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星ノ欠片の軌跡~スターダスト~  作者: 宗像 来栖
黒い新入りと星の欠片編
1/2

スターダスト

「はーーい!みんな久しぶり~元気だった~?いやー、無事に合流できてなりより~!」


 ガヤガヤと人が賑わう酒場。老若男女構わず酒を呑みタバコを吹かす。ゲラゲラと大口を開けて笑い合うものや、カウンターの端で1人静かに嗜む者…多種多様、大勢の人が集まるこの場所で1人の女が店内の騒音に負けない声で騒いでいた。


「えー、予定外に砂嵐に遭遇した者や、ガンガルダ帝国の検問にぶち当たった組、山賊に襲われるも返り討ちにしたっていう血の気の多いバカとか……まぁ各々嬉しくもないハプニングに見舞われたわけですが……がっ!!こうしてまたみんなと、1人も欠けることなく再会できてわたくしは嬉しいです!イエーーーーイ!!愛してるよみんなーー!!!」

「「「いえぇーーーい!!」」」

「ふぅ!いいぞー!お嬢ーーー!!」

「俺っちも愛してるっす!お嬢ーー!!!」

「結婚してくれー!!!」

「パンツを!パンツをください!姫!!」

「脱ぐでござる!お嬢ーーーー!!!」

「はーーーい!そこのロン毛とハゲは今月減給ねー!!」

「「はぁああああ!?」」

「くっくっくっ」

「ってことで!!無事に再会できた喜びをっ!!!」

「「「「「「「「「「かんぱーーーーいっ!!」」」」」」」」」」


 星歴せいれき685年ーーーーー

 自然と魔法、そして星の力の穏健を受けるこの大地ほしで、人々は地を耕し、海を渡り、鉄を打ち、時には戦いながらも明るい毎日を過ごしていた。

 東の大国、イェルゼン王国ーーーー

 星の穏健を受けし巨大樹を中心に建国されたこの国では、豊かな地と聖なる森の恵みを利用して作物や家畜、衣類の生産に優れていた。王都では毎日多くの貿易商が賑わい、都の中心部とも言える市場には日々老若男女で溢れ返っていた。また、歴代のイェルゼン王には星の穏健を受けし巨大樹より、絶対的とも言える癒しの力を授かることから、イェルゼンの地では治癒に関する研究、または魔法が諸国に比べて高度なものであった。王都が多くの人で溢れかえるのは、各地から高度な治癒技術を学ぼうとする人々が日々訪れることも理由にあるだろう。

 西の大国、ガンガルダ帝国ーーーー

 イェルゼン王国とは異なり、広大な海と絶壁の岩山に囲まれたガンガルダ帝国では、新鮮な海の幸と高度な製鉄技術から生み出される武器や防具によって財を成していた。また、イェルゼンと同じように星の力の穏健を受けし聖なる石を信仰するガンガルダ帝国では、歴代の帝王に守りの力が与えられていた。これは、帝国を創り上げた初代帝王が古より伝わる"破壊の竜"を倒した際に、永遠に人々の平和を…というかみの想いから、その力を授かることとなる。

 そして、星歴693年ーーーーーー

 東の大国『イェルゼン王国』、西の大国『ガンガルダ帝国』この2つの大国の衝突により、星の力の穏健を受けしこの大地ほしの平和は静かに崩れていく………

 この物語は、そんな戦火が繰り広げられる大地ほしを旅する1つの旅団の者たちの軌跡であるーーーーーー


「いやぁガンガルダの検問に遭遇した時は流石に焦ったぜ~」

「んにゃ~!まーさか、あんな所で検問してるとは思わなかったにゃ~」

「まったくです…姫と1週間も離れていたというのに、鉄を打つしか能のないどこかのバカな帝国のおかげでさらに3日も合流が遅くなるとは…私の胸はあまりのショックに引き裂かれそうでしたっ!!!」

「なにを言うでござるか!拙者は2週間ですぞ!2週間もお嬢と離れていたのですぞ!!1週間だなんてお嬢の隠し撮り写真集を眺めていればあっという間に過ぎるでござる!!」

