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異世界退職代行サービス~辞めたくても辞められないあなたへ~  作者: 暁の裏


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11/15

精霊使いは辞めたい

「もう嫌…精霊たちが言うこと聞かないし、契約解除したいって毎日文句言われるし…」


 王立魔法学院の精霊使い科、エリカ・ウィンドブロッサムは、自室のベッドに突っ伏していた。

 22歳の彼女は、5年前に「伝説の精霊使い」として学院に招かれたが、現実は期待とは程遠かった。


「エリカ様〜、また今日も契約魔力が足りてませんよ〜」


 ベッドの横で、水の精霊アクアが呆れた声を上げた。体長30センチほどの青い妖精のような姿をしている。


「ごめんなさい…今日も徹夜で魔力回復の修行してたんだけど…」

「してたって言うか、居眠りしてたでしょ!途中からいびきかいてましたよ!」

「うっ…」


 エリカは反論できなかった。

 そこへ、火の精霊イグニスが飛んできた。


「エリカ!また俺の魔力供給サボっただろ!おかげで昨日の実技試験、火球が出なかったぞ!」

「ご、ごめんなさい…四大精霊全員と契約してるから、魔力の配分が難しくて…」

「言い訳はいいから、ちゃんと魔力よこせ!こっちも命懸けで契約してんだからな!」


 続けて、風の精霊シルフと土の精霊テラも文句を言いに来た。


「エリカさぁ、昨日の飛行訓練、また途中で魔力切れたよね?おかげで墜落して、私まで地面に激突したんだけど」

「エリカ様、防御魔法の魔力供給、3日連続で忘れてますよね?契約違反ですよ、これ」


 四大精霊に囲まれて、エリカは小さくなった。


「み、みんな…ごめんなさい…」


 実は、エリカは精霊使いの才能がなかった。

 5年前、たまたま四大精霊全員と契約できたのは「奇跡」だったのだが、学院はそれを「天才」と勘違いして彼女を「伝説の精霊使い」として大々的に宣伝してしまった。

 しかし現実は…

 魔力量:クラス最低レベル

 集中力:5分が限界

 精霊との相性:最悪


「こんなはずじゃなかったのに…」


 エリカは泣きそうになった。


「ちょっとエリカ!泣いてる場合じゃないでしょ!今日は学院長との面談があるって忘れたの!?」


 アクアが慌てて言った。


「うわああ!忘れてた!」


 エリカは慌てて着替え始めた…が。


「きゃっ!」


 制服のボタンを留めようとして、胸元が弾けた。


「また太ったんですか?その巨乳、邪魔でしかないですよね」


 シルフが冷たく言った。


「し、仕方ないでしょ!ストレスで食べ過ぎちゃうんだから!」


 エリカは豊満な胸を揺らしながら、必死にボタンと格闘した。


「あー、もう!精霊使いなんて辞めたい!」


 その瞬間、部屋の窓に光る魔法陣が現れた。


「あら?」


 光の中から、二人の人物が現れた。


「初めまして、エリカ様。私、異世界退職代行サービスの田中と申します」

「私はセレス!」


 エリカは目を丸くした。


「た、退職代行?」

「はい。お困りのご様子ですが、もしかして精霊使いのお仕事でお悩みでしょうか?」


 田中健太は優しい笑顔で名刺を差し出した。


「悩んでます!もう限界です!」


 エリカは泣きながら訴えた。


「精霊たちは文句ばっかり言うし、魔力は足りないし、学院からのプレッシャーは凄いし、しかも!」


 彼女は精霊たちを指差した。


「この子たち、私が着替えてる時も平気で部屋にいるんですよ!恥ずかしいったらありゃしない!」

「そりゃあ契約者の行動を監視するのは精霊の義務ですから」


 イグニスが平然と言った。


「昨日なんて、お風呂場まで入ってきたんですよ!『魔力供給の確認』って言って!」

「だって、エリカの裸体から魔力の流れを直接見た方が効率いいじゃん」


 アクアが悪びれもせずに言った。


「セクハラです!完全にセクハラです!」


 エリカは顔を真っ赤にして叫んだ。

 田中は資料を取り出した。


「精霊との契約には『プライバシー保護条項』があるはずですが…」

