2-1. プレイボール
アメリカの心と精神を知りたい者は、野球を学ぶのがよい。
歴史家 ジャック・バルザン
てん、てん、てん。何かが跳ねる音だ。それを聞いたケイシーは振り向いた。本物の野球ボールを見るのはこれが初めて。小さな両手で大事に拾い上げた。
「ああ、良かったあ、失くさなくて」
その声は、ボールの持ち主らしい。声がした方を見ると、その子たち五、六人の仲間は、ケイシーとちょうど同じような年齢らしかった。ボロ着を身にまとっているのもケイシーと同じだ。グローブはつけていなかった。
それにしては不思議なのが、拾い上げたボールだった。これは布切れを丸めた間に合わせのボールなんかじゃない。
「こんな立派なボール、一体どこで……?」
独り言ともとれるような小さな問いに、持ち主は自慢げに答えた。
「へへ、盗んだのさ、ポロ・グラウンズで」
「おい、そんなこと言うなよ、大人にばれたらどうすんだ」
リーダーらしい仲間にそう窘められて、
「あ、盗んでない盗んでない、そう、あくまで拾っただけ」
と訂正する。けれどケイシーからすれば、盗んだんだろうが拾ったんだろうが、どちらでも良かった。このボールを握ることができるなら。なにせ、野球という遊びにずっと憧れていたから。
「ポロ・グラウンズかあ」
ケイシーがそうこぼすと、
「ん? ポロ・グラウンズになんかあんの?」
リーダーが反応する。
「ああ、行ってみたいと思ってたから」
「ほーう、金はあるのか?」
「いや、ないけど……」
肩を落として言うと、リーダーが不敵な笑みをたたえた。
「そうか、じゃあ、潜るしかないな」
「……潜る?」
「そう、潜るんだよ」
答えにならない答えだ。そして、行けば分かるとばかりに手をつかんで走り出す。今日という日が、この物語のはじまりらしい。一八八二年、ケイシーが十二歳の夏である。