「あぁ、あれお嬢の写真集だったのか。毎日コソコソ本をみてグフグフ笑ってるからエロ本だと思ってたわ。」

「バカを言うなでござる!どこの誰かも知らぬ女の裸を見たって興奮のこの字もしないでござる!拙者がハァハァと息を切らして興奮できるのはお嬢だけでござる!!」

「それはそれで問題ですね~」

「くっくっくっ…愛されてんなぁ」

「俺っちも!!俺っちも愛してるっすよお嬢!!……あっ、でもさすがにお嬢の写真集は持ってないっす…」

「あっははっ!安心するがよい。持っていたらお主は嫌われていただろうさ」

「えぇ!?」


 南の小国、バルナシア共和国ーーーー

 砂漠に囲まれた熱帯の小国のその王都、毎日多くの人で溢れかえる酒場「オアシス」の一角で、その集団は盛り上がっていた。


「まぁ、私たちは上手くガンガルダの検問を抜けられたわけですが…あなた方は何も取られてないでしょうね?まぁ、木の枝を振り回すだけのただの山賊に殺られるような腕では到底姫をお守りすることなどできやしませんが…」

「ふん!検問程度で鼻が高いでござるな!サルに言われなくともこのネズミ!!一刻も早くお嬢に会うためにバッサバッサと山賊共をなぎ捨てて1人で瞬殺してやったでござる!!」

「ふーーーう!ネズミやるにゃ~!!」

「いやマジョリカ。こいつがかっこよく言ってるだけで、実際は山賊がクソ雑魚でネズミが殺気飛ばしただけで全員気絶したから。」

「んなっ!?何故バラすでござるかチェス殿!?」

「なーんだ、話盛っただけかよ〜」


 ロン毛、ハゲ、猫娘、メガネ、ヤンキーという個性的な面々がバルナシア共和国に辿り着くまでの道中での出来事をワイワイと騒いでいた。

 ロン毛こと「サルファー」は、そこいらの女性に負けない艶やかな金髪ロングの髪の毛を靡かせる男である。常に白のスーツを着こなし、敬語が特徴の一つでもある。特徴と言えば、旅団内でもネズミと一二を争うほどのマシロLOVE人間であり、発言はもはやドン引きレベルの変態言葉である。時々周囲から(特にネズミから)サルファーの頭文字を取ってサルと呼ばれている。

 ハゲこと「スレート」は、全身を真っ黒な衣装で覆い、背中には東の島国から伝わったという「かたな」を背負っている男である。服の中には小型の剣や飛び道具やらも隠してる模様で、本人曰く「にんじゃ」と言われる職種らしい。そして自分のことを拙者と呼称し、ネズミと名乗る時もある。サルファー同様、マシロLOVE人間でマシロの隠し撮り写真が宝物の模様。

 猫娘こと「マジョリカ」は、猫言葉を基本に、猫耳に、尻尾に、猫の足形ブーツ、さらには猫の手形グローブといった猫一色娘。つまり、やはり猫娘。こんなんでも戦闘力は高めで動きも速い。そして何より耳が優れていて、よくマシロに偵察任務を命じられている。

 メガネこと「チェスナット」は、その名の通りメガネを装着しており、旅団内一の銃の使い手である。メカにも強く故障した物があれば彼に頼めばどんなものでも次の日にはグレードアップして直っていると折紙付きである。ちなみに有料。旅団内の噂では大量の予備のメガネを隠し持っているという伝説があり、激しい戦闘でメガネが壊れても3分後には新しいものを装着しているとかなんとか……。ちなみに隠れドS。

 ヤンキーこと「シュヴァインフルト」は、空色の髪の毛と両の手に嵌められた宝石の付いた指輪が特徴の男である。ヤンキーと言われるだけあって目つきは最悪。宝石の付いた指輪がさらに悪どさを際立たせていると周囲は言うが、実はこの指輪は彼が契約した魔獣が住み着いている指輪なのでどうしようもない。そう、つまり彼は見た目はこんなんだが誰よりも心優しい人間で涙もろい。

