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恋愛もの?

募金は額じゃない、気持ちが大切

作者: 馬 stallion
掲載日:2011/04/27

街を歩いていると、たまに見かける光景。

そして最近よく見る光景。


「募金お願いします! 募金お願いします!」



それを見る度に私は思い出す。

あの頃を、あの時を、あの娘を・・・。




いつも私は同じ時間に目が覚める。


7時5分。


別に目覚ましがセットしてある訳でもなく、何かに追われている訳でもない。

人の習慣は恐ろしいものだ。

社会人としての生活が始まって早9年。

その内で刺激にあふれた日々は、3・4年程度のものだった。


残りは同じ毎日の繰り返し。

学生気分が抜けず、朝起きる事が窮屈であった日々もどこへやら。

7時5分は体が覚えてしまった。

淡々と用意を済まし、7時30分には家を出る。

社用車を運転し、30分弱。

8時からが仕事の始まりだ。

そして17時半には全てを終えて帰路に着く。

これが平日。

週末は溜まった洗濯物などの家事、ゴルフの練習、一人酒などであっという間に時間が過ぎる。


この8年何をしていたのか?と言われれば、「何となく生きてきた」と言うだろう。

残りの1年、いやここ最近の私は違った。


今、こうして8年間をそう表現できるのにも訳があった。

いや8年間を見下す理由があった。


この1年は、「目的を持って生きること」ができているからだ。



昨年の春に人事異動により、私の部署からも2名程異動者が出た。

昇進していったもの、新たな事業に携わるもの。

そんなお二方の門出を祝い、2月に送別会が実施された。

その二次会での出来事だ。


馴染みのスナックへ移動した私達。

その店のママと我が部署の付き合いはどうも古いらしい。

私が入社するよりもっと前から、ママと我が部署は繋がっている。

社内の人間はもちろん、得意先など面識のある人物は数知れず、

その人間関係をも把握している。


年に5、6回程度そこへ足を伸ばす機会がある。

送別会、歓迎会、忘年会、新年会、慰労会。

何気ない8年だが、店へは40回ぐらい行ったのだろう。


その店の名前は「ムーン」


10時頃、ムーンでオープン席を陣取り、私を含め6人の男が座ることになった。

そこへ女性が2名、焼酎の水割りやお茶割りを作り、お絞りを渡し・・・と動いている。


私は上着を最後に店の女性に預け、席に付こうとした。

お茶割りを作っていた女性が、こちらに向き直り、

「お飲み物はどうなさいますか?」と尋ねてきた。


私は、息を飲んだ。

いや、恋に落ちた・・・一目で。

その子は私の恋焦がれた女性に、何処と無く雰囲気が似ていた。

大きくて少し吊り上ったネコのような目。

高くも大きくもないが、形の綺麗な鼻、白い肌、長くてゆるいパーマが掛かった髪。

薄い上唇と少し口角があがった・・・いわゆるアヒル口。


「水割りで・・・」


そう言いながら、私は彼女の所作を見守った。

歳は・・・21、22ぐらいか。



「今日は会社の飲み会か、何かですか?」

そう言いながら、彼女は両手を添えて私の元に水割りをそっと置いた。


「あぁ、まぁね。」

私は少し屈んだ彼女を、上から見るように仰け反り、ソファーに寄り掛かった。

そして胸元のポケットからタバコを取り出した。


それを見て直ぐに、彼女は膝の上に置いた小さなポーチからライターを取り出し、

火を付けてくれた。

その流れのまま、

「ナオっていいます、よろしくね。」


愛らしい笑顔で彼女は私の心にも火をつけた。


それ日から私は、とある事にムーンへ通うようになった。


会社の面々を避けるために、週の真ん中や土曜日に。


ナオには土曜日に確実に逢う事ができた。


一人でカウンターに座り、時折歌を歌う。

ナオとどうでも良い話に花を咲かす。



去年の暮れの事だ。

私は彼女の水商売への動機を聞いてみた事があった。


彼女はこう答えた。

「お金が欲しいの、欲しいものがいっぱいあって、行きたい所がいっぱいあって、

やりたい事もあるから・・・」


話を深く聞いていくと、

ブランド物の服やバック、時計、海外旅行とネイルサロンを開きたいらしいのだが、

私はパトロンには成れないし、貢ぐ程裕福でもない。


「じゃー、俺が募金活動をしてやるよ。 ナオに逢う度に。」


そういって、サイフから千円取り出した。

