オムライス
子供の頃から1番好きな物は何か?
やっぱり「オムライス」かなぁ。
あの黄色いタマゴと赤いケチャップのコラボレーションの見た目は子供心にキラキラ輝いていた。
中学一年の時だった、そいつに初めて挑戦状を叩きつけた。
いや、叩きつけられた。
夏休みの初めの頃だったと思う。
部活が早く終わって家に帰ってきたら、誰も居ない。
めちゃめちゃ腹減って帰ってきたのに、母ちゃん居ないなんて!
冷蔵庫から麦茶を取り出して口飲みで一気に飲んだ。
母ちゃんが居たら怒られるが居ないというのはこう言う楽しみはあった。
喉の渇きは収まったが、腹の虫は収まる所かひどくなっていた。
カップ麺を探したが見つからず、冷蔵庫をあさった。
それなりに食材と呼ばれる物はあったが、その時の俺にはそれは食べ物では無かった。
だが、何も出来ない中坊でも目玉焼きくらいはできるはず。
おもむろにタマゴを取り出した。
しかしながら、そこで考えた。
目玉焼きくらいじゃ腹は膨れない、むしろ火に油を注ぐ様な物だ。
そして俺は無謀な挑戦をする事した。
まぁ、今思えばだがね。
何故そこで「オムライス」だったのか?
それは単に簡単だと思ったからに違いない。
何とも無知な男だ。
その時の俺は理由などない自信があった。
だって母ちゃんはいつもシャシャっとフライパンで作ってくれる。
俺はフライパンを用意し、考えた。
まずはタマゴはいる。そして中身はご飯、ケチャップライスだ。
ここで第一関門!
ケチャップライスの具は何だ?
ニンジンか?タマネギ?
ん!チキンライスって言うよなぁ。
て、言う事は鶏肉だよなぁ。
冷蔵庫から鶏肉とニンジンとタマネギを取り出した。
いよいよ戦闘開始!
まな板に鶏肉を置き、包丁で切りはじめた。
「なんじゃこりゃ!」
松田優作か!
鶏肉は自分が描いたようには全く切れず、包丁は鶏肉の上を滑るばかりで、ほとんど切れてない。
格闘すること十数分、切れたと言うよりちぎれた感じだった。
すでに心が折れそうになっていたが、ニンジンを手に取り切り始めた。
さっきの鶏肉と違い切れる事に感動すら覚え、心が復活!
ただ、これも想像とは違う大きさだったがそれは仕方ないと思い、タマネギを手に取ったが、無理だろうと言う誰かの囁きにあっさり諦める。
冷凍庫からご飯を取り出し、レンジで“チン!”
これはおてのもの、フライパンに油をひき鶏肉を入れニンジンも入れた。
炒めるだけなら簡単とばかりに鼻歌混じりにフライパンを振る。
ご飯を入れ、塩と味の素を入れた。
ここでどんな味になってようが、今から入れるケチャップで全てはOKになると信じていた。
臭いだけはそれぽっくなっていた。
これだけ食べてもよかったし、その方が腹の虫は収まったに違いないが、初志貫徹!
俺はタマゴに取り掛かった。
ボールにタマゴを割り入れた。
一個目が綺麗に割れて調子に乗り二個目は殻ごとボールの中へ。
以外と殻が取れず悪戦苦闘。
タマゴをかきまぜフライパンへ。
”じゅ〜ぅ“といい香が漂った。
フライパン一面に敷いたタマゴを見ていた。
もうすぐその愛らしい姿を現す「オムライス」を想像していた。
ところが、事態は一変した。
タマゴはまだ真ん中が液体のままなのに、端の方が焦げだしている。
それと同時にフライパンから煙りが上がり初めていた。
「やばい!」
箸でタマゴをめくろうとしたが、上手く剥がれず折れるわ破れるわ、真っ黒に焦げてるわ!
最悪の事態になった。
中学生に火加減などみじんも頭に無かった。
ここで諦める訳にはいかない。
新たなタマゴをボールに割りもう一度チャレンジ。
今後は慎重にタマゴを焼き始めた。
焦げない様に端を気にしつつタイミングをはかった。
そしてケチャップライスを投入!
もうすぐあの麗しいの「オムライス」が出来上がる。
心は弾んでいた。
見よう見真似でフライパンを返して巻こうと取っ手を持つ左手首を拳で叩いた。
次の瞬間、予想だにしない光景が広がった。
手首を叩いてフライパンが返り、中のケチャップライスはタマゴに巻かれる事なく、外に飛び出し、タマゴは崩れ落ちた。
「あっ!」
力加減などわからなかった。
こぼれ落ちたケチャップライスを慌てて拾い上げようとした。
「熱っ!」
ガスレンジの周りがこんなに熱い事を初めて知った。
今考えればケチャップライスの量も半端なく多かったし、無理もない事態だった。
もう心の炎は灯になっていた。
だが、俺は諦め無かった。
最後のタマゴ二個を手に最後のチャレンジ!
より慎重にタマゴを焼き、ケチャップライスだか何だかわからなくなった物を入れた。
今後はフライパンを返す様な高等テクニックはやめて、箸でゆっくりずらして動かし、フライパンの片側に寄せた。
人間とは学習する生き物た゛。
もうそこにゴールテープが見えてる。
だが若さとは恐れを知らない。
フニィシュは綺麗に決めてやろうと凝りもせずフライパンを返そうとした。
人間とは失敗を繰り返す生き物だ。
見るも無惨にその「オムライス」らしき黄色と赤色に焦げ茶色の物体は打ち上げられた謎の生物の様にフライパンの中にあった。
心の炎は消えた。
それでも腹の虫は収まらず、俺はそのお世辞にも「オムライス」とは言えないケチャップライスに焦げたタマゴが混じった熱くもあり、冷たくもあるものを掻き込んだ。
味は食べられる程度の物だった。
腹の虫は収まったが闘った疲れが一気に押し寄せ、俺は眠りについた。
その後、帰ってきて台所の惨劇を見た母ちゃんにめちゃめちゃ怒られた事は言わずともわかるだろう。
あれから「オムライス」に対する考えは180度変わった。
今でも大好きな食べ物はと聞かれたら迷わず答える。
「オムライス」はチャンピオンだ。
今では自分の息子に「オムライス」を作る事がしばしばある。
あの時の闘いは今だに作る度に思いだす。
中学一年の夏休み、諦め無かった闘いを…