表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェンス・オーバー ―刑務所からの場外ホームラン―  作者: kunikida-evans
第3章 金メッキの裏側

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/75

3-3. 暗黒街の底

人間はみな月である。

誰にも見せない暗い顔を持っているのだ。

小説家 マーク・トウェイン

 目覚めたときには、黒いソファに寝かされていた。暗い室内だったが、何本かの蝋燭の光を反射して、宝石や貴金属の類が煌めいていた。

「お目覚めかね」

 部屋の奥から太い声がした。その方を向くと、さっきケイシーを連れ去った男たちの先に、異様な雰囲気が立ち込めている。その中心には、怪物がいた。

「……ふーん、お前がボスってわけ。何する気?」

「ほお、これは活きの良いのを獲ってきたな」

 またも強気に出たケイシーに、蝙蝠か狸のような怪物は、感心したようだった。

「俺のことなんか誘拐したって……」

「その通り、意味がないな。君は孤独だ、金にはならん」

「じゃあ何だってんだ」

 怪物は答えず、手下に目で指図をして、葉巻に火を付けさせた。その葉巻を吸って、煙を大きく吐き出す。貫禄のある巨体に、その仕草がよく似合っていた。

「ふう、まあ、そう慌てるな。乱暴しようというんじゃない」

 ケイシーは思ってもみないのに多少安堵して、ソファに深く座り直した。

「察しの通り、私らは闇を仕事にしている者だ」

 平たく言えば犯罪組織である。ピラミッドの頂点の輝きが増すほどに、その下の闇も深くなっていくのだ。このニューヨークには、闇を牛耳る組織が当然に存在した。

「そうだな、例えば……、賭博、麻薬、売春の斡旋、誘拐……これは金持ちの子息限定だがね、それから、密貿易、強盗、人身取引、殺人……といった仕事だ。君もよく知っているだろう。今しがた言った通り、君は誘拐しても金にはならん。それに、今はちょうど少年を欲しがっとる顧客もおらん。ではなぜ、君を攫ったのか……」

 ケイシーは身構えて、息を飲んだ。

「ふむ、君にはうちで働いてもらおうと思ってな」

「それってつまり……、お前の手下になれ、って?」

「ご明察だ。どうせ行く当てもないんだろう? 君の暗い目には才能が宿っている。この仕事は、世に捨てられ、世を捨てた者にしかできん。分かるね? 君は、持っている側の人間だ」

「俺は、そんな仕事は……」

 ケイシーは首を振った。世を恨んでいるのは確かだったが、なまじ理性が残っているばかりに、食糧に困っても人を騙したりすることだけは躊躇していた。だが、ここで断れば何をされてもおかしくない。

「できない、と言うつもりかね。では問おう」

 怪物にじっと睨まれて、ケイシーはすくみ上がった。

「君はもう、人を殺したことがあるんじゃないかね?」

 心臓を射抜かれた思いがした。いっそ射抜かれた方が楽だったかもしれない。

 ケイシーの脳裏には、家に置き去りにした弟たちの顔が思い浮かんだのだ。

自分のために肉親を見捨てた。その罪の意識は、心の奥底にしまい込んでいたが、怪物にえぐり出されてしまった。

「そうだろう、そうでなくてはその目にはならん」

 動揺するケイシーを見て、怪物は笑みを浮かべた。

「違う、俺はそんなこと……!」

「違わないさ、君と私らは何も違わない」

 ケイシーはかぶりを振った。体の底から震えが走る。

「自分が生きるために、人を犠牲にする。いたって普通のことだ」

 耳を塞いでその言葉を遮るが、震えは止まらない。内側から発しているからだ。

「……仕方がない、……仕方がなかったんだ……」

 自分を守るためにそう繰り返した。

「うちで働けば、喰いっぱぐれることもない。いい話だと思うがね」

 ケイシーには、もはや怪物に抗う力は残っていない。結局、うなだれるように頷くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