 以上の個性的な5人が酒を片手に騒ぐ一方、その隣のテーブルではまた違った面々がゆっくりと酒を嗜みながら道中での話に花を咲かせていた。


「ふーーーん。じゃあ結局は山賊共は大したことなかったんだーー」

「おう、ネズミがちーーっと睨みつけただけで全員泡吹いてぶっ倒れやがった」

「そうなんすねー!山賊に遭遇して合流が遅れるって連絡きたときは心配したっすよー!!」

「くっくっくっ…そっちにはリオとネズミがいたんだ。心配することなかろう。」

「おまけにチェスまでいたしね~!どっちかと言うと私はハウス組を心配してたよ~」

「まぁ、確かに…フルトくんは兎も角、サルファーさんとマジョリカちゃんはちょっと不安になる部分ありますもんねー…」

「戦力的には問題ないんだがのう…」


 グラスやジョッキを片手に語り会うのは、マシロ、リオ、カイ、シグナル、アイシクルの5人である。

 マシロは、目が痛くなるほどの真っ白な髪を持ち、長い前髪で隠れる右目は燃えるような赤、それに対して常に笑みを絶やさない左目は冷たい海を連想する青の瞳を持つ女性である。ちなみに、一部の者からは「お嬢」「姫」などと呼ばれている旅団のリーダー的存在。

 リオは、ガッチリとした逞しい肉体と顔の右目の位置にある傷跡が特徴の男である。常にタバコを加えるその口元は楽しそうに歪んでおり、その様はまさに百戦錬磨の戦士を思わせる。ちなみに旅団内最年長である。

 カイは、男ながら可愛らしいピンクの髪にお気に入りのバンダナを巻きつけ、その顔にある瞳は女に負けないほどくりっとしている。つまり童顔。そして語尾には"っす"が付きまさに年下系ワンコ少年。ちなみに、旅団内では最年少の人物。

 シグナルは、真っ赤な長い髪を高い位置で纏め、顔には魅力的な泣き黒子。男の視線を一身に受ける豊かな胸元には蝶の刺青がある。まさに、頭の先からつま先までがセクシーでできた大人の女性である。そして何故か古風な喋り方をする。

 アイシクルは、ふわふわとした黄緑色の髪に白い可愛い花を飾り付け、その顔もふわふわと可愛い系。性格までふわふわ、そしておっとりしていてザ・守ってあげたくなる女。言わずもがな旅団の癒し。

 以上の5人がこのテーブルのメンバーである。


「んーー?でもさ?山賊にかけた時間って10秒くらいじゃん?そんなんでなんで2日も合流が遅れたの?」

「はっ!?たしかに!!みんな無傷だったんすから遅れる必要なかったんじゃないっすか!?」

「まさか…お主ら、わっちらが突然の砂嵐に立ち往生しているという時に呑気に寄り道しておったわけではなかろうな?」

「まーさか!んなわけねぇだろうが!なぁ?アイ」

「くすくすっ…そうですよシグナルさん」

「??ならどーしてっすか?」

「くっくっくっ…聞いて驚け」

「「「???」」」

「思わぬ収入だぞマシロ」


 そう言ってリオが取り出したのは何やらジャラジャラと音がする袋…。その袋を見た瞬間にマシロの表情が輝いた。


「わーーーお!!!どーしたのコレー!!」

「いやなに、簡単な話だ」

「スレートさんが倒した山賊はどうやら近くの町で報酬金が指定されてた犯罪者だったらしくて」

「なーるほど!何も知らずに金儲けしてたわけっすね!!」

「そういうことだ」

「それでその報酬金を受け取りに急遽ルートを変更してその町に寄ったんです」

「ふむ。なるほど。そういうことであったか。」

「むっふふー!いいねーいいねー!お手柄だったよ依頼組~!!」


 ニコニコと嬉しそうに金貨を数えるマシロはそれはもうご機嫌。それもその筈、わざわざ仲間を自分の元から離れさせてまで依頼をこなさせたにも関わらず、その依頼の報酬金は1日の食事代にもならない程の少額だったのだ。このオアシスで合流してして早々リオから依頼の報酬金を受け取ったマシロはあまりの金の少なさに「今すぐ依頼主ぶっ殺す」と言いたげな禍々しいオーラを放っていた。


