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世界の境界  作者: ザイショ
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第二話

 メイドが歩く廊下はまるで人間が目的に向かって歩くのではなく、廊下が人間を目的地に向かわせているのではないかと錯覚させられるほどにすぐ出口に辿り着く。

 

 後ろについて歩く彼の彷徨った時間など無かったかのようにメイドはほんの数分で出口に辿り着く。


 大きな扉の前で止まるとメイドは鎖に縛られた手を彼に向ける。

 その意図を汲みとった彼はすぐに言う。


「扉を開けろまだその扉が出口という確証は俺には無いだろ」


 その言葉でメイドは顔をしかめる。


「あそだ、君さ名前はなんていうの?」

 

 純粋な疑問だった。

 ここに来るまでの時間は短かったがメイドの声を一度も聞いていない彼は声を聞いてみたいっていうのと見た目は可愛いメイドさんなのだからと少し興味を持っていた。

 

「・・・・・・・」

「別にだんまりでもいいが、状況を考えてみたほうが・・・」

 

 言いながら影を操り始めた彼にメイドは首を横に振って口をパクパクさせる。


 つまりは喋らないのではなく喋れないのだと彼女はジェスチャーする。


「あぁ、喋れないのかしかたないが、生まれつきの病気かなんかか?」


 メイドはまた首を振りそして首につけてあるチョーカーを指差す。

 これがあるから自分は喋れないと。

 

 いつもの彼なら嘘だと戯言だと切り捨てるが今日の彼は違う。

 魔法を使えること、そして異世界転生したこと、この世界ならありえるのでないかと考える。

 

「呪いの類だとするなら・・・やってみるか」


 せっかくの異世界、やれそうだと想うなら出来るだろうと彼は考え彼女の体に影を這わせる。

 その行為に自分の身が危険な状態にあると考えたメイドは暴れようとするがそれをまた全身を縛り始めた鎖によって制止させられる。

 彼が操る影はまず彼女の全身を覆い体のあちこちを調べあげる、彼自身初めてだが魔法の感知くらい魔法が使えるなら出来るだろうと考えそれを行っていた。

 彼女を覆った影から感じられる魔法の感知は首元のチョーカーと首全体だけだった、つまりはその部分で彼女の声などを制御しているのだろう、もしくは彼女が声を発したのを完治すると爆散することも考えられる。


 複数の可能性を考えつつも彼は歩みを止めない、自分の可能性と試してみたいという欲望。

 その欲によって生み出される影の獣はメイドの首元まで行くと狙いを定めて首に喰らいつく。

 魔力や呪いといったもの全てを喰らう獣。

 それが今そこにいる狼の形をした影の存在だった。

 

 役割が終わると影となり消える。


 メイドの首からチョーカーが消えるのを確認すると覆っていた影や鎖を解く。


 さっきまで自分の身に何が起こっていたのか理解できないメイドは話の流れからなんとなく自分の首元を触りそこにあるはずの物が無いことに気づく。

 彼女の声を縛っていたもの。

 彼女の行動を縛っていたもの。


「もう一度聞いていいか、君の名前は?」

「ラ・・・」

 

 自分の声が出たこと、そしてそれでも自分の体に異変が起こらないことを確かめたメイドは、さっきまで彼に向けていた恐怖の顔は消え去り。


「ラクス、ラクスです」


 泣いていた。

 言葉に出来ないほどに心を動かす喜びが溢れでるように涙が流れる。

 

 そのときのメイドの顔を見て彼はこの世界に来て良かったことが一つできた、と呟く。

 

 ラクスと名乗ったメイドは涙を拭き扉に向き直ると大きな扉をあける。


「掃除は終わったんだろうな」


 扉の先には庭の噴水の前でメイドをはべらせ椅子に座っている貴族風の太っている男が待っていた。

 それを見たラクスは一気に顔が青ざめていく。


「おや?首輪はどうしたんだ?」

「いえ、あの」


 ラクスは声を出してしまった、首輪と呼ばれたチョーカーも呪いも完全に無いことを証明してしまった。

 太った男は少し笑いながら手を差し出す。


「勝手なことをした罰は覚悟するんだな、こっちにこい付けてやる」


 とポケットからさっきと同じ首輪を取り出す。


「はい」


 返事をしてその男の元へ歩き出そうとしたラクスを一つの手が止める。


「それは出来ない話だな」

 

 後ろで向こうから見えない場所で流れを見守っていた彼が割って入る。


「殺せ」

 

 有無を言わせず太った男はメイドたちに俺の殺害を命令する。

 メイド達が剣を抜くと同時に彼は先程生み出した影の狼を呼び出す、と同時にその狼にコロという名前をつける。

 とても日本らしくていい名前だなと狼の頭を撫でるが狼は気に入らないといった視線を返す。


「喰らえ」

 

 命令で狼は駆け出す、メイドはその影の狼に剣で対抗するが彼女達の剣は全て避けられそして次々首を噛まれていくが、一人として負傷者は出ない。

 ただ彼女達の首にあった呪いと首輪を消して。


 メイド達は噛まれた首を触ると首輪が消えていることに気づき、もしやと一人ずつ声を出し始める。


「解呪師か、貴様!誰に雇われている!」

「金は好きだがそういった考えはよろしくないな」


 彼はゆっくりと歩き始める。

 

「なんでもかんでも金で解決できるなんて考えるような奴は嫌いなんだよ」


 影で刀を作りだしながら男に近づいていく。

 

「貴様!我が誰だと分かっているのか!?」

「知らないし興味ない」

「メイド共なにをやってる!早くこいつを!」


 首をはねろと言おうとして周りの状況に気づく。

 予防策としてうたれていた影によってメイド達の足と剣は鎖で地面と繋がれていた。

 

「役立たず共が!」

 

 自分でどうにかせねばと考えた男が懐から何かを取り出そうとしたとこで狼にその部分を噛まれる、するとそこに隠してあった一枚の何かしらの札が消滅する。


 その間に彼は貴族風の男の前までやってきて影で椅子をつくり背もたれを相手に向けその背もたれを抱えるように椅子に座る。

 

「ま、待て!金、金で駄目なら他の!」

「しー」


 人指指を立て自分の唇に当て黙るように男にする。


「俺はこの世界ではいろいろ新参者だからね、まずは状況把握をしなきゃならない」


 そう話し始める彼の言葉を男は理解できず生唾を飲み込むことしかできないまま話し続ける。


「急に他国に来て気に喰わない奴がいたからって殺してしまってそれが今後どう影響するか考えずにやったとして、それが取り返しのつかないくらい世界に影響を与える人物だとまあまあ面倒なことになったり後が厄介なことになったりと俺は望まないのさ、だからまずはアンタの命の価値を聞くことにしようと想う」


 ――我ながら見事なまでな悪党だな。

 

「お前の名と地位を言ってみろ」

「・・・我はバトロン・ギイバッハ、エルダルト王国の男爵だ」

 

 へぇ、と笑う彼の顔は悪役という演技なのか。

 

 

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