「え?そんなのあるんですか!?」

「はい。精霊は契約者のプライベートな時間を尊重しなければならないと定められています」


 四大精霊は気まずそうに視線を逸らした。


「それに」


 セレスが続けた。


「四大精霊全員との契約は、一人の精霊使いには負担が大き過ぎるわ。普通は一体か二体が限界よ」

「でも、学院が『伝説の精霊使い』って宣伝しちゃったから、今更契約解除できなくて…」


 エリカは肩を落とした。


「大丈夫です。適切な手続きを踏めば、契約を見直すことができます」


 田中は説明を始めた。


「まず、精霊契約には『適性診断制度』というものがあります。契約者の魔力量と精霊の数が適切でない場合、契約の一部解除が認められるんです」

「本当ですか!?」


 エリカの目が輝いた。


「はい。エリカ様の場合、おそらく一体か二体が適正です」

「やった!じゃあ、イグニスとテラは解除で!」

「おい!なんで俺たち!?」

「テラは寝てばっかりだし、イグニスは短気だし!」


 四大精霊は慌て始めた。


「ちょ、ちょっと待って!契約解除されたら、俺たち精霊界に帰らなきゃいけないんだぞ!」

「精霊界、退屈なんですよ!人間界の方が楽しいから、戻りたくないんです!」

「知らないわよ!あんたたちが散々文句言ったんでしょ!」


 エリカは精霊たちに向かって舌を出した。

 その様子を見て、田中は微笑んだ。


「実は、もっと良い解決策があります」

「え?」

「精霊の『再就職支援』です」


 田中は資料を見せた。


「最近、精霊使いを目指す若い魔法使いが増えています。しかし、契約できる精霊が不足しているんです」

「つまり?」

「エリカ様の精霊たちを、他の精霊使い候補に紹介するんです」


 四大精霊の表情が明るくなった。


「マジで!?」

「はい。特に火の精霊と土の精霊は需要が高いんですよ」

「よっしゃあ!俺、もっと魔力豊富な契約者が欲しかったんだ!」


 イグニスが喜んだ。


「私も、ちゃんと防御魔法を使ってくれる人がいいです」


 テラも頷いた。


「じゃあ、エリカは誰と残るの?」


 シルフが尋ねた。


「えっと…アクアとシルフかな」

「やった!エリカと二人きり!」


 アクアが喜んで、エリカの胸元に飛び込んだ。


「ちょ、ちょっと!胸に入らないで!くすぐったい!」

「エリカの谷間、温かくて気持ちいい〜」

「きゃあああ!セクハラ!」


 エリカは必死にアクアを引っ張り出そうとしたが、アクアは胸の谷間に頭を埋めて抵抗した。


「うう、この感触…エリカの魔力が直接感じられる…最高…」

「変態精霊!」


 その騒動を見て、セレスがクスクスと笑った。


「エリカさん、精霊たちと仲良いじゃない」

「こ、これが仲良いんですか!?」

「ええ。本当に嫌な相手なら、こんなスキンシップしないわ」


 エリカははっとした。確かに、四大精霊たちは文句を言いながらも、いつも自分のそばにいてくれた。


「もしかして…私、恵まれてた?」

「それはわかりませんが、精霊たちはエリカさんのこと嫌いじゃないと思いますよ」


 セレスが言った。


「ただ、四体は多すぎるから、二体に減らせば、もっと良い関係になれるはずです」


 その夜、田中たちは学院長と面談した。


「エリカが精霊契約を減らしたい?」


 学院長のマーリンは、長い白髭をなでながら考え込んだ。


「はい。四大精霊全員との契約は、彼女には負担が大き過ぎます」


 田中は診断書を見せた。


「これはエリカ様の魔力測定結果です。四大精霊を維持するには、魔力が40%不足しています」

「しかし、『伝説の精霊使い』という看板が…」

「看板のために、生徒を犠牲にするのですか?」


 田中の声が厳しくなった。


「エリカ様は毎日、魔力不足で体調を崩しています。このままでは、重大な健康被害が出るでしょう」


 マーリンは資料を読んで、ため息をついた。


「…分かった。契約の見直しを認めよう」

「ありがとうございます」

「ただし」


 マーリンは続けた。


「『伝説の精霊使い』という肩書きは返上してもらう」

「構いません」