「まぁ、俺たちも依頼主には言いたいことの一つや二つあったんだがなぁ」

「それ以前にマシロちゃんに迷惑かけちゃいけないと思ってね?」

「いやーーーん!本当にもー!!!アイ最高ー!!!好き好き大好きーー!!!!」

「ふふっ私もですよマシロちゃん」


 ぎゅーーーっとアイシクルに抱きつくマシロと、そんなマシロの頭をヨシヨシと撫でるアイシクル。側からみれば仲の良い姉妹のようなその光景に、リオとシグナルは優しい笑顔を浮かべていた。若干1名は「あー!ズルイっす!俺っちもぎゅーってしてくださいッスお嬢ーー!!」と騒ぐ輩もいたが…。


「んあ?そーいやマシロ」

「ん?」

「アイツはどこいった?」

「アイツ?」

「"クロイ"だよ」


 『クロイ』

 その言葉を聞いた途端にマシロはピタッと動かなくなった…。


「?マシロちゃん?」

「…………」

「おい、マシロ?」

「お、お嬢?」

「…………」

「どうしたのだ?マシロ」


 周りの仲間が心配するもピクリとも動かないマシロ。これはいよいよヤバいと思ったリオがマシロの肩に触れようとしたその瞬間


「朗報だよみんなーーー!!!!!」


 ガタリッと音を立ててマシロが突然立ち上がった。そんな彼女の行動と言葉に、同テーブルメンバーは勿論、隣のテーブルの異色メンバーも全員注目した。


「「「???」」」

「朗報…でござるか?」

「ろーほーにゃーー!!!」


 一部を除いて仲間が首を傾げる中、声を上げたマシロ自身はふふーんっ、と得意げに胸を張っていた。


「姫?朗報とは?……はっ!?もしや!!」

「もしや?」

「つ、ついに!ついに私と姫の婚約発表をするのですね!!」

「はーーーい、そこのアホ猿は今月給料なーーし」

「なんとっ!?!?」

「と、まぁふざけてないで!はい!朗報!!」


 バンッと机を叩き付けてマシロは再び仲間の注目を集めた。


「はい!この度、わざわざみんなと別行動してまで足を伸ばした結果!!!おめでたいことに無事にクロイの"鎖"が外れましたー!!はい、拍手ーーー!!!」

「いーやったーーーー!!!」

「おめでとにゃーーークロイーーー!!!!」

「これでやっとクロイ殿も本当の意味で自由の身でござるな!」

「祝い酒だーーー!!!」

「イエーーーイ!!乾杯しよ乾杯!!!」

「おっと!お待ちください姫!!」

「んー??」

「その肝心のクロイはどこです??」

「……………」


 フッと零したサルファーの言葉にマシロは再び黙り込むとストンッと静かに椅子に腰かけた。


「!?姫!?!?」

「お嬢!?どうしたでござるか!?」

「マシローーー?お腹でも痛いのかにゃーーー??」

「おい!サル!!てめぇお嬢になにしやがった!!」


 再びワラワラとマシロの周りに人が集まる中、マシロは俯いたままポツリと言葉を零した。


「クロイは…クロイはっ……」

「っ…クロイが…どうかしたのか?」

「くっ…ここにくる途中で、アイツにっ……」

「なっ!?」

「本当でござるか!?」

「あぁ、本当さ…」

「シグナル!!あなたという人がおりながら!!」

「………クロイくんは…自分から行ったんす…」

「カイ殿!どういうことでござるか!!」

「クロイくんは…俺たちが捕まりそうになるのを見てっ…それでっ……」

「クロイ…」

「くそっ…」

「うにゃぁ…そんなぁ…」

「…………いい奴だったな」

「えぇ、短い間でしたが…」

