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恋愛もの?

募金は額じゃない、気持ちが大切

作者: 馬 stallion

街を歩いていると、たまに見かける光景。

そして最近よく見る光景。


「募金お願いします! 募金お願いします!」



それを見る度に私は思い出す。

あの頃を、あの時を、あの娘を・・・。




いつも私は同じ時間に目が覚める。


7時5分。


別に目覚ましがセットしてある訳でもなく、何かに追われている訳でもない。

人の習慣は恐ろしいものだ。

社会人としての生活が始まって早9年。

その内で刺激にあふれた日々は、3・4年程度のものだった。


残りは同じ毎日の繰り返し。

学生気分が抜けず、朝起きる事が窮屈であった日々もどこへやら。

7時5分は体が覚えてしまった。

淡々と用意を済まし、7時30分には家を出る。

社用車を運転し、30分弱。

8時からが仕事の始まりだ。

そして17時半には全てを終えて帰路に着く。

これが平日。

週末は溜まった洗濯物などの家事、ゴルフの練習、一人酒などであっという間に時間が過ぎる。


この8年何をしていたのか?と言われれば、「何となく生きてきた」と言うだろう。

残りの1年、いやここ最近の私は違った。


今、こうして8年間をそう表現できるのにも訳があった。

いや8年間を見下す理由があった。


この1年は、「目的を持って生きること」ができているからだ。



昨年の春に人事異動により、私の部署からも2名程異動者が出た。

昇進していったもの、新たな事業に携わるもの。

そんなお二方の門出を祝い、2月に送別会が実施された。

その二次会での出来事だ。


馴染みのスナックへ移動した私達。

その店のママと我が部署の付き合いはどうも古いらしい。

私が入社するよりもっと前から、ママと我が部署は繋がっている。

社内の人間はもちろん、得意先など面識のある人物は数知れず、

その人間関係をも把握している。


年に5、6回程度そこへ足を伸ばす機会がある。

送別会、歓迎会、忘年会、新年会、慰労会。

何気ない8年だが、店へは40回ぐらい行ったのだろう。


その店の名前は「ムーン」


10時頃、ムーンでオープン席を陣取り、私を含め6人の男が座ることになった。

そこへ女性が2名、焼酎の水割りやお茶割りを作り、お絞りを渡し・・・と動いている。


私は上着を最後に店の女性に預け、席に付こうとした。

お茶割りを作っていた女性が、こちらに向き直り、

「お飲み物はどうなさいますか?」と尋ねてきた。


私は、息を飲んだ。

いや、恋に落ちた・・・一目で。

その子は私の恋焦がれた女性に、何処と無く雰囲気が似ていた。

大きくて少し吊り上ったネコのような目。

高くも大きくもないが、形の綺麗な鼻、白い肌、長くてゆるいパーマが掛かった髪。

薄い上唇と少し口角があがった・・・いわゆるアヒル口。


「水割りで・・・」


そう言いながら、私は彼女の所作を見守った。

歳は・・・21、22ぐらいか。



「今日は会社の飲み会か、何かですか?」

そう言いながら、彼女は両手を添えて私の元に水割りをそっと置いた。


「あぁ、まぁね。」

私は少し屈んだ彼女を、上から見るように仰け反り、ソファーに寄り掛かった。

そして胸元のポケットからタバコを取り出した。


それを見て直ぐに、彼女は膝の上に置いた小さなポーチからライターを取り出し、

火を付けてくれた。

その流れのまま、

「ナオっていいます、よろしくね。」


愛らしい笑顔で彼女は私の心にも火をつけた。


それ日から私は、とある事にムーンへ通うようになった。


会社の面々を避けるために、週の真ん中や土曜日に。


ナオには土曜日に確実に逢う事ができた。


一人でカウンターに座り、時折歌を歌う。

ナオとどうでも良い話に花を咲かす。



去年の暮れの事だ。

私は彼女の水商売への動機を聞いてみた事があった。


彼女はこう答えた。

「お金が欲しいの、欲しいものがいっぱいあって、行きたい所がいっぱいあって、

やりたい事もあるから・・・」


話を深く聞いていくと、

ブランド物の服やバック、時計、海外旅行とネイルサロンを開きたいらしいのだが、

私はパトロンには成れないし、貢ぐ程裕福でもない。


「じゃー、俺が募金活動をしてやるよ。 ナオに逢う度に。」


そういって、サイフから千円取り出した。

小遣いやプレゼントは値が張る。

