人々の熱気のお陰か寒さを感じなくなる。



「うお!いよいよ始まるな!」



「うん」



僕等は既にテンションが上がっていた。いかにも日本的な祭りで、祭りとなるとテンションが上がってしまうのは既にDNAに刻まれているからのではないかと信じてしまいそうなほど自分でも抑えきれない興奮が確かめられる。そして盛大な拍手があって、いよいよ祭りのメインである火を灯した太鼓台の出発である。



ぴぃー ひょろろ てんててんてん


笛が鳴り、小気味よい太鼓の音が響き始める。僕等がよく知っている音楽である。



男達は子供達が太鼓台の中で奏でる囃子のリズムに乗って「わっしょい、わっしょい」と繰り返しながら息の合った動きを見せる。闇の中で一際美しく輝くように見える提灯の灯り。囃子の懐かしい音。全てが一体となったかのような世界にやって来たみたいにその時だけは我を忘れていた。




あの赤く燃える煌々とした幾つもの提灯の灯りと山車の上で身を乗り出して踊るように叫んでいる人の表情を見る度、僕は不思議な気持ちになる。



これを最初に観たのは一体いつだったろうか。渡邊が、



「最初に観たときはちょっと怖いと思ったけど、今は何か…」



と呟いた。僕もその気持ちは分かるような気がする。ここに集まった老若男女が祭りに魅入られている。何かを考える暇もないほどに圧倒され、これが本当の世界なのではないのかとさえ思えてしまう。何が皆をそうさせてしまうのか、自分と周りを隔てているものが今は無い。




「わっしょい…わっしょい」



小声だけれど僕は声に合わせていた。観客の中にはもっと大きな声で叫びながら太鼓台の移動に着いて行こうとする人もいた。中には若い女性もいる。




わっしょい わっしょい 


せーの!


わっしょい わっしょい




それに圧倒されたのは渡邊も同じらしかった。最初は写真を撮っていたようだが、途中から瞬きもせずに太鼓台の移動を見守っていた。太鼓台の移動は本当にゆっくりとした移動で、ちょっとしたハプニングのような事もあったけれど依然同じ調子で重々しい車輪を身体全体を使って回す人々がそこに居た。







ロータリーから離れていくと囃子の音も少し小さくなる。人の波もそちらに流れている。しばし余韻に浸りながら9時を周ろうとした時に渡邊が、



「あ、そろそろカラオケ予約した時間になる」



と言った。何となくまだ残りたい気もするが、彼とカラオケに行くのも楽しみだったので僕等も移動する事にした。

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