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3(高瀬side)

 家のドアをあけると電気がついてる。

 いつもの見慣れた部屋なのに、帰宅してドアを開けたら、雰囲気が違う。

 ふむ……こうしてライトアップの視点から考えて、今、承ってるクライアントの家の玄関照明、結構明るくてもイケる?

 ていうか、一人暮らしだから、部屋の電気は消したはずなのになぜ電気がついてるのよ。


 「おかえりー」

 「……ただいま……、ってなんであんたがわたしの家にいるの」

 「えーだってたっちゃんのパパから、お姉ちゃん忙しいから何か作ってあげに行ったら? って言ってくれたんだもーん」


 ……このキッチンから白のフリフリエプロンで現れた、20そこそこの娘は、わたしの実妹、日向だ。

 ちなみに、たっちゃんパパとはうちの会社の社長であり、たっちゃんとはこの日向の旦那である。


 「……そのたっちゃんはないがしろでいいのか」

 「たっちゃん、伊豆の温泉旅館リニューアルのお仕事だから通いじゃなくて、出張なんだもん」

 「愛息の奏多はどうした」

 「寝てる。だから泊めて」


 リビングのソファにねっころがってる子供を指さす。

 日向、奏多をソファではなくラグの上に。寝返り打って、ソファから転げ落ちたらギャン泣きすると思うのよ。

 甥っ子の顔を除きこむ。

 うむ、日向の子供の頃ににてる。

 めっちゃ可愛い! 欲しい!

 この無防備に投げ出した両手足の小さい事!

 抱き上げてギューしたいこの手がワキワキしてしまう。

 そんなことしたら起きて泣いてしまうからやりませんけど!

 衝動をこらえるために奥歯かみしめてしまうよ!

 これを言うと、この妹は夜泣きがひどいし、大変なんだよとかいうけど、そんなことは知っている。お前が生まれて世話をしたのは誰だと思ってるんだ、わたしだぞ。

 この妹が生まれたときは、わたしは小学4年で、同クラスの女子たちと育児ごっこを進んでやって親に感謝されたぐらいには可愛がった。

 ミルクもおしめも、お風呂もお散歩もやってやった。

 下世話な他人が、下手をするとわたしが母親で小学4年でガキをこさえたかとそんな噂もたてそうなぐらいには。

 そんなこと噂されたら、古いアニメのみすぎじゃないの? ぐらいは言い返してやっただろう。

 しかしながらこちとら長年住んだ団地住まい。

 ご近所の評判は「面倒見いいお姉ちゃんで、いいお母さんになるわあ」な発言多数だったようだ。

 20年後はまったく違うけどね!

 そんなお世話した妹のほうが、学生結婚しちゃったけどね!

 あー皆川さんが言ってたのあたってる。

 出産子供という女性にとっての第二ステージを、わたしはいま逃してそしてステージに立てないままになりそうで、この現状にムカついてるのだ。



 

 「お姉ちゃん相変わらずカッコイイ~パンツスーツに、高いヒールの靴にでかめのキャリアバッグが似合う~、目の保養~ファッション雑誌のモデルさんみたい~」


 お玉を両手で握って、実の姉に賛辞を送ってくれる。

 

 「お部屋も綺麗~さすがインテリアデザイナー~だけど冷蔵庫の中はビールのみってどうなの?」

 

 持ち上げて落としてくるな……こいつ。


 「ビールにはカロリーがあるからごはんなくてもOK」

 「……ダメな大人発言しないでいいから、お風呂、焚いてあるよ、それともごはんにする?」

 「風呂」

 「バラの香りのステキ入浴剤投入しておきましたのでどうぞ~~」

 「……日向」

 「はい?」

 「いつでもおいで~~~」

 

 妹をぎゅーっとハグしてからバスルームにむかった。

 



 いい香りの入浴剤が入ったバスタブに身体を沈めて、ふと今の帰宅からの一連の流れを反芻する。


 仕事から帰宅すると可愛い(しかも幼な妻的な若さの)嫁が白いエプロンで出迎えて、お風呂? ごはん? ってきいてきて、子供の寝顔をのぞき込んで、嫁にハグ……。

 実際は嫁ではなく妹だが……




 男にとって、夢であろう一幕を、アラサー女子であるわたしがリアルで繰り広げてどうすんじゃあああああ!!! 

