私は我が家の富を独り占めしている悪女だそうです
悪女物(と言い張る)です。
日間異世界恋愛短編部門 13位!?にランクインしました!
いいんですか……マジでありがとうございます!
誤字報告もありがたいです!
……あんなに校正したのにな。
「おい見ろよ」
「まただわ、あの方」
聞こえてきた呆れを含んだ声に顔をあげると、数人の男子生徒に囲まれた女生徒が、中庭のベンチに座っているのが見えた。
目元にハンカチを当て肩を震わせる庇護欲を唆る姿に、周りに侍る男子生徒は鼻の下を伸ばしてる。
「おはよう、デナン嬢」
「あらおはようございます、ブルーノ先生」
近づいてきた教諭に軽く会釈すると、学年主任のブルーノ先生は眉を顰めて中庭の集団を睨んだ。
「またか」
「またみたいですね」
「懲りないな」
「懲りませんね」
「次騒ぎを起こしたら退学だと通達した筈だが」
「右から左なのでしょう、今年も」
「おい!」
「君のお爺さま達はなんと?」
「お爺さまも義祖母さまも叱ってるのだけど、本人が何一つ理解してなくて」
「知能は普通なんだよな?」
「そこは平均ですわ」
「おいと言ってる!」
突然私と先生の前に立ちはだかったのは、確か騎士学校から今年編入してきたリアン・ニード男爵子息。
「まあ、私を呼んでましたの?」
「おまえに決まってるだろう!フィリア・デナン!」
彼の声に女生徒と他の男子生徒も、立ち上がって私の行く手を阻むかのようにずらりと並んだ。
先月入学したばかりのレイ・キース子爵子息に、遊学から帰ってきたダニア・ホーン伯爵令息。
見事にここ数年の騒ぎを知らない殿方ばかりが、三人並んでる。
「あら……今年は伯爵家が交ざってますわね」
「上級貴族がいるのは何年ぶりかな」
「なんて言うと思う?あの方」
「そりゃあ、アレだろ」
ひそひそとでも楽しげに交わされる会話に、私は溜息をつく。
マナー違反だけれど、また見世物になるのだから、溜息くらいは許して欲しい。
「おれはおまえが、このエミリーを虐げていると聞いたぞ!」
そうだ!そうだ!と取り巻きたちが囃す。
「おまえ一人がデナン侯爵家の金を独り占めし、エミリーには一銭も使わせないそうだな!」
「入学寄付金が足りないから、貴族科ではなく平民科に通わされてるとも聞いた!」
「フィリア……」
うるうると瞳を潤ませるエミリー・マルキス男爵令嬢の肩を抱いたニード男爵子息は、鼻息も荒く私に指を突き付け叫ぶ。
「おまえのような女を悪女と言うんだ!!!」
「それで結構よ」
「……は?」
マヌケなニード男爵子息の声に、そこかしこから失笑が漏れる。
「結構だと言ったのよ。
それで貴方は一体どこの誰なのかしら?