「みんな…クロイのこと、忘れないでいてあげて…」

「お嬢…」

「もちろんでござる…」


 ガヤガヤと騒がしい店内で、この一角だけがまるで別の空間にあるようにシンっと静まり返っていた…



「おい」



 そこに突然、低い声が響く…


「てめぇら揃いも揃って殺されてぇのか!?!?」

「いやーーーん!クロイー!!聞こえてたぁ???」

「聞こえてたもクソもねぇ!!"アイツ"に俺を突きつけたのはてめぇだろうがマシロ!!!」


 そう怒鳴りつけた男は頭に青筋を浮かべ背後には禍々しいオーラが満ちていた。そう、なにを隠そうこの男が先ほどから話題に上がっているクロイ本人なのである。


「まぁまぁ、そう騒ぐでないクロイ。ほんの出来心ではないか」

「出来心で殺されたらたまんねーよ」

「でもこのノリ以外と楽しいっすよ!クロイくん!!」

「そうでござる!クロイ殿もそのうち慣れるでござる!!」

「出来心で殺されることに慣れるってのか!?」

「違いますよ。このテンションにですよ」

「んなことわかってるわ!てめぇらは冗談も通じねぇのか!?」


 ハァハァ、と肩で息をしながらツッコミをするクロイ。彼はつい最近この旅団に加わった新たなる仲間であるが、すでにこの面子の唯一のツッコミ担当と言っても過言ではない馴染みっぷりである。


「ちょっとクロイ~顔真っ赤だよ~?」

「誰のせいだ、誰の」

「んにゃ!そんなことよりクロイ!こっちに来たってことは"アレ"を突破してきたのかにゃ??」

「おい!マジかよ!!」

「アレを突破できる者が、姫やシグナル以外にもいたとは…」

「むむっ!拙者も突破した猛者でござる!!」

「ネズミとリオは薄々予感してたからよかったんだよ!」

「いやー、今でも鮮明に思い出すわー。目が回り過ぎて世界というものがわからなくなった俺の横でお嬢とシグナルがケロッとしてるのには…もはや崇めたくなったわ。」

「ふふーん、そんなに褒めないでよチェス~!」

「褒めてんのかコレ」


 クロイが冷ややかな視線を送っていると、そんなクロイの視界にスッと水の入ったコップが現れた。


「?」

「まぁなにはともあれ、お水を飲んでおいた方がいいと思いますよ。クロイさん」

「………ありがとうございます」

「ふふっ、どういたしまして!何か体調に異変があったらすぐに言ってくださいね」


 そう言って柔らかく微笑むアイシクルを見てクロイが心の中で「天使」と思っていたことは内緒である。


「んで?お前は本当にクリアしたのか?」

「あ?おう。当たり前だろ」

「いやー、以外だなーてっきりクロイは初めてかと思ってたが」

「バカ言ってんな。俺は男だ。それくらい経験はある」

「つってもなぁ…アレを制して何ともない顔で帰ってきたヤツを見るのは久しぶりだ」

「そんなに言うほどか?……まぁ、多少はふわっとした気がしないでもないが…」

「ははーーーん、なら坊やはまだまだ余裕だと?」

「あぁ、あんなの屁でもねぇ」

「くっくっくっ、久々に良い人材に巡り会えたぞ!ならば今夜はあたしともっともっと飲み比べをしようではないか!!」

「はぁ?あんたとはもうお断りだ………………っ!?って、はぁ!?てめぇ!?!?!?」


 アイシクルから貰った水を飲みながらボーッとリオと会話をしていたクロイは途中からリオの声から女の声に変わったことに気付かなかった。そしてなんとか動かした頭で試行錯誤した結果、自分はリオとは別の人物と会話しているのだと理解し、その人物が誰かを確認して驚愕した。


