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4(梶谷side)



 彼女が、社内に来た時、野郎どもの視線がうざかった。

 打ち合わせで遠方からとんぼ返りしてくれたときのことだ。

 若くてきゃぴきゃぴしてるような感じの女じゃない、同年代の仕事のできる落ち着いた大人の女性だ。

 ていうかさ、大学の時から注目度は高かったよ、この人はっ! 大体建築業界なんて男社会だろ、うちの会社の若い女子なんて腰掛程度なんだってまるわかりなわけですよ。もちろんそうでない人もいますが、そういうのって気の強さ的なところが、こう表面的にみてとれるんだけど、そういうのが薄い。でもなんていうの、凛としたたたずまいっていうか、雰囲気がこう落ち着いてて、いいんですよ!!


 「梶谷」

 「あ?」

 「お前、今回の外注のデザイン会社のあのーなんていったっけ? 高瀬さんだっけ?」

 「うん?」

 「彼氏いるのかな……結婚してないよな……」


 結婚はしてないだろう、苗字変わってない。ただ彼氏がいるのかまでは知らない……ってか、オレが知りたいわ!


 「なー飲み会セッティングしてよー」

 「ダメ」

 「なんだよなんだよ、学生の頃はすごかったって話きいたことあるけど、今現在、仕事しかしねーな、お前、あんな美人とお近づきになれるチャンスなのに」

 「お前、嫁と子供がいるだろう」

 「いるけどさー職場にも潤いがあってもいいじゃん」

 「高瀬さんは、ダメ」

 「……」

 「……ナニ?」

 「お前……そういうこと?」


 そうだ、察しろ。

 

 「わー、ガチで? 勇者ー」


 ガチじゃ。悪いか。

 この2年まったくもってご無沙汰だったが、女に関してはスキルも経験値もある。

 オレもそろそろ落ち着きたい。

 ていうかさ、こう気持ちがぐっとくるような女がいたら、当たって砕けてもよかろうよ。もういい歳なんだから。打ち合わせと称して、食事に誘うこともありだし、その次につなげることもありだろ。

 相手に彼氏がいた場合?

 結婚してないんだから、いいだろ。30まで結婚しないでズルズル付き合ってる男なんて禄なヤツじゃねーだろ。

 オレは結婚したいんですよ!

 女と付き合う時の駆け引きとか、そういうのは、もういいの。

 恋愛したいよ、確かに、彼女をベッドに運ぶまでの算段を考えるのと同時に、彼女との将来まで考えてんの。

 子供は二人ぐらいが理想で、できれば女の子。

 高瀬さん似の女の子!!

 それがパパ大好きとか言ったらもう、オレ溶けるね。溶けてなくなるね。

 だからこの目の前にいる彼女と、恋愛=結婚を前提に付きあいたいの。

 いまから付き合って半年後には両家の挨拶して、1年後あたりに式をあげたいわけ。

 これを学生時代からの友人にラインでいったら、ドン引きされたがな!

 オレにはもう、後がない。

 高瀬さんの後に、こんなに気持ちが動くような女なんか多分一生現れない!




 「鎌倉に行ってたって聞いてました」


 いま高瀬さんは鎌倉の個人邸宅の依頼に関わってる。


 「はい、仕事で」


 仕事の打ち合わせの後、食事に誘ったらOKもらったよ。店だって予約。 

 東京駅から近いだろうということで、丸の内のビルで、眺望のいいレストランぐるなびで検索した。

 お前……断られてたらどーすんだって話だが、そんなもん予約キャンセルすりゃいいだけの話。

 普通はこういう高瀬さんみたいな人って、断ってくるんだよね、特に、相手がオレみたいなタイプだと。そんなにオレは遊び人に見えるのか……。

 だけど、今回誘ったら、「いいですね、どこいきますか?」って自然に、大人の切り替えしで、嬉しい。

 正攻法でOKもらえるとは思わなかった。

 


 「どんな感じの家?」

 「んー……そうですね……海より山のほうに建てられてるので、ああでも、高台っていうか、主室の窓からは海が眺望できて……いいですよね、終の棲家って感じで。窓を大きくしたので光彩が入りやすいから、クロスも最初は白をご希望でしたが、薄目のアースカラーでもしっくりしてて。お客様が多いから、白いクロスをリビングダイニングにもってきました、部屋も広く見えて。ああ、こういう感じにしたんですよ」


