第3話 「イライラする男」
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─再びエッドガルド某所・ソサエティオブデビル【ソッド】のアジト─
「大佐殿!ボル大佐殿!!」
「戯けっ!入室時はノックを‥‥」「それどこじゃ無いっす」
「貴様、監視員Bの分際で‥‥」
組織の中ではかなり下っぱの筈の監視員Bの態度と物言いに、早くも粛清ボタンに手が伸びるボル大佐。
因みに監視員Aは、既に粛清されている。
「北方諸国連合隷属計画、早くも失敗っス!」
「何だと!?ブラッドサッカー男はどうした!!」
「血になったっス」
「‥‥は?」
「血になっ」「それは今聞いたっ!なんかデジャ・ビュを感じるが、貴様っ!北方諸国連合隷属計画が失敗してブラッドサッカー男が血になっただと!?過程がゴッソリと抜け落ちておるぞ!!」
ボル大佐は、額の青筋が破裂しそうな勢いで怒鳴る。
「えーっと、鉄面カイザーって名乗ったモンクがブラッドサッカー男の翼を空中でもぎ取って、そんで投げ落としたっス」
「そうか‥‥件の鉄仮面レザーアーマーのモンクだな?で、どうした?」
「で、地面に激突して血になって、鉄面カイザーは鋼鉄のグリフォンに乗って、どっか行ったっス」
「‥‥地面に激突して、爆散したのだな?」
「いえ、激突して血になっ」「喧しい!!ワンクッション抜けてんだよ!!何だよ、激突して血になったってよ!?あ?大体、鋼鉄のグリフォンとか、訳わかんねーよ!!」
遂に辛抱堪らなくなったボル大佐は、八つ当たり気味に粛清ボタンをひっぱたいた。
すると監視員Bの立っている場所の床が抜け、Bは奈落へと落下していった。
「酷ぇっすぅぅぅぅぅぅー」
どちゃ。
アンギャー!ボリボリパクパクゴックン。
「ふう‥‥スッキリした。それにしても、鉄面カイザーめ!1度ならず2度までも‥‥許さん!!」
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冒険者、タケシ・モトザトの朝は早い。
体内時計‥‥文字通り体内に組み込まれた時計が、一寸の狂いもなく時を刻む。起床にセットされている時間は、エッドガルド標準時で基本は朝四時半である。依頼等の関係で、早朝に宿に戻った時は別だが。
今日も目覚めると、街の中央広場へと早足で歩き、広場に到着するとストレッチから始まる基礎トレーニングを開始する。
トレーニング中、タケシは次元門の管理者の言葉を脳内で反芻する。
(この世界には、確りと数値化された各種ステータスと、個々のレベルが存在します。そう、貴方の居た世界に於ける、RPGのキャラクターの様に)
タケシは、所謂TVゲームと言う物に縁が無く、興味を持てなかった。
なにしろ、ヒゲにオーバーオールの配管工すら知らない。
だから、この異世界の大地に降り立ち、己のステータスを確認した時に歓喜した。
■ レベル1
その表記を見た時は、思わず拳を握り締め、表情を緩ませた。
改造人間であるタケシの人工筋肉の成長は、インパクター首領を倒した時点で既に限界を迎えていた。
それが、魔獣・魔物が当たり前に存在し、一般市民の命が常に脅かされているような世界に来て、自分の力を人々の為に振るう事が出来ると解った。
だから、再改造と異なる形で更なるパワーアップが望めるのは、有難い事であるとタケシは思っている。
元の世界では無用の長物となっていた自分の身体が、再び意味を持った事は素直に有り難かったのだ。
念入りにストレッチをこなした後は、首、腕、胸、背中、腹‥‥と、身体中の人工筋肉をまんべんなく苛めていく。
人工の身体でも汗は出る。うっすらと額に浮かんだ汗が、今のタケシには嬉しかった。
走り込みは敢えてしない。
ギルドで仕事を受けた後、目的地まで走るからだ。 勿論、急ぎの時はトルネードに乗る。
タケシは基本、ソロで依頼をこなす。鉄面カイザーに転身する事があるからた。
受ける仕事は、討伐がメインである。討伐が無ければ採集の仕事を受け、その中で人類の自由と平和を脅かすモンスターを出来るだけ狩る。
そんな中で、悪の組織が動いていたら、トルネードに乗って鉄面カイザーとして駆けつけるのだ。
(ふむ。この世界に蠢いている奴ら‥‥【ソッド】と言ったか。異世界に来て1ヶ月を越え、奴らとは既に4度戦ったが、奴らの狙いが読めない。単純に世界征服なのだろうか?)
そんな事を考えながら、既に2週間宿泊している定宿に戻るタケシだった。
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─毎度お馴染みボル大佐の秘密屋敷─
「た、大佐殿!あ、ノックしませんでしたね。コンコン!‥‥しまった、ノックしながら口でコンコンとか言ってしまいました!やり直しますね」
「‥‥もう良い。許すからさっさと報告しろ。嫌な予感と再三のデジャ・ビュの匂いしかせんがな」
怒鳴る暇すら与えずに、自己完結して入室の流れをやり直そうとする監視員Eに、溜め息混じりの言葉をかけて入室させるボル大佐。因みに今回の監視員は、シルエットから察するにリザードマン系列の様だ。
頭部の形とか尻尾とか、黒ずくめの衣装が台無しの残念な隠密スタイルである。
「マンティス男のイマニム王国シェイキン更地作戦、見事失敗しました。それはもう天晴れな大失敗です!」
「そんな意味不明な作戦名だったかぁ?大体だな、見事失敗って何だよ!?」
「‥‥聞かないんですか?例のヤツ」
監視員Eの底意地の悪い問いかけに、思わず粛清ボタンをぶん殴りたくなるボル大佐だが、そこは上級管理職。グッとこらえて怒りの炎を鎮火する努力を試みる。
「成る程‥‥態々催促するのだ。その〜なんだ、土地転がし作戦だったっけ?それは失敗したけど、鉄面カイザーは倒したんだな?」
「いえいえ、例の如くボロ負けですよ」
「クッソ‥‥聞いた私がバカだった!」
「カイザーキックを喰らって死んで糸になって飛んで行きましたよ、アッハッハ」
「ふっざけんな!!何だよその理不尽な展開は!?スコーピオン男は空中で頭を足で挟まれて岩にぶつけられて死んだし、マンイーター男は蹴り飛ばされてペラッペラになって死んだ。で、今回は死んだ後、糸になって飛んでっただぁ!?何がどうなりゃ死体が糸になるなんて謎展開になるんだ!!」
「取り敢えず押しときますか?」
「うん、押す」
カシャッ。
「ホントに押すんだもんなぁぁぁぁぁ‥‥」
ぐちゃ。
モガァアー。
ボキボキシャクシャクゴックン。
半泣きになりながら粛清ボタンを押したボル大佐。そろそろ精神安定剤が欲しくなるお年頃である。
─つづく─