「はーーい、坊や!さっきぶり~」

「こ、こんのくそ女!なんでついてきやがった!!」

「別に坊やについて来たわけじゃないし~!あたしはマシロに挨拶しにきたんだ~よ」


 そう言ってクロイにウィンクを飛ばすこの女。いや、女と言うよりは少女に見えるこの人は名をアーシャと言い、この砂漠の酒場オアシスの「ぬし」と呼ばれる人物である。そして何を隠そう、先ほどまでクロイが捕まっていた"アイツ"とはアーシャのことであり、皆が驚愕していたクロイが突破した"アレ"とはアーシャとの酒の飲み比べである。


「マシロの新しいお気に入りだし、あまりイジメたらダメかな~と思って手加減してやったのにまーーだ軽口叩くとは…もういっぺんあたしと勝負するかい?ぼ・う・や」

「っだから!!坊やじゃねぇ!!」

「はいはいクロイ怒らなーーい!」

「「マシロ!!」」


 今にもアーシャに噛み付かんばかりのクロイを止めたのはマシロだった。マシロはそのままふらりとイスに座り込むクロイの背後に回ると彼を包み込むように後ろから抱きつき、そのままクロイの頭に自身の顎を置くとアーシャと喋りだした。


「はぁい!アーシャ!久しぶり~」

「久しぶり~!マシロ!んもーーー!最近は全然立ち寄ってくれないから寂しかったよー!!!」

「ごめーーーん!依頼が忙しくてなかなかこっちに来る暇なくてさ~!」

「ん~マシロたちが忙しいのはわかるけどさ~!やっぱ定期的に会いにきてくれないと元気出ないというかなんというか…」

「ふふっ、アーシャはそんなに私のことが好きなの?」

「あったりまえじゃ~ん!!本当はマシロと一緒に旅をしたいけど、あたしもここを離れられないから…」

「うんうん、わかってるよ。アーシャたちががんばって王都の周りの野良犬共を退治してくれるおかげで私たちは安全にここに辿り着くことができるんだよ」

「??」


 アーシャたちが野良犬を退治する、その言葉に疑問を抱いたクロイはマシロの顎が頭にあるのも関わらず首を傾げた。


「おっと!クロイにはまだ言ってなかったね!」

「あ?」


 そんなクロイに気付いたマシロは、クロイの頭から肩へ顔を移動させると得意げに話し出した。


「こう見えてもアーシャはね、ここバルナシア王都を拠点に活動する猟兵団『赤いサソリ』の団長なんだよ」

「……………は、」

「はっはっはっ!驚いたか坊や!」

「バルナシアに来る砂漠の途中で何回か砂漠狼を見かけたでしょ?あぁいった砂漠特有の野獣を専門にアーシャたちは猟りをしているんだよ」


 私たちでも倒せないことないけど、やっぱそういうのは専門家に任せた方がいいしね?と笑顔で話すマシロに、クロイは今だに信じられないと言った目を向けた。


「は?だってコイツまだガキだろ?」

「なんだと坊や?」

「だって、こんなにちっせぇし童顔だし…」

「おおーっと、レディに対しては言って良い事と悪い事があるんだよクロイくん?」


 ガッと後ろから口を押さえられたクロイは咄嗟にマシロの手を剥がそうとした。

 しかし、再び耳元で告げられた驚愕の事実に腕に込めようとしていた力はどこかに吹き飛んでしまった。


「それにアーシャはこれでもアオより年上だ」

「……………………ウソだろ…」



***



「いや~、それにしても!やっぱり砂漠を渡るってのは何回経験しても疲れるね~」

「そうですねー、髪も肌も服も…全部ベタベタになりますし…」

「暑くて汗が止まんないっすーー」

「水もすぐに無くなるでござる」

「暑過ぎて野獣と戦う気力すらなくなるにゃ〜」


 酒場オアシスと所変わり今マシロたち一行が羽を休めているのはとある宿。宿に泊まらなくともマシロたちには専用の"家"があるのだが、今は"王都の決められた場所に停留"しておりその場所までの道のりが地味に遠いためオアシス付近の宿に泊まることにしたのである。