 スマホに画像を表示して渡してくれた。

 あー……やっぱこの人デザイン才能あるわー。

 

 「いいね、こういうの」

 「……そうですか?」

 「うん」

 「本当に? お世辞?」


 ん? なんでそんな不安そうに尋ねるかな。

 お世辞のわけないでしょ、もう。


 「梶谷さんのほうが、もっとうまくできるような気がするので……」


 ……おい。

 高瀬さーん。


 「つまり、高瀬さんは、オレと同じ大学で、同じ学科だったから、オレのデザインも知ってるって思っていいんだよね」

 「……」

 「だけど、『初めまして』だったもんな、開口一番」

 「……梶谷さんの記憶にはわたしはないものかと思ってたから」


 そんなわけないだろー。

 10年たっても記憶にバッチリ残ってますよ!

 けど……。

 もしかして、まてよ、高瀬さんの方もオレのこと覚えててくれてたってことは?

 あの夜のことも、覚えてるってことだよね?

 でも、知らないフリをしたってことは?

 

 「オレはかなり舞い上がってたんだけど」

 

 彼女も他の女と同じでオレは遊び枠?

 友人が聞いたら、お前が言うなとか言われそうだけど。

 ……どっち?

 オレが遊び人と思われてる、それとも高瀬さんがそっち方面では、オレ同様に……。

 いやいや、多分前者だろ。

 あー本気で恋愛してなかったツケがここにきたかよ。


 「梶谷さん?」


 「オレね、二年前に付き合ってる女性と別れた時に、言われた。オレは遊びには最適だけど、結婚には向かない。大事にされてる気がしないって」

 「そんな……」

 「言われるまで気づかなかったオレも相当バカだって思って。自分からどうしてもって感じで付き合ってきたことないから……例外はあったけど」

 「え……結婚されてるんじゃないんですか?」

 

 ああああああ、もうそこまで勘違いというか想像されてたか。


 「独身ですよ、高瀬さんは?」


 彼女は食事後に運ばれてきたコーヒーに視線を落とす。


 「3週間前に、振られました。付き合ってた彼が別の女性との間に子供ができたと言ったので」


 ……なん……だと……。

 この女性と付き合いながら、別の女と子供作ってただと?

 ふざけんな、なんて勿体無いことをする!

 この才能、このルックス、ゲットしたら普通は離さないだろ。

 それとも何か?

 それゆえに、彼女の稼ぎにコンプレックス感じたか?


 「ショックだったのは……そういわれてあっさりと別れることができた自分にショックでした」

 

 強がり!?


 「この職種は夜も遅いし、休日も不規則で、付き合う男性から見れば不安だと思うんでしょね。結婚したとして、家事ができない女と一緒だと、結婚とかは考えにくいですから、当たり前ですよね」


 そうだけどさあ、まあ、職種的には同じだからわかるよ。

 だけど。

 この人に家事能力とか全然なくたって、オレは結婚したいね。


 「だからって、それはあんまりだろ」


 仕事とあたしのどっちが大事なの? の逆バージョンかよ。

 

 「仕方ないです」


 そんな……えーまって、オレと再会した時、振られた直後だったってわけ?

 それなのに、仕事できてるって、そんなに傷つかなかった? 

 それとも、傷ついても、表面に出さなかっただけ?

 ……いろいろ考えて、タイミング図るよりも、言葉がでてた。


 

 「高瀬さん」

 「はい?」

 「オレと付き合って」

 「……」

 「……え?」

 「考えて」

 「あの……」


 フリーなら、ここはオレのターンだろ!

 

 「梶谷さん……お気持ちは大変嬉しいんですが」


 いやあああああ即決っっ!?


 「そういうの、同情とかで言わないほうがいいですよ、勘違いしちゃいますから」


 何処か儚げで、でも、芯のある、穏やかな大人の笑顔で、諭すように言う。

 同情とかじゃねーし。

 むしろ、勘違いでもなんでもいいから。

 姑息でヘタレで情けないカッコ悪いこの男に騙されて落ちてくれ。

 そしたら……。




 ――――オレがくたばる瞬間まで、キミを大事にするから。




 

  

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