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爆心地から600mのお弁当箱

作者: コロン

戦争の物語になります。






苦手な方はお避けください。

 


 空がとても良く晴れていた。



 開け放たれた玄関の扉の向こう、青空を見ながら靴の紐を結ぶ。


 午前7時9分に発令された警戒警報も7時31分に解除されたため、いつも通りに身支度を済ませた。


「滋さん。お弁当と水筒忘れないでね」


 空襲によって火災が広がるのを防ぐために強制的に家を壊す「建物疎開」の作業員として、中学の同級生と共に働いている私に母は毎日弁当を持たせてくれる。

 弁当の中身は、いつも通りの米・麦・大豆の混合ごはんと野菜の油炒め。

 庭の竹林を開墾したおかげで、こうして毎日弁当を食べることが出来る。


「いつも有り難うございます。お昼が楽しみです」


 母からお弁当と水筒を受け取り、カバンの中に入れた。

 出征中の父と兄に恥じないよう、私もしっかり働こう。


「行ってまいります」




 8月6日8時15分

 現場で作業をしていると澄んだ空に静かに飛来したB29が3機、いつもより高く飛んでいるのが見えた。


 避難しようとカバンを抱えた瞬間…

 私は光に包まれた。










 光は大きな雲を連れてきた。

 さっきまでの青空が嘘のような激しい雨を降らせている。

 いつもと違う黒い雨が、全ての景色を灰色に塗り替えた。






 。。。



「滋!」



「滋!」


 時折母の呼ぶ声が聞こえて、返事をしなければと声を出す。


 お母さん!



 お母さん!私はここです!


 私の声は届かないのか、母は何度も通り過ぎてしまう。



 お母さん!お母さん!


 何度も叫んで母を呼んだ。


 お父さん!


 お兄さん!


 誰か!



 本当は戦争が嫌だった。


 兄と遊びたかった。


 弟と釣りに行きたかった。


 父と同じ歯医者になりたかった。




 母が作ってくれたお弁当を食べたかった。





「滋…ここにいたのか…」


 あの日から3日。ようやく母が私を見つけてくれた。


 ありがとう。

 これで私も家に帰る事が出来る。





 あの日。


 光を見たのを最期に骨しかのこらなかった私。


 私の屍が大切に抱えていた弁当と水筒が、母に私が滋である事を教えた。






 爆心地から600m。中島新町で見つかった滋のお弁当。

 母のシゲコさんが広島平和記念資料館に寄贈し、真っ黒になったお弁当が今でも原爆の恐ろしさを伝えています。





挿絵(By みてみん)





八幡本通りと「真黒なお弁当」

http://yahata-syoten.jp/column/%E5%85%AB%E5%B9%A1%E6%9C%AC%E9%80%9A%E3%82%8A%E3%81%A8%E3%80%8C%E7%9C%9F%E9%BB%92%E3%81%AA%E3%81%8A%E5%BC%81%E5%BD%93%E3%80%8D/ より






世界のあちこちで戦争が起きていますね。


サミットのおかげで広島や長崎に訪れる外国人が増えているそうです。

母国では、戦争参加国の思惑を習い、戦争を終わらせるために原爆が使われた。程度しか教わらないそうです。

普通の人が暮らす街に原爆が落とされ、そこで暮らす人たちがどうなったかなど知らないそうです。


不穏な世界情勢。

原爆が使われなくても、悲しい出来事が起きているのは想像に容易いです。


平和な世界。


ただそれだけなのに、とても難しい事ですね。




拙い文章お読みくださりありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
読んでいたと思っていたのですが、評価つけられていなかったのでお伺いしました。 一方から見れば正義でも、一方から見ればどうしようもない悪夢。 未だに戦争が続いている世界、戦争を正当化する人たちは現地でこ…
 ちゃんと覚えている方もいらっしゃるのだと、少し安心しました。  以前、テレビのインタビューで答えていた女子高生を思い出します。 「8月6日が何の日か知っていますか?」  テレビに映るとあって、嬉し…
高校生の時に読んだラッセルの「私は無」という短編を思い出しました。 イスラエルに原爆が落ちないかとヒヤヒヤしながら、ニュースを見てます。
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