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フェンス・オーバー ―刑務所からの場外ホームラン―  作者: kunikida-evans
第5章 小さな共和国

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5-1. 建国の父祖たち

全ての人が弱みと悪徳を抱えている。 

だからこそ、政治が必要なのだ。   

政治家 ジェームズ・モンロー

 場所を広場に移して、千五百人の囚人たちが一堂に会した。天気は晴れ、建国の父祖たちの議論は始まったばかりだ。


 幸い、ゴールが明確になれば、囚人たちの議論にもまとまりがでてきた。その内容を要約すると、こんなところだ。


 まず、囚人たちの意見をまとめる人物が要る。もちろん、一人の人間が全てを決めるのではない。それではこの「自由の実験」が始まる以前と変わらない不自由に陥るだけだからだ。だから、リーダーというよりは議論の司会役に過ぎない。


 その司会役の下で話し合いを行うのだが、千五百人の囚人が一度に話し合いに参加することは難しい。そのため、何人かの代表者による話し合いとする。この話し合いを含め、囚人全体に関わる議題は、囚人全体の意見を聞いた上での多数決で決定する。


 そして、この「囚人共和国」の根幹をなすルールは、代表者を平等な選挙で決定すること、だった。ただし、食糧のない現状では、選挙を行っている余裕もないので、一旦暫定の代表者が大まかな方針を決めることになった。選挙はその後に行われる。


 こうして出来上がった「独立宣言」は、囚人たちが作ったとは思えないほど理想的なものに見えた。きっと彼らの全員が、わくわくしているはずだ。自分たちの国ができる。高揚して当然だろう。彼らは今や、恨めしい社会から弾き出された代わりに、新しい拠り所を手にするのであった。


「見なさい、ブライアン君。これが望ましい姿だよ」

 活き活きと議論を交わす囚人たちを指して、オズ所長は満足げに頷いていた。

「望ましい姿……」

 ブライアンは、完全に腑に落ちたとは言わないまでも、だんだんとオズ所長の意図が掴めてきた。目線の先の囚人たちは、希望というものを初めて抱いて、夢に浮かされたような生気に満ちている。その理由は、簡単に想像がつく。

「彼らは、今まで自分の選択というものを、ほとんどしたことがなかったのですよね」

「そうだ。初めから犯罪者として生まれる者は少ない。たいていの者は普通の心を持っているのだけれども、致し方なく罪を犯すのだ」

 オズは微笑んだ。幼い我が子が立ち上がろうとするのを見るような優しさを、目に湛えて。

「罪に向き合うというのは、それが自分の罪だと理解してからではなくては不可能だ。『自分に打ち克つことが、最も偉大な勝利である』。人間は、自分から逃れることはできないのに、逃れたがる。自由とは、自分の選択以外に逃げ道のない環境なのだよ」

 自信満々の笑顔を浮かべるオズにも、実験の結果は予想できていなかった。一番の勝負に出たのは、この男なのかもしれない。


「よし、これで大筋は決まりだ! あとは、誰が初代大統領になるか、だけだな」

 ケイシーは議論の締めくくりに入ろうとしていた。場合によれば、リーダー役を決めるこの作業が、一番難航したかもしれない。しかし、この時ばかりはそうではなかった。

「ケイシー、お前がいいんじゃないか?」

 ジョーが口火を切ると、他の囚人たちも同調した。実際、この議論の舵取りをしてきたのはケイシーだった。誰か別の人間が相応しいと思っているのは、ケイシーくらいだったのである。

「お、おい、いいのかそんな適当に決めて。俺はこんな役目をやったことはないぜ」

 ケイシーは戸惑ったが、

「俺もないぜ」

「俺も」

「つーか、大統領役どころか選挙に行ったこともない」

 囚人たちの反応はそんなものだった。ケイシーはなおも首を振った。

「だからって俺は……」

「ああもう、じれったいな、じゃあ多数決で決めよう。それならいいだろ?」

 ジョーは地団太を踏みそうな勢いだ。

「ああ、それがいい」

「よし、言ったな」

 ジョーは囚人たちをぐるりと見渡した。まっすぐ頭上に手を伸ばして、人差し指を立てる。ジョーが右の口角を上げると、囚人たちはその意図を理解して、同様に手を挙げた。

「俺たちのリーダーにふさわしいと思う奴を指させ!」

 一拍の後、ジョーが大きく息を吸い込んだ。

「せーのっ!」

第5章突入です!

物語も折り返しです!

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