 田中は答えた。


「エリカ様も、その肩書きを望んでいませんから」


 一ヶ月後。


「うわあ!魔法が安定してる!」


 訓練場で、エリカは水球魔法を成功させた。アクアとシルフだけとの契約になってから、魔力の管理が格段に楽になった。


「エリカ、やればできるじゃん!」


 アクアが嬉しそうに言った。


「二体だけなら、魔力も十分に回るもんね!」


 シルフも満足そうだった。

 そして、イグニスとテラは新しい契約者を見つけた。


「俺の新しい契約者、魔力めちゃくちゃ豊富で最高だぜ!」


 イグニスが自慢げに報告に来た。


「私の契約者も、防御魔法のスペシャリストで、毎日バリア張りまくりです!」


 テラも満足そうだった。


「良かったわね、みんな」


 エリカは笑顔で言った。

 その時、アクアがエリカの耳元でささやいた。


「ねえエリカ、今日も一緒にお風呂入っていい?」

「ダメです!プライバシー保護条項、覚えてるでしょ!」

「えー、でもエリカの裸体から魔力を感じるの、好きなんだもん」

「変態!」


 エリカは顔を赤くした。


「それに、エリカって胸が大きいから、揉むと気持ちいいんだよね〜」

「揉むな!」

「いいじゃん、ちょっとくらい」


 アクアはエリカの制服の胸元に潜り込もうとした。


「やめなさい!」


 エリカは必死に抵抗したが、アクアは素早くブラウスの中に侵入した。


「わあ!相変わらず大きい!」

「きゃああ!出てきて!」


 エリカは胸元をばたばたと叩いたが、アクアはブラジャーの中に入り込んでしまった。


「あああ!気持ちいい!エリカの柔らかい胸に包まれてる!」

「恥ずかしい!誰か助けて!」


 その騒動を見て、シルフが呆れた表情で言った。


「アクア、やりすぎ」

「だって、エリカの胸、魔力の宝庫なんだもん!」

「それはセクハラよ!」


 エリカは必死にアクアを引っ張り出した。

 その様子を遠くから見ていた田中とセレスは、微笑んでいた。


「エリカさん、楽しそうですね」

「ええ。精霊たちとも、良い関係になったみたい」


 エリカはもう「伝説の精霊使い」ではなかった。

 でも、彼女には大切な二体の精霊がいた。

 毎日は騒がしいけど、楽しかった。


「田中さん、ありがとうございました!」


 エリカは遠くから手を振った。


「こちらこそ。これからも頑張ってください」


 田中は手を振り返した。

 そして、アクアは今日もエリカの胸元に潜り込んでいた。


「もう!アクアは本当にスケベ精霊なんだから!」

「えへへ、エリカが好きだからだよ〜」

「好きならもっとプライバシー尊重して!」


 賑やかな日々は、これからも続いていく。

 元「伝説の精霊使い」エリカ・ウィンドブロッサムの新しい冒険が、今始まったばかりだった。

『異世界退職代行サービス』シリーズをお読みいただき、ありがとうございました。

このシリーズは「辞めたいけど辞められない」という悩みを抱えた異世界の人々の物語です。

勇者、魔王、賢者、お姫様、受付嬢、鍛冶師、盗賊、妖精、詐欺師、精霊使い…。

立場も職業も違う彼らに共通していたのは、周囲の期待や伝統という「見えない鎖」でした。

「○○なんだから、こうあるべきだ」

そんな押し付けに苦しんでいた彼らは、田中たちの助けで「辞める勇気」を手に入れました。

そして気づいたのです。

「辞める」ことは「終わり」ではなく、「新しい始まり」だと。

現実世界でも、私たちは様々な役割を演じています。

時にはそれが重荷になることもあるでしょう。

もし今、あなたが「もう無理だ」と思っているなら、

それは決して逃げではありません。

自分を守るための、勇気ある決断です。

あなたの人生は、あなたのものです。

自分の心の声に、耳を傾けてください。

最後に、精霊使い編のエリカとアクアの掛け合いで笑っていただけたら幸いです。

またどこかで、田中さんたちの活躍をお届けできればと思います。


暁の裏


P.S. アクアのセクハラは創作です。現実では絶対にやめましょう

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