表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スイカ割り

作者: SMTN



「ねー、スイカ割りやろ。一発で割れたらご褒美あげるからさっ」


 彼女が薄く頬を染めながら言った、そんな台詞で始まった。



 黒い布で目を覆われる。


「じゃ、四九回、回って」

「ん」


 ぐるぐると、四九回転した。


「うわっ、ホントに四九回回ったっ。冗談だったのにっ」

「……」


 目隠し越しに睨み付けた。無言の圧力をかける。


「……ごっ、ごめんなさい」


 プレッシャーに負けた彼女は素直に謝った。


「ん」


 俺は大体目安を付けておいた地点まで、躊躇いなく小走した。


「ちょっ、あんなに回ったのに走ってる!?」


 驚愕の声が聞こえたが、

「気のせいだ」

 と答えておいた。

 そして、イメージ上のスイカがある地点の正面に立つ。そして腰を落として力を溜めると、手に持った棍棒を振り上げ――横に薙ぎ払った。

 スパンッ、と手応えが返ってきた。命中したらしい。目隠しを外す。


「えぇ!?横薙ぎッスか!?縦、縦!普通縦に振るでしょ!ていうか私、誘導する暇もなかったじゃん!したかったのに!それが楽しみだったのに!」

「いや、横に振った方が命中範囲が広いしな。それに誘導なんかされなくても割れるし」

「……楽しくな〜い。てか横に振るなんてひきょーだよ。ものの3分で終わっちゃったじゃん」

「……チッ、文句あるならもう一回やってやるよ」


 そして、俺は出発地点まで戻り、目隠しをし、十回回った。


「うん♪じゃあ誘導しま〜す。えっとねー、そのまま大体五十……」


 ひゅ。俺は棍棒を投げた。強烈に回転したソレは、一直線にスイカへと向かい、そして突き抜けた。


「歩。ってえぇ!?」

「当たった?」


 が、スイカを見ると、完全な球体のまま、ビニールシートの上に佇んでいる。後方には、棍棒が砂浜に深々と突き刺さっていた。


「……アレ?割れてないの?」

「大丈夫、割れてないけど……」


 言いながらスイカに近付いた。

 俺はスイカの蔓を掴み、上に引き上げた。クチャッという音を立て、上半分が持ち上がった。下半分はそのまま。あまりに鋭すぎる断面に、赤い果汁など一滴も零れない。


「斬れてるから」

「棍棒で!?」




 三十秒で食い終わった。


「早っ!てか種は!?」

「飲んだ」

「飲っ……!?」

「え?」

「そこに疑問!?」


 う〜む?なんか変な事したか、俺?


「……で、ご褒美ってのは?」

「……あっ、そうだったね。ハイ」


 言って、目を閉じてこっちを向く。


「なんの真似だ」

「……だから、ご褒美だよっ」

「阿呆か」

「…………うぅっ…………酷い…………」


 あっ、マジ泣き。

 ……これはどうしたものか。


「……」


 シャク、とスイカを口に含む、隣で泣く彼女。

「……じゃあ、スイカよこせ」

「……私のキスよりスイカの方が良いんだ……」


 そしてまた、スイカを口に含んだ。


「うっせぇな」


 ガシッ、彼女の頭を掴むと、グルンッ、強制的にこっちを向かせた。


「ぐぇっ」


 彼女は急激に首を回された事で、潰れたカエルの様な声を出した。俺はその声が出た箇所から、直接彼女のスイカを頂いた。


「うぶっ!?」

「……ん。ごちそうさまでした」


ニヤリ、と笑う。俺の唇に付いた赤い果汁を、ペロリと舐めてみせた。


「…………おっ、お粗末様でしたっ!」


 頭から湯気を出しながら、かすれた声を出す彼女。


……なんだかんだで、酷く可愛らしい。


彼女は俺が笑いながら彼女を見ている事に気付くと、更に顔の色彩を鮮やかに染め、そのままスイカを放り投げ、何処かへ走って逃げていった。


「あっ、馬鹿、食い物を粗末にすんなっ」


 咄嗟に腕を伸ばして、スイカが地面に付く前に捕獲した。

 そのころにはもう彼女の姿は無かった。


「……」


 手の中には、彼女の食べかけのスイカ。


「………」






シャクッ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 彼氏と彼女の微笑ましいやり取りが、良かったと思います、彼氏の超人ぷりに多少笑えました、強いて言えば二人だけでなく、回りからの視線等を加えたら更に良くなると思います
[一言] 彼氏と彼女のやりとりがなんとも微笑ましい作品で、とても楽しませていただきました。 これからも執筆頑張って下さい。
[一言] はじめまして。 思わずニヤリとしてしまう彼と彼女のやりとりでした。 スイカ割りの楽しそうな風景も想像出来ました。 ただ、行間をとらないことで多少読みづらいかなぁと。 これからも執筆頑張って下…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