第三話
場所はバトロン男爵達の居る屋敷から離れた小料理屋の前。
「いやー助かったさーまさか財布無くすなんて思わなかったからさー」
「もう、気をつけてよね」
いかにも軽い感じで話すオレンジ髪の青年と肩にかかるくらいの藍色の髪で小さなツインテール。
「それじゃ、さっさと例の屋敷に行くとするさ!」
一緒に歩き出す二人は何も知らぬ者からはカップルのように見えるかもしれないが、二人が来ている黒いコートの胸に刻まれる紋章がそれを否定する。
紋章には銀で作られた十字架。
正義と救済の意味が込められたその紋章を持つ者達はある組織の一員だということの証明。
「・・・あれ?やけに静かじゃない?」
「まさか男爵のやろーほんとにやっちゃったか?」
二人は所属している組織から一つの仕事を命じられてここに着ている。
バトロン・ギイバッハという男が所有している屋敷の一つに住み着いた化物を退治すること。
その化物は毎夜必ず同じ時間に遠吠えをあげるとその時に町の住人が一人食われている。
二人はその化物を倒すためにやってきた魔法騎士と呼ばれる魔道具を扱う者達。
魔法使いとは違い魔法を直接操るのではなく、魔法の力を得た道具を使う。
それらの魔道具は古代の遺産といわれるものでそれを現代でも使えるように改造したもの。
「でもそのバトロン男爵は魔法師でも魔道具を持ってるわけでもないんでしょ?」
「そのはずなんだが・・・ありゃ先客みたいさ」
「えっでも派遣されたのは私達だけじゃ」
屋敷の門の外から中の庭を覗くとそこには椅子に座って向かい合い男爵となにか話をしている黒いコートの男が居た。
周りのメイド達は皆黒い鎖のようなもので拘束されていて身動きが取れない。
「あれは・・・どういう状況なんさ?」
オレンジ髪の青年が疑問の言葉を投げかけた時、その場はまるで登場人物が揃うのを待っていたかのように動き始める。
「きゃあああ!」
それは屋敷本館の入り口からだった。
そこには一人だけ身動きが取れるメイド、ラクスが居た。
ラクスは剣を構えなにかからの攻撃を間一髪で避ける。
三つある目は二つの首それぞれにあり二つの首の元となる体は一つ、屋敷に住み着いている化物がその姿を表す。
「いくぞレナリー!」
「まってよスイル!」
銀の十字架をつけた二人が門を飛び越え前に出る。
「・・・オルトロスかよ」
男爵達と化物の間に立った二人がすれ違う瞬間男爵と話していた彼はポツリと独り言を言う。
その一言に反応したレナリーと彼は目が合うがすぐにレナリーが化物に向き直る。
「とりあえず俺が前に出るからレナリーはメイドの子頼むさ」
「わかったわ!」
「こい!エクサレイム!」
魔道具の名前を青年、スイルが呼ぶと炎が手の中に出現しすぐにそれは斧へと変わった。
「いくぜワンちゃん」
炎を帯びた斧でスイルが化物に攻撃をしかける、その動きを察知した化物はすぐに避けて屋敷の屋根にのぼる。
その隙にレナリーがラクスに近づき避難させる。
「大丈夫?」
「はいありがとうございます・・・やっぱり十字騎士団の・・・」
「ん?」
「なんでもないです」
メイドを連れて男爵達の近くまで避難してきたレナリーに男爵と話をしていた黒コートの彼が駆け寄る。
「大丈夫か?怪我とかはないかラクス」
「はい、大丈夫ですどこもなんともありませんよ!」
すぐに立ち上がってそれを証明するラクス。
「やばーいーーーレナリー早く来てほしいさー!」
「それじゃあ貴方達はどこか安全なとこまで避難しといてね!いくよブラッディギア!」
そういってレナリー飛んだ彼女の手足には赤黒い防具のような物が生まれる。
「はああ!」
彼女が二つ首の狼に向かって踵落としをくらわせると、その華奢な体からは想像できないほどの威力で化物ごと屋根を粉砕する。
「早くしろ!出るぞ!」
その声の主は今まさに屋敷の外に停めてあった馬車に乗り込むところで従えているメイド達にすぐに出発するぞと命令しているところだった。
「いいよ、行け」
自分も行っていいのか悩んでいたラクスの背中を押すように彼は言う。
