9-2. 再会の握手
運命の中に偶然はない。
人間はある運命に出会う以前に、
自分でそれを作っているのだ。
政治家 ウッドロー・ウィルソン
刑務所のグラウンドには、壁はあっても天井はない。もし、そこにふたをしてしまったら、囚人たちは皆茹で上がってしまう。それほどの熱気が渦巻いていて、試合開始前にも関わらず、まるでサヨナラのチャンスのようだ。十月の高い空まで、歓声が突き抜けていく。
「ごめんね、あんなに怖がってちゃ、皆に失礼だよね」
率いてきた選手たちがびくびくしているのを、こうして代わりに謝ったのは、今やヤンキースの監督を務めるあのクリスだ。内外から囁かれる不安を押し切って、この一大イベントの実行に踏み切った張本人である。
ケイシーとしては、その心意気に忝く思うほかない。
「いや、そっちこそシーズン終わったばっかだってのに、ありがとうな。お前に会えて嬉しいよ」
ホームベースを跨ぐようにして、右手を差し出した。クリスは間髪入れずにがっちりとその手を握る。前に会った時は、まだ幼気な子供だった。それが今や、流石に元メジャーリーガー、握手で伝わる手の大きさ、力強さは、力自慢のケイシーが驚くくらいだ。けれども、変わらない優しさが言葉の端々ににじみ出る。
「ううん、ずっと気になってたんだ。あれからあそこへ行っても、皆と会えなかったからね」
「それは……、悪い事したな」
「ほんとだよ。まさか、次に会うのがこんな形になるとは、想像もできなかったな」
「ああ、それは俺も、そうだ」
ヤンキースのナインに寄せられる観客たちの拍手や声で、ケイシーたちの会話は時折かき消される。感慨に浸っている余裕があるのは、この二人だけだ。
「聞いたよ。今日、大事な日なんだって」
クリスは、ケイシーの目をじっと見据えて言った。端から見れば、奇妙なことこの上ない。マンハッタンで煌めくスター集団が、刑務所のグラウンドにやってきた。囚人たちが見つめる真ん中で握手をしているのは、監督と死刑囚。こんな異常なシーンは、クリスがこうして向き合ってくれるから、成り立っているのだ。
「ああ。でも、情けは要らねえ。真剣勝負で来てくれ。言われなくてもそのつもり、だろ?」
「もちろん。良い勝負を」
最後に一際固く力を込めてから、握手をほどいた。