「個室が確保できなくてすみません、姫」

「へーきへーき!むしろこの時間に3室も部屋がゲットできたこと自体奇跡だよ~」

「しかも冷房付きってのが最高だよなー!」

「これで快適に眠れるにゃ!!」

「おまえは腹出して寝るからな~、風邪引くなよマジョリカ」

「にゃっ!?わかってるにゃ!フルト!!」


 ちなみに今全員が集まっているのはマシロ、シグナル、マジョリカ、アイシクルの4人の部屋。つまり女グループの部屋である。

 そして何故この部屋に全員が集まったのかと言うと、今後のことについて話し合うためである。


「はい!では話し合い始めまーす!」


 マシロのその一声で始まったプチ会議。皆が囲っているテーブルの真ん中には大きな地図があり、その所々に大小の駒が置いてある。後はテーブルの端に現在の旅団の総資産が記されている手帳や、依頼書類などが並べられている。


「みんなも知ってると思うけど、我らが星の旅団『スターダスト』は半年振りに依頼のない日々を迎えました!」

「よっしゃ!キターーーーーー!!!」

「久しぶりにお嬢とキャッキャッウフフできるでござる!」

「なにを言うか!姫とあんなことやこんなことをするのはこの私です!」

「そこの2人は放っといていいから話し続けるよ~」

「はいにゃ~」

「んで!みんなそれぞれ意見あると思うんだけど~、めんどくさいことにぶち当たるのもイヤなのでここでちょっくら現在の世界状況を確認しまーす」

「はいっす!」

「じゃあまず俺から」


 そう言ってメガネの縁をグイッと押し上げたのはチェスナット。彼はテーブルの上の青の駒を手に取るとそれをスッと動かし言葉を発した。


「イェルゼン王国の南に位置するミレーヌ川。ここは小国ナルバ王国との国境になるわけだが…どうやらガンガルダ軍がナルバ軍の監視を突破しミレーヌ川付近のナルバ王国側の領地に潜伏しているという情報が手に入った。」

「ほ~、ガンガルダもやるっすね~」

「ナルバ王国は元々争い事を好まぬ国。それ故抱える兵力も周りのイェルゼンやガンガルダに比べれば月とスッポン程の差だ。そんなナルバ軍の監視の目を掻い潜り領土に潜入するなど、戦い慣れたガンガルダ軍にとっては容易いことなのであろう。」

「ま、最近はナルバの方もガンガルダとイェルゼンの戦争に巻き込まれるのを恐れて、少しづつ兵力を強化してるって話も聞くが…まぁ今更慌てたってもう遅いだろうよ」

「つーか、潜伏してるって情報がチェスんとこに来たってことは、ナルバ軍も自分たちの領地にガンガルダ軍が潜んでるってことにとっくに気付いるころだろ?なんか対応とかしてねぇーの?」

「もちろんナルバ軍の総力を上げてミレーヌ川付近を捜索したらしい。」

「で?どうだったでござるか?」


 いつの間にか会話に復帰していたスレートとサルファーもチェスナットの話に耳を傾けていた。


「……三日三晩ナルバ国境ミレーヌ川付近を捜索した結果、ガンガルダ軍どころか人がいた痕跡一つ見つけられず…だそうだ…」

「……人がいた形跡一つ無し、ですか…」

「ふーーん、なーるほどねーー」

「と、いうわけで。今現在ミレーヌ川付近にはその噂を耳にしたイェルゼン側が一個師団規模の兵力を配置。ナルバ側もビビって総力の約半分を国境手前の街ラーチラスに集結してるって話だから~、まぁタイミングによってはめんどくさいことに巻き込まれること間違いなしってことだな。」