私、紹介された覚えはないのだけど」
私に正論を言われたことで、顔を赤くしたニード達は、いきり立ち私への暴言を吐き散らした。
「開きなおるとは可愛げのない!」
「これだから悪女と言われるんだ!」
仲間の声に押されてかニード男爵子息は、エミリーの肩を更に強く抱き寄せて、鼻息荒く叫んだ。
「そんなに生意気だからまだ婚約が決まらないんだろう!どうせ貴様のように金に汚い女は、結婚も出来まい!エミリーと違ってな!」
一瞬、しんと空気が静まった。
ニード男爵子息は、その空気を勝ち確だと勘違いしたようで、私に追撃しようと口を開いたけど
「貴様、今何と言った?」
冷たい先生の声を聞いて青褪めた。
「モ、モリス公爵」
「侯爵家の娘を公衆の面前で、貶められるほど貴様が偉いとは私は知らなかったな」
「あ、いえ……お、私は」
「しかも私をモリス公爵と呼んだな?この場では先生と呼ぶべきなのに」
先生の言葉に、ニード男爵子息はエミリーを見た。彼の『助けてくれ』と言う視線の意味をわからないエミリーは、首を傾げて言った。
「あらでもナサニエル様はモリラ公爵でもありますよね?リアンは間違ってませんわ」
静まっていた空気が更にそれより一段階静まる。
よりによって、ブルーノ先生のお名前をお許しもなく呼ぶだなんて、どんな神経してるのかしら。
「エミリー・マルキス」
「先生が私の名前を呼んでくださるの一年ぶりですわね」
嬉しいわとコロコロ笑うエミリーだけが、この場の空気を読めてない。
「本日を以て君は退学処分とする」
「……え」
「この三年、毎年この時期に同じ様な騒ぎを繰り返し、他人の家名を間違え、剰え許しもなく上位の家の者の名を呼ぶような低能など、この学園にはいらん」
ざわ、と周囲がざわめく。
当たり前だと言う声と、やっとかと言う声が多数の中、エミリーとその取り巻きだけが、それに納得出来ず、先生の発言に異を唱えた。
「横暴だ!」
「いくら教師とは言え、そんな横暴が許されて良いはずがない!」
「公爵家の権力で一生徒の進退を断つなんて、我がホーン伯爵家からも意見させて頂く!」
「みんな私のためにありがとう、……それもこれもフィリアが悪いんだわ!」
取り巻きの声に勇気を得た(ような演技で)エミリーは、私への非難を始める。
「貴女が私が何度お願いしても、ずっと私の分の予算を独り占めしてるから、私は平民科に転科しなくちゃならなくなったのよ!!」
一応それは事実ではある。
『平民科に転科しなくちゃならなくなった』ってところだけは。
「あげくに、貴女のせいで私は退学を言い渡されたじゃない!!私がデナン侯爵の娘なのに!」
お決まりのセリフを涙ながらに叫んだエミリーに、もう何回目かもわからないセリフを私は返した。
「貴女は前デナン侯爵現マルキス男爵の娘でしょ」
「お父様はデナン侯爵だったわ!」
「過去形じゃない」
「お兄様がお父様から侯爵位を奪ったんだわ!」
「……もう何度も説明したのに未だにわからないのね、叔母様」
「叔母だなんて言わないで!!姪のくせに生意気よ!」
矛盾してるセリフをエミリーが叫んだところで、ホーン伯爵令息が呟いた。
「お、叔母?妹でなく?」
「従姉妹だろ?」
「義妹だとばかり……」
三人三様訳が分からないと周囲を見回して、たまたま目が合った生徒が馬鹿らしそうに答えた。
「デナン侯爵とマルキス男爵家については、少し調べれば簡単に分かる基礎知識なんだけど」
そうなのエミリーは、私の姉妹でも従姉妹でもなく『叔母』。
しかも同い年の。
私もエミリーが叔母だと知らされた六歳の時は、さすがに『ええ……ちょっと……』とは思わなくもなかったけど。
私のお祖母様を若くして亡くしたお祖父さまは、父が成人するまで再婚はしなかった。
父が成人し結婚したので家督を譲り、保養地の別宅で暮らし始めたところで、近くの屋敷に住むとある訳あり貴族令嬢と恋に落ちた。
その時祖父は四十七歳、義祖母は三十歳。
細やかな結婚式を行い、二人はひっそりと愛を育み半年後子どもが出来ました。
祖父も義祖母も物凄く驚いたそう。
とくに義祖母は子どもが出来ない嫁は必要ないと婚家を追い出されたから、喜びよりも驚きのが強かったらしい。
おめでたいことではあるけど、父はちょっと難色を示した。
なんせ妻のお腹にも子ども(私)がいたから。
祖父も義祖母も自分たちの娘と孫が同い年なことは、醜聞だと囃される可能性もあるので、エミリーの学園入学までは、保養地で暮らすと約束してくれた。
