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4 想いを押しつけないと決めた私

 覚悟を決めなければと思いつつも、私は勇気を出せずにいる。

 そして私が手紙を出さなければ、会いに行かなければ、キリアンからは何も言ってこないのだという現実も嫌というほど思い知らされてしまった。


 卒業間近とはいえ、通う女学校でやるべきことはまだある。

 私は本来すぐに嫁げなかったり相手によっては家庭教師(ガヴァネス)として働くことを前提に考えていたのだから、よりよい成績と日頃の姿勢を保つことで雇用主に見定めてもらわなければならないのだ。


 幸いにも、親戚ということで卒業後には従姉が嫁いだ伯爵家のご令嬢のところに一度面接しに行くことが決まっている。

 そこで採用されれば、今後は実績として認められるだろう。


 つい最近まで、家庭教師(ガヴァネス)になるよりも花嫁修業に力を入れていた自分が滑稽で、泣きたいような笑ってしまいたいような気分だ。

 浮かれるにも程がある。

 

(……私ったらこれまで、キリアンを振り回していたのね……)


 彼からして見れば、よくも知らないどこぞの小娘に見初められてしまって文句を言うこともできず付き従うしかできない婚約でしかなかった。

 私の兄と王城内で面識があるだけ、まだマシ程度だったかもしれない。


 これだから世間知らずの、貴族のお嬢様は……って困らせていたんじゃないかと思うと酷く心が落ち込んでいくばかりだ。


(……お兄様は、彼に恋人やそういった関係の異性の姿はないから安心しろって後押ししてくださったけど)


 でもそういった関係になる前、少しでも〝いいな〟と思う異性がいたりしたと思うと胸が痛