「オーケー!じゃあイェルゼン方面への北上はなーーーし!」


 そう言ってマシロはバツ印が描かれた札をイェルゼン王国の地図の上へ置いた。うんうん、と仲間が頷く中、首を傾げる者が1人いた。クロイである…。彼は初めてのプチ会議参加ということもあり、話し合いが始まる前にマシロから「無理に話さなくても大丈夫だよ~ゆっくり話し聞いてていいよ~」と言われていたために大人しくそれに従っていたのだが、今の会話がどうも気になるようでゆっくりであるがその口を開いた。


「なぁマシロ」

「んー?どうしたのクロイー」

「ナルバ王国の国境ミレーヌ川付近にはガンガルダ軍はいなかったんだろ?」

「ナルバ軍によると見つけられなかったらしいね~」

「だったらなんでイェルゼン軍は敵のいないナルバの方に軍勢をやったんだ?ナルバだって、これじゃあガンガルダ軍に備えるというよりは突然国境に現れたイェルゼン軍にビビって兵力を集めてるみてぇじゃねぇか」

「ん~、まぁナルバがイェルゼンにビビってるってのはあながち間違ってはいないかもね~」

「じゃあイェルゼンはガンガルダそっちのけでナルバを攻めようとしてるってことか?」

「いや、それは違うな~。イェルゼン王国にとってナルバ王国を攻めるというのは何もメリットがない。ただ無駄に兵力を減らすことになる。」

「は?じゃあどういうことだ?敵はなんなんだ?」

「だから最初にチェスが言ったでしょ~」

「……………ナルバの領地に潜んでるガンガルダ軍、か?」

「そうそう!わかってるじゃんクロイ~!」

「はぁ?だってナルバ軍が捜索してもいなかったって!」

「チッチッチッ!いないじゃなくて"見つけられなかった"んだよクロイ」

「は?」


 わけがわからないという風に頭を傾げるクロイにマシロは一度微笑んだ。


「いい?クロイ」

「?」

「目に見える情報、耳で聞こえる情報、鼻で嗅ぐ情報、口で味わう情報、触れて感じる情報……自らが直接体感できる情報だけに気を取られてはいけないよ」


 マシロはクロイの目、耳、鼻、口、そして頬をゆっくりと撫でると再びクロイに微笑んだ。


「私たちには頭がある。頭は考えるためのもの。だったら考えないでどうする?考えないというのなら、それはただの宝の持ち腐れだ。」

「考える…」

「そう。自分が体感できる情報と考える頭を組み合わせて1つの答えを導き出す。考えに考えて出した答えが、今自分に導き出せる最良の答え。その答えが気に入らないのなら、ゴールに届かないのならば、それは自分に蓄積された情報が、考えが、まだまだ足りない証拠。」

「……………」

「どう?クロイ。今この瞬間のクロイに出せる最良の答えは、導き出せた?」


 コツンッと音を立てて合わさったマシロとクロイの額。クロイから見えた光景には、マシロの長い前髪の隙間から見えた真っ赤な右目が写っていた。見たこともない真っ白な髪に、どこまでもまっすぐなオッドアイの瞳…。自分とそれほど歳も離れていないように見える目の前の女と自分の差にクロイは悔しさが溢れ返った。なぜ、どうして、自分とマシロはどこが違うのか…。もちろんこれまで歩んできた道は互いに違えど、ここ1ヶ月行動を共にするようになって少しづつであるが自分にないものを掴んできたつもりだった。自分は成長したつもりであった。しかし、この瞬間に彼は再び思い知らされたのである。マシロとの差は埋まるどころか出会ったころと何も変わっていない。寧ろ、出会ったころよりマシロの力を見せつけられその差は開いているとさえ感じる、と…。ふつふつと心を埋め尽くす"悔しい"という感情。だがしかし、ここで感情に飲み込まれて理性を投げ捨ててしまえば、自分はまた成長できる機会を逃してしまう。マシロに追いつくためには己を捨ててまで選択しなければならない道がある。クロイは人知れずグッと拳を握り締めた。


「……マシロ」

「ん?」

「……………っ、俺にもわかるように説明してくれ」

「ふふー、良い答えだよクロイ」


 嬉しそうに微笑んだマシロを見て、クロイは今一度決意した。

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