その際お爺さまは『一度引退した身だが、エミリーが嫁ぐまでは、デナン侯爵家が持つ男爵位を使わせて欲しい』と、お父様に頭を下げた。
なのに。
エミリーは、幼い頃から何度諭されようが、叱られようが、それをちっとも理解しようとしなかった。
本当なら自分が、デナン侯爵家の跡取り娘だったはずだと曲解して。幾度も泣いて祖父に訴えた。
祖父も何度も噛んで含めるように諭したし、時には末子であるエミリーが、跡取りになることは絶対ないと叱りもした。
義祖母だって、並の男爵家よりは資産も潤沢で、エミリーの兄であり私の父デナン侯爵も、十八も年の離れた血の繋がりが半分しかない貴女を、妹だと認めてくれているのに何が不満なの?と問いただした。
エミリーは『本来なら自分が持つべきものを、同い年の姪が持っているのが気に食わない』と泣き叫んだらしい。
そんなこと言うくせに、エミリーは行儀作法も勉強も、男爵令嬢の合格ラインにギリギリ達するくらいしか身に付けなかった。
祖父母が何か言えば『どうせ自分は男爵家程度にしか嫁げないのだからこれでいい』のだと開きなおる始末。
でも自分の生活水準は、フィリアと同等でないと嫌だと泣き喚く。私がデナン侯爵家の娘だったんだから!と。
三年前私と同じ学園に通うようになったエミリーは『自分こそが正当なデナン侯爵家の娘だ、フィリアの父は不当な手段でデナン侯爵位を奪ったんだ』と吹聴した。
デナン侯爵の世代交代は、親世代には知られていることでも、子世代にはあまり知られていなかったからか、二年前はエミリーの言う事を信じる人も多かった。
でもねえ、箝口令が敷かれてる訳でもないんだから、一カ月も経てばエミリーの言うことが、おかしいのだとすぐに知れ渡ったわ。
それに伴い私を非難していた方々も、ご両親と共に平身低頭謝罪してきたから、余程な人以外は寛大な心で許してあげたわ。
余程な人には、それなりの制裁はしたしね。
なのに翌年もエミリーは同じように、事情に疎い新入生達に『自分こそが正当なデナン侯爵の娘』だと吹聴して、激怒したお祖父様と学園長によって、貴族科から平民科に転科させられた。
甘いとは思ったけど、学園は次に何か騒ぎを起こしたら退学だと彼女に通達したし、お祖父様も修道院に入れると言い渡した。
ここまでキツく言われたら、さすがのエミリーも理解すると思っていたのだけど。
なに一つ理解してなかったみたいね。
あのあと激怒したお祖父様が、すぐに手配した修道院へと運ばれる馬車の中でも、『どうしてよ!?私がデナン侯爵の娘なのに!』エミリーはそう喚いていたらしい。
自分達はなにも知らなかったと、慌てて謝ってきた各令息にはそれなりの制裁をさせてもらった。
特にニード男爵子息とホーン伯爵令息には、キツめに。
「デナン侯爵令嬢」
やっと静かになった学園のベンチで、読書をしようとした私に声がかかった。
「はい、なんでしょう。ブルーノ先生?」
「今はナサニエルでいい」
「はいナサニエル様」
「アレが居なくなったが」
「はい」
「私と君の婚約についてだが」
「ええ」
「予定通り君が学園を卒業してから、社交界に広めようと思う」
「はい。それで構いません」
ふむ、と先生はうなずいた。
「異論はないのか?」
「在学中に教師と生徒が婚約しているなんて、ちょっと外聞が良くありませんもの」
私の言葉に、先生─ナサニエルは決まり悪げに頭を下げた。
「私が教職に就いたせいで、君との婚約を入学時に発表出来なくてすまない」
「丁度良かったと私は思ってます」
「卒業後の発表が?」
「ええだって、早くに私と貴方の婚約を発表していたら、きっとエミリーは『ナサニエル様は私の婚約者だったのに!』と言ったでしょうから」
私の発言にナサニエルは、口を数回開閉させたあと、物凄〜く嫌そうに「悪夢だな」と吐き捨てた。
「だから私と貴方の婚約は、卒業後発表で良いのです」
「……しかしアレが居なくなってから、デナン侯爵に釣り書きが山のように届いたと私は聞いたぞ」
「届いてますけどお断りしてますわ」
「学園でも君と縁を繋ごうと男子生徒が列を成してると」
「私は誰にもなにもお応えしてませんわ」
私がニコリと笑うと、眉間に皺を寄せた彼は
「……少し君が悪女な気がしてきた」
なんて困ったように呟くから、淑女らしく笑って差し上げたわ。
私が書いたにしてはちゃんと恋愛してんじゃね?
と思うのですが。
最新作です↓
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