「立ち止まるタイミング、ぜんぶバレてる」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
日曜の昼、いつもの歩道橋の上で、ふと足を止める。 小さいころからの癖なのに、それに気づいてた人がいたことが、なんだかちょっと、照れくさくてうれしかった。 ――「変わってないね」って言われることが、たまにはすごく安心になる。
荻野目 蓮
陽葵が“ここで立ち止まる”のを、だいぶ前から知ってる。 けど、それを言うとまた照れそうだから、なんとなく、自然に横で止まる。 ――“何も言わずに気づいてる”って、じつは一番やさしい表現だと思ってる。
【こんかいのおはなし】
日曜の昼。 風がすこしやわらかくて、空もやたら広く見えた。
蓮と並んで歩道橋をのぼる。
「……やっぱ、ここからの景色好き」
そう言って、ゆっくりと足を止めた。
隣の蓮も、何も言わずに立ち止まる。
「え、気づいてた?」
「うん」
「……いつから?」
「たぶん、小学生のころから」
「それ、わたし何年バレてたの!?」
「年単位で監視されてる」
「やめて、言い方がちょっとホラー(笑)」
「じゃあ“観察されてる”」
「やだ、ますます怖い!」
ふたりで笑いながら、風に吹かれる。
陽葵がふっと、柵に手をのせて空を見た。
「でもさ……なんか、覚えててくれてるって、ちょっと安心するね」
「変わってないとこ、ちゃんと残ってるの、いいと思う」
「……うわ、それ、名言」
「録音する?」
「やめて(笑)」
遠くで車の音がして、雲がひとつ流れていく。
「ねえ、また来ようね」
「いいよ。どうせまた“ここで止まる”し」
「むー、それは否定できない……」
「安心ポイントってことで」
笑って、少しだけ息を吸い込んだ。
日曜日の昼に、ふたりで見た空は、記憶の中でもうすこしだけ色づいてた。
【あとがき】
変わらない癖って、自分じゃ気づかないけど、誰かにとっては“その人らしさ”の象徴だったりする。 それに気づいてくれる人が、となりにいるって――なんてやさしい関係だろう。 歩道橋の風は、今日もふたりの記憶にそっと吹いてました。