小遣いやプレゼントは値が張る。

募金であれば千円は高いだろう。


「あくまでも募金だから! 金額じゃないぞ!気持ちが大切なんだ!」


「じゃーお店にいっぱい来てね」

そういってナオは最高の笑顔を見せてくれた。


調子に乗って私はこう返す。

「あとさ・・・募金だけど、たくさん溜まったら俺とデートしてね」


「えーーーそういうことーー?」

そう言いながら、ナオはまた笑顔を見せてくれた。






そんなやり取りがあって、とある土曜日。

私はムーンへと向かった。

募金活動だ。


いつものようにカウンターに座り、焼酎を水割りで飲む。

ナオがいない・・・。

たまに遅くに来る日があったが、既に10時を回っていた。


「ママ・・・ナオちゃんは?」


「あ!・・・言ってなかったのね・・・。あの娘、昨日で辞めちゃったのよ」


な・・・なんだって・・・。

随分と酷い仕打ちじゃないか・・・ナオ・・・。

でも仕方ないか・・・、私はただの客だ。


それにしても水臭いな・・・。


希望が無くなっては店にも用がない。

大して美味しくも無い水割りをそうそうに飲み干し、

私は店を出ることにした。


また、何となく生きる日々が始まるのか。




「あ! ショウさん!! いたいた!!」


ナオ!?


「ごめんね、水商売・・・親にバレちゃったの・・・だから急に辞めないといけなくて・・・」


「そうか・・・そんなことがあったのか・・・、それじゃあ、どうしようもないよね。」


「うん・・・ごめんね、今日はそれだけショウさんに言いたくて・・・」


「そっか、わざわざありがとう。 俺の目に狂いは無かったよ。 ナオは良い子だって思ってたから。」


私がそう言うとナオは照れ笑いを浮かべた。

相変わらずの笑顔がそこにあった。


「そうだ・・・これ、 はい! 募金!! 募金っていうか、もう餞別かな。 がんばってね!」

俺は最後の募金を、千円をサイフから取り出して彼女に渡した。


「・・・いつもありがとう、じゃーデートしよっか? 私が全部おごるから!」


「え? そんな・・・奢ってもらったら、今までの募金が意味ないじゃん!

それに・・・今日でまだ一万円ぐらいじゃないか?!」


「いいの、そんな事。 募金なんだから、金額じゃなくて気持ちが大事なんだよ」


「そ・・・そりゃそうだけど・・・」


「じゃあ、ちゃんと朝まで付き合ってね?」


「!!」





翌朝、私は目を覚ました・・・9時5分。


ナオ・・・?

部屋にいる気配は無かった。


ベットのサイドテーブルに書置きが一つ。


「ショウさん、応援してくれてありがとう、うれしかった。 さようなら」



違うんだ・・・

俺は、君の事が・・・。






「募金お願いします!募金お願いしまーす!」


私はポケットから財布を取り出し、千円札を募金箱へと入れた。

そこに気持ちは無かった。


「ありがとうございます!」


募金箱を持った女性は深々と頭を下げてくれた。


「金額じゃなくて、気持ちが大事なんだよ!」

ナオの声が聞こえた気がした。

淡々と入れた千円に罪悪感を感じる・・・。


「すいません、もう一回入れます」


「え?」


その女性はこう思っただろう。

「何言ってるんだ?この人?」

そんな顔を浮かべている。


私は再び財布を手に取った。

千円札が無い・・・万札なら・・・ある。


小銭入れのチャックを開ける。

ざっと見て300円程度の小銭がある。


私はその中から100円玉を取り出して、募金箱へと入れた。


気持ちを込めて・・・


恋愛ものを書きたかったんですが、

脱線しがちです。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公には申し訳ないのですが、初めから脈なしだったのでは……。 気持ちのこもった百円と、何も考えないで入れた千円、どちらの方がありがたいんでしょうね。一万円札を選ばない辺りはリアルだなと…
[良い点] 最後まで読みました。男性の不器用でぎこちない気持がとても伝わってきました。互いの考え方や価値観の違いがあり過程があり、結果的にそうなると言う事がとても解りやすかったです。 [気になる点] …
[一言] 「募金お願いします!!」と云うそんな貴方に問う 「貴方はいくら募金しましたか?」と
2011/04/27 18:10 退会済み
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