その言葉に深く礼をした彼女は駆け足で馬車の屋根に飛び乗る。
「男爵!二度とこれは使うなよ!?」
そう男爵に向かって大声をかける彼は首のあたりを指差す。
その意味を汲みとった男爵は顔を青ざめながら馬車に急いで乗り込む。
消えた屋根の穴から這い出てきた化物と戦っている二人を見ながら自分がどうするべきか悩む。
マンガやアニメの正義のヒーローならここで助けに入るのかもしれないが、控えめな彼の性格がそれを否定する。
今も繰り広げられる戦いを見ながら彼は考える、この世界の不思議な力について。
まず一つ目は魔法。
それは彼が使った力をそう定義しているだけだがそのような力が存在するのは確定している。
二つ目は後から屋敷にやってきた二人の使っている武器。
炎をまとった斧・手と足に装着された防具。
恐らくこの二つは同じ様な種類の道具だろうと彼は考える。
魔法があるからそれに類似したなにかの可能性。
三つ目は化物だ。
何故生まれ彼等と戦い、誰が創りだしたのか、神か悪魔かそれとも人か。
そういったことを考えている間に戦況は大きくかわり化物が劣勢になっていた。
スキも多くなり攻撃をくらうことが多くなりあと一撃なにか食らったら死ぬだろうと、そのときその化物と彼は目が合う。
瞬間化物はなにか良からぬことを思いついたかのように笑ったかのようにも見える。
化物は一つの目的のために動き出す、斧を持ったスイルの方に駆け出しそれを見たスイルは最後の力を振り絞ってこっちに来たと思い最後の一撃にとここ一番の火力で迎え撃とうと大量の炎を斧に纏わせ大ぶりの一撃を放つが、それを待っていたかのように化物は避ける。
そしてすぐに彼等から背を向けさっきからこちらを見ているだけで何もしてこない人間を食うためにそちらい飛ぶ。
「それはヤバイさ!レナリー!」
その動きから目的を把握した二人も化物を追うように飛ぶ。
レナリーのブラッティギアは彼女の身体能力を上げ特殊な力によって音速で彼の元に化物よりも早くたどり着き向かい合う。
「そこは危ないから」
だが彼女の後ろに居た彼は後ろから彼女の体を引っ張り自分の後ろにまわす。
「え?」
状況を理解できないレナリーを置いて時間は平等に進む。
レナリーが彼の後ろにまわったとこで化物は彼のすぐ目の前まで来ていた、どうにか彼を守らないと、だが既に彼女が動き出しても遅い、遅すぎてしまう。
解き放たれた人を食べるための大きな口が彼の目の前まで来た瞬間。
「あぁやっぱりできるのか」
刹那訪れたなにかによって化物の上半身が何かに食われたように消え去る。
二人が呆気に取られている間に彼だけはその状況を理解しているようで頷いている。
「コロよくやったな」
そう言って彼は影で生まれた狼の頭を撫でる。
「もしかして魔道具?」
「・・・?」
主人に釣られて黒い狼も一緒に首をかしげる。
三人は状況の説明と自分たちのことを話すために屋敷から離れ小料理屋に来ていた。
「私はレナリー十字騎士団の魔法騎士よ」
「俺はスイル、レナリーと同じ騎士団の仲間さ」
「まずその十字騎士団とか魔法騎士とかのことを教えてほしいんだけど・・・これ美味しいな」
この世界について無知すぎる彼にいろんな話しをするために二人はここへ来たのだが、町の中では隠れた名店と呼ばれるほどの美味しさを誇る料理に彼はずっと食べてばかりいる。
「じゃあまずは私達魔法騎士のことなんだけど、魔法騎士は魔道具と呼ばれる武器を使ってさっきの屋敷みたいな化物と戦うことを使命としてるわ」
「魔道具っていうのはさっきの斧とかのやつか」
「そうそー、俺の斧エクサレイムもその一つさー」
「でもあんなのどっから出してるんだ?」
「それはこれさ」
そう言ってスイルは指輪を見せてくる。
「魔道具は普段別の物に擬態してたりすることが出来るの」
「君のそのコロちゃん?も魔道具じゃないの?」
「ん~」
そのとき彼は悩んでいた。
コロの生まれはコロが彼の影に憑依したような形ではなく、影でコロを生み出したという感じだ。
「うん、そうなのかな、あんまよくわかんないんだけどね」