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フェンス・オーバー ―刑務所からの場外ホームラン―  作者: kunikida-evans
第2章 アメリカらしさ

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2-2. 金ぴか時代 the Gilded Age

アメリカの心と精神を知りたい者は、野球を学ぶのがよい。

歴史家 ジャック・バルザン

 彼らが住まうアメリカは、どんな場所だったのだろうか。


 南北戦争が北軍の勝利で終結すると、その戦後は未曽有の経済発展の時代だった。ヨーロッパからあぶれた者たちが集まった辺境国家アメリカは、自由主義と個人主義に支えられた、立身出世の夢を体現する大地に生まれ変わってゆく。その夢を追う気鋭のアメリカ人は皆、西に向かって土地を手に入れるか、都市で元手を得て事業を起こした。鉄道、石油、鉄鋼、銀行、その他どんな業種にも成功の道がある。そのことは、スコットランドの小さな職人の家からアメリカ最大の富豪に成り上がった鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが証明していた。自由の国アメリカでは、努力と能力で何にだってなれるし、何だってできるのだ。


 実際、巨万の富を築いたカーネギーに並ぶ者も多かった。チャンスを掴んだ者たちの大豪邸が、大都市ニューヨークの中心、マンハッタン島に立ち並び、威容を競い合っていた。彼らはそこで豪奢な宴を催したり、貴族の真似事のような趣味に興じたりして、贅の限りを尽くしたのである。


 しかし、アメリカ人全員が豊かになったのではない。億万長者たちの事業の成功を支えていたのは、生活の苦しい労働者たちだった。朝から晩まで不衛生な工場で働き、やっと家賃とわずかな食事に相当する賃金を得る。生きているのか、ただ働いているのか、自分では分からないような者たちだ。富豪たちが豪邸をひしめき合わせるのと同様に、彼らも肩を寄せ合うようにして、テネメントと呼ばれる集合住宅に暮らしていた。高級住宅街から通りを一本か二本隔てれば、そこは労働者たちの巣だった。古びて危険で不潔なテネメントは、狭い一部屋が更に四つに仕切られ、そのそれぞれに五人の子供を持つ家族が押し込まれている、そんなことはざらだった。むしろ家があるだけマシだ、と不満を垂れる路上生活者だって多かった。彼らの悲惨な暮らしは、金持ちの目に映ることさえなかった。


 悲しいことだが、これがアメリカの経済発展の内実だった。自由の名のもとに、持つ者と持たざる者の差は開いていくばかりなのだ。見下ろす立場からは、社会の下層に甘んじている連中は皆、個人の努力と能力が欠けているのだと思われた。カーネギーはこんな言葉を残している。「誰にでもチャンスに恵まれない者はない。ただそれを掴めなかっただけなのだ」。反対に下から見れば、一部の者が富を独占していることは不満だったが、明日の食事に事欠く彼らに抵抗らしい抵抗などできるはずもなかった。加えて、彼らが雑巾のように扱われて死んだとしても、東から海を越えて新しい人的資源がやって来るのだった。そうして、この構造が維持された。


 ただし、上からも下からも、歪なひずみが見えていたのは間違いない。階級間の反目は深まり、ストライキが頻発した。企業の腐敗や製品の粗悪さが暴露され始めた。改革を行うべき政治家たちは、腐敗を先導する側だった。新しい移民たちは英語を解せず、容易にアメリカ人になろうとしなかった。奴隷制が廃止されたはずの南部では、人種間のリンチが多発した。


 マンハッタンには、まさにその縮図として、こんな社会不安が溢れていたのである。「るつぼ」と形容されることもあるアメリカの内部は、根深い分断と大きな格差が当たり前のように存在していた。そんな時代を形容して、薄いメッキのような「金ぴか時代」という。


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