 嫁だろうと妹だろうと、男にとってはどっちのシチュエーションも夢だよね? 萌えだよね?

 わたし、性別上女子!!!




 バシャバシャとお湯に手のひらをあてて暴れてると、脱衣所から声がする。


 「おねーちゃーんー着替えとタオルおいておくねー」


 「……ハイ……アリガトウゴザイマス……」


 至れり尽くせりとはまさにこのこと。

 もう……だめだ。

 わたし、女子として終わってるんじゃないの? これ。

 ちなみに日向は女子として完璧なんじゃないの? これ。

 平坂……あんたの選択はやはり正しい……、あの23、4の小娘ならば、この男の夢をすぐに叶えることができる。

 仕事仕事で、こんな時間に帰宅するような女には……無理だ……。






 「平坂さんと別れたんだって?」


 風呂上がりに、テーブルにつくと、グラスを渡される。

 しかもグラス冷えてるし!!

 なんという主婦スキル。


 「あー……うん……別れた……」

 「たっちゃんパパが、お姉ちゃん仕事とブロークンハートのダブルパンチだから行ってこいってさー」

 「……はは」


 プライベートダダ漏れのアットホームすぎる職場……。


 「けどさー平坂さん亭主関白ぽかったもんねー、お姉ちゃんにあわせてただけでさー」

 「え……」

 「働く女性にも理解あるオレ、だけど実際結婚はやっぱ少しぐらい馬鹿でもやっぱ若い方がいい的な、おっさん臭がにじみでてたよ~」


 まじか……。わたしは気が付かなかった。


 「やっぱあれかね、世の男は日向のような娘を嫁にってことね」

 「お姉ちゃん、モテたじゃん。その気になれば、すぐに結婚してたんじゃないの?」

 「はあああ?」


 えーと日向ちゃん、身内の贔屓目って言葉知ってるかな?

 お姉ちゃん、モテたことないんだ。

 わたしの表情をみて、日向は頬杖をつく。


 「だって、お姉ちゃん、自分から告ったことないでしょ?」


 あー……ない……かな。


 「男からアピられてんだから、モテの部類でしょ」

 「結果はすべて自然消滅ですがね、明確な別れが婚約直前に寝取られ宣言でしたけどね」

 「でも、自分から行ったことないんだ……まじで……すごーい、あたし、たっちゃんに猛アタックしたよー」

 

 ……うん、すごかったね、お姉ちゃん知ってるよそれ。


 「普通にさー付き合ってる時は、ちゃんと尽くしてると思うんだよねー、お姉ちゃん。たださー仕事がたてこむと……」

 「いや、食わないと生きていけないだけで、だから働いてるのであって……」

 「お姉ちゃん、いいお母さんになると思うのにね、平坂さんは見る目なかったことで、次いこうよ」


 ……あのさ、20のキミとアラサーのわたしではすぐに次は見つかるのかっていったら、アラサーのわたし、結婚市場じゃデッドストック以外のナニモノでもないんですよ。


 「無理だと思うね」

 「えー」

 「結婚したかったけど、でも無理。男はやっぱ若い嫁がいいんだよ。家族を持ちたい、嫁だけじゃない、子供もってなったら、出産年齢があがってるとはいえ、30代より20代なわけ、ただでさえ出産大変なんだから、安全で無事な確率っていったら20代でしょ。女だけじゃない、男だって本能的にそう思うわけよ」

