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フェンス・オーバー ―刑務所からの場外ホームラン―  作者: kunikida-evans
第7章 二つの勝利

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7-3. 成り上がり者

闇が闇を払うことはできない。

光だけがそれを成せる。

公民権活動家 キング牧師

 ジミーの書いた抗議文は、リトル・ジョンによって刷られるや否や、囚人たちの間で話題になった。書いた者は誰だか分からなくても、言っていることはまさしく俺たちの考え通りだ、というのが大方の囚人たちの感想だった。ジミーの記事はさほど目立つ位置にはなかったが、それでも囚人たちの心を掴んだのである。


 非難された当のマシューは、はじめこの記事を黙殺した。

「ふーん、多少頭を使える奴がいるみたいだけど、読めなきゃしょうがないもんね」

 反乱分子になりかねないケイシーの講座、そして野球は禁じておいたので、ジミーの記事もたかだか負け犬の遠吠えに過ぎないと踏んだのだ。


 だが、それは読み違いだった。ケイシーたちが何もせずとも、自分で文字を読めない囚人にも口から口へと情報が伝わっていったのだ。一週間もすれば、ジミー・ブレイクの名を知らぬ者はいなくなった。


 共和国新聞は二週に一度発行されていた。だから、ジミーが次の寄稿をする頃には、皆それを心待ちにしていたのである。さらに次の号には、ジミー以外の囚人たちからも同じ趣旨の寄稿がなされるようになっていた。


 仲間が多いのだと確認できた囚人たちは、行動に出た。行動と言っても、暴力ではない。これまで嫌でも従ってきたマシューのやり口に、不服従の意思を突きつけたのである。これまでは報酬金の一部を上納することが義務付けられていたが、従う者はなくなった。ケイシーの講座は再開され、囚人たちの集いは至る所で公然と行われた。雪解けとともに、広場で遊ぶ姿も見られた。


 このようなことがなぜ可能になったのか。その理由は簡単である。賭場で借金を背負わされた囚人を例にとろう。彼が賭けに負けたとき、胴元は当然のように負け分の返済を要求した。一般の囚人たちもその時は勝ったのだから、一緒になって返済の要求に乗る。負けた者の周りには味方がおらず、嫌でも働いて返さざるを得ない。はじめは勝った者も、いずれその道を辿る。


 しかし、徐々に被害者が増え、胴元だけが得をしている構図が浮き彫りになっていく。そこへジミーやそれに続いた記事が出回る。そうしてお互いが被害者であり、連帯してマシューらに抵抗すべきことを認識するのである。味方が多いことが分かったために、不服従という抵抗の手段が手に入ったのだ。


 飼い馴らされていた囚人たちの目が覚めつつあるということを、遅ればせながら理解したマシューは、もはやこれを無視するわけにはいかなくなった。抵抗勢力の温床になっていた新聞の管理を図った。マシューらを非難するような記事を掲載しないよう、リトル・ジョンに命じたのである。だが、リトル・ジョンはそれに従わなかった。


 思い通りにいかなくなったマシューは苛立っている。

「ああ、何なんだ、どいつもこいつも。馬鹿が知恵だけつけるからこうなる。馬鹿には馬鹿らしい身の程ってのがあるものを」

 完全に私物化した看守棟の一室で、マシューは爪を噛んでいた。マシューはその財力を活かして、看守らとも癒着していたのである。これに靡かなかったのは、オズ所長とその側近くらいのものだった。

「マシュー様、これ以上囚人たちを引き締めても、反発を招くだけです。少し手綱を緩めてみてはいかがでしょう」

 取り巻きの一人が提案した。

「うるさいなあ、分かってんなら行動しろよ」

 マシューが苛立ちをぶつけると、委縮した取り巻きがそそくさと部屋を出た。他の何人かの取り巻きは、いつマシューを見限るかの算段に入っていた。

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