募金であれば千円は高いだろう。


「あくまでも募金だから! 金額じゃないぞ!気持ちが大切なんだ!」


「じゃーお店にいっぱい来てね」

そういってナオは最高の笑顔を見せてくれた。


調子に乗って私はこう返す。

「あとさ・・・募金だけど、たくさん溜まったら俺とデートしてね」


「えーーーそういうことーー?」

そう言いながら、ナオはまた笑顔を見せてくれた。






そんなやり取りがあって、とある土曜日。

私はムーンへと向かった。

募金活動だ。


いつものようにカウンターに座り、焼酎を水割りで飲む。

ナオがいない・・・。

たまに遅くに来る日があったが、既に10時を回っていた。


「ママ・・・ナオちゃんは?」


「あ!・・・言ってなかったのね・・・。あの娘、昨日で辞めちゃったのよ」


な・・・なんだって・・・。

随分と酷い仕打ちじゃないか・・・ナオ・・・。

でも仕方ないか・・・、私はただの客だ。


それにしても水臭いな・・・。


希望が無くなっては店にも用がない。

大して美味しくも無い水割りをそうそうに飲み干し、

私は店を出ることにした。


また、何となく生きる日々が始まるのか。




「あ! ショウさん!! いたいた!!」


ナオ!?


「ごめんね、水商売・・・親にバレちゃったの・・・だから急に辞めないといけなくて・・・」


「そうか・・・そんなことがあったのか・・・、それじゃあ、どうしようもないよね。」


「うん・・・ごめんね、今日はそれだけショウさんに言いたくて・・・」


「そっか、わざわざありがとう。 俺の目に狂いは無かったよ。 ナオは良い子だって思ってたから。」


私がそう言うとナオは照れ笑いを浮かべた。

相変わらずの笑顔がそこにあった。


「そうだ・・・これ、 はい! 募金!! 募金っていうか、もう餞別かな。 がんばってね!」

俺は最後の募金を、千円をサイフから取り出して彼女に渡した。


「・・・いつもありがとう、じゃーデートしよっか? 私が全部おごるから!」


「え? そんな・・・奢ってもらったら、今までの募金が意味ないじゃん!

それに・・・今日でまだ一万円ぐらいじゃないか?!」


「いいの、そんな事。 募金なんだから、金額じゃなくて気持ちが大事なんだよ」


「そ・・・そりゃそうだけど・・・」


「じゃあ、ちゃんと朝まで付き合ってね?」


「!!」





翌朝、私は目を覚ました・・・9時5分。


ナオ・・・?

部屋にいる気配は無かった。


ベットのサイドテーブルに書置きが一つ。


「ショウさん、応援してくれてありがとう、うれしかった。 さようなら」



違うんだ・・・

俺は、君の事が・・・。






「募金お願いします!募金お願いしまーす!」


私はポケットから財布を取り出し、千円札を募金箱へと入れた。

そこに気持ちは無かった。


「ありがとうございます!」


募金箱を持った女性は深々と頭を下げてくれた。


「金額じゃなくて、気持ちが大事なんだよ!」

ナオの声が聞こえた気がした。

淡々と入れた千円に罪悪感を感じる・・・。


「すいません、もう一回入れます」


「え?」


その女性はこう思っただろう。

「何言ってるんだ?この人?」

そんな顔を浮かべている。


私は再び財布を手に取った。

千円札が無い・・・万札なら・・・ある。


小銭入れのチャックを開ける。

ざっと見て300円程度の小銭がある。


私はその中から100円玉を取り出して、募金箱へと入れた。


気持ちを込めて・・・


恋愛ものを書きたかったんですが、

脱線しがちです。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公には申し訳ないのですが、初めから脈なしだったのでは……。 気持ちのこもった百円と、何も考えないで入れた千円、どちらの方がありがたいんでしょうね。一万円札を選ばない辺りはリアルだなと…
[良い点] 最後まで読みました。男性の不器用でぎこちない気持がとても伝わってきました。互いの考え方や価値観の違いがあり過程があり、結果的にそうなると言う事がとても解りやすかったです。 [気になる点] …
[一言] 「募金お願いします!!」と云うそんな貴方に問う 「貴方はいくら募金しましたか?」と
2011/04/27 18:10 退会済み
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