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空虚

作者:
掲載日:2026/07/30

 ソファに身体を横たえ、自らの鼓動で体が小さく揺れるのを感じている。天井を見つめるその視線の先には、ただ、ただ虚無が広がるばかりである。苦しさではない。恐怖とも違う。無限に思える退屈が重くのしかかり、脳を蝕んでゆく。

 明日のことを考える。それはきっとすぐにやって来る。這いつくばり、呻きながら身支度をし、家を出て、電車に乗る。この体の何処にそんな気力があるというのだろうか。ああ、嫌だ。理由など無いが、ただひたすらに無気力が身体を満たす。

 現実は受け入れ難く、気が狂いそうになる。耐えかねて、家を出、深夜の街を行くあてもなく歩き始める。人気はほとんどない。時々すれ違う人も、昼間の明るすぎる光の中とは違い、こちらをはっきり認識する事はない。その事実に少しだけ、呼吸がしやすくなる。

 この頭を押さえつけているこの怠さは一体何なのだろうか。何かを考えようとする度、頭にかかった霧が思考を遮る。霧は重苦しく広がり、自らの感情すら認識出来ないほどに頭全体を覆う。いつからだろうか。いつからこうなってしまったのだろうか。十歳頃まではまだ、希望に満ち溢れて毎日楽しく生きていた。しかしそれは、残された日記や写真の記録として残るだけで、実際に自らの体験とした記憶としては存在しない。私はあの頃の自分の思考を追体験することは最早出来ない。現在の自分との連続性を疑うほどには、繋がりを見つけることができない。

 どのくらい歩いたのか分からないが、段々とこれが現実なのかどうか、境目が曖昧になってくる。街灯は揺れ、真っ直ぐ歩くことが出来ない。このまま身体の輪郭が夜という時間に溶けてしまえばいいと願う。退屈で退屈で仕方がない。唯々、何をするにつけても、体は重苦しく、楽しそうな振る舞いだけが上手くなる。希死念慮はあっても死のうとは思わない。気力がないのだ。到底受け入れられるものではない。朝起きて、動く、それだけの気力がない。何も無い空間を夢見る。目を覚ましたら、無機物だけが存在する空間に一人になったなら、どんなに良いだろう。虚無の空間の中で自らの中の虚無を溶かす事ができたなら。

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