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ハンドレース

作者: 葱野とろ

 まるで、パンデミックの様に世界中に広まった。いや、最初から彼らはそうなるように生まれてきたのだろうか。


 子供たちが、八の字の小さなレースコースに群がり、熱狂的な声援を挙げている。俺はそれを少し離れて眺めていた。

 彼らは夢中になっている。彼らしか出来ない、そのレースに。

 コースではモーターの音を猛々しく響かせながら、彼らの右腕がわきわきと指を蠢かせて走っていた。


 それは、平和的なサッカーの祭典の待ち構える、とある年の五月だった。生まれてきた子供たちの腕が、肘から下がぽろりと落ちていく病気が流行ったのだ。痛みがある様でもなく、その断面に何か不可解な所もなく、まるで最初からなかったように綺麗だった。

 それになった者の数はあまりに多く、阿鼻叫喚は想像以上に、異常に早く収まりすぐに商売へと転化した。

 必要になれば発展するとはよく言った物で、需要の増えた義手の性能は瞬く間に上がっていった。


 本物そっくりの触り心地をもつ義手、精密作業が出来る義手、中には何故だか、火をだせたり、ミサイルを撃てたりする物騒な義手も出てきた。

 つける当の本人たちも義手をつけるのが当たり前と思っており、世界は発生当初の悲壮的な雰囲気では無くなった。

 そして、ここ最近流行り始めたのが、ハンドレースである。

 仕組みは単純で、普段は通常の義手として使用でき、取り外して、手首のレーバー式のスイッチを一段階押すことで四輪駆動のタイヤが現れ、走る準備が出来る。

 あとはもう一度スイッチを二段階押して駆動する。そして、腕の切り口に着いたリモートシステムで操作するのだ。


 彼らの世代、彼らのみが遊べる遊び。歓声の中彼らの手がサーキットを駆け抜けていく。

 最初から手を持たない彼らと、手を持つことが当たり前の僕ら。


 彼らは、我々と違う。


 まるで進化したかの体の変化をしても、こんなにも彼らは我々と同化している。

誰もが笑顔で彼らを歓迎している。

 これからも、彼らはこの世界で生きていくのだろう。そして、普通に結婚して、普通に生活していく。はたして彼らの子供はどうなろうだろうか。同じように、手はないのか、それとも、先祖帰りのように再び手は生えてくるのか。

 じっと手を見つめる。

 五本の指は、僕の意思に従って、奇妙に、怪しく蠢いていた。


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