 「お姉ちゃん結婚しない気?」

 「まあ……結婚しなくてもいい。けど子供は欲しい。33までには出産しておきたい……でも日本じゃ、すでに結婚か事実婚とかでもないかぎり体外受精とかできないから、国外でとか思うけど、ドナーが多分国外の人だから、生まれてくるコがハーフだとなんか子供がかわいそうだとか考えたりしてる」

 「まてまてまてー!」

 「何よ」

 「どうしてそーなるのよ!! いきなりそこ!?」

 「だって結婚できない状態でどーやって子供つくるのよ」

 「いやいや、間違ってるから! お姉ちゃん頭いいのに、へんなところでバカじゃないの? 普通に探そうよ!」

 「……じゃあ無理だ……もう普通に探す時期は通り過ぎてんの」

 「ああああ~なんでそんなネガティブ」

 

 ネガティブじゃない、事実だってーの。


 「せめて結婚相談所に入会するとか、そういうのはないわけ?」

 「婚約直前の彼氏を寝取られて結婚紹介所にいくのか……そういうしょっぱくて痛いヒトなのか」

 「わああああーだあからー」

 

 日向がわあわあ言ってる様が可愛い。

 そうね、20代後半だったら、まだ可能性もなくはないけど、30だし、可能性も時間もない。


 「普通に恋愛してよ!」


 普通にねえ……。


 「もう崖っぷちとか思うなら、お姉ちゃん当たって砕けなよ! そういう人みつけなよ!」

 「日向、そういう人はだいたい、もう、売約済なんだ」

 「じゃあ、世間からしょっぱくて痛いヒトって思われても結婚相談所!」

 「さっきから結婚相談所って、あんたどっかの回し者?」

 「友達が就職した。条件だけのマッチングならそれでいいじゃん、合理的じゃん、だって相手は独身が登録してるんだよ!」

 「そうね、子種もらうのに、既婚者からじゃ、いろいろリスクがあるもんね」

 「……なぜ結婚の過程を飛ばすの……子育ては何倍も手間も時間もかかるんじゃー!」

 「それはお前のおむつを替えてきたからわかってる」

 「いろいろ仕事関係で、いないの? いいなとか思った人はいないの?」

 「日向……、あの会社、私を除くほぼ全員既婚者」

 「顧客とか!」

 「……ギョーカイで客に手をだすとか、お前……」

 「じゃあ、じゃあ、取引先!!」

 「そこもだいたい既婚……」


 梶谷……あいつ……結婚してたっけ?

 まあ結婚してるだろうな。

 学生時代からあれだけモテモテだったんだから。


 「してると思う」

 「既婚者の人から独身を紹介してもらう!」

 「えー」

 「だって、お姉ちゃん今回の仕事、大手ハウジング会社なんでしょ? そこで働いてる人の年収いいほうじゃん」

 「……あのさ……、今回のそこの仕事なんだけど……」

 「何よ」

 「学生時代コンテストでかち合って全部金賞もってった奴と組むことになったんだよね」 

 「それがどうしたの」

 「才能もなければ男にもモテないとか……どんだけ終わってんのとか思われろと」

 「……そういうこと言いそうな人なの?」


 「うーん……どうかな……一遍ヤったことあるから、そこまで辛辣なことは口にはしないと思うけど」


 「…………え? なにそれ、元カレなの?」

 

 元カレでもないです。

 酒の席でなんとなくいい雰囲気になって、持ち帰られたぐらいで、当時ヤツには彼女がいるという話もきいてたことだし、若気の至りの一夜の過ちというか。

 

 「何それ、お姉ちゃん次はその人にしなよ!」

 「はい?」

 「いいじゃん10年たっての再会だよ! 運命だよ!」


 お前はどんだけ乙女だよ?

 現実はそうそう甘くないんだよ?

 甘くはないけど……。

 もしかして、交際彼氏結納結婚とかそういうの飛ばして、子供だけ作るの、梶谷なら、ありなのか?

 


 でもヤツが独身だったらの話だもんねー。世の中そんなにうまくは事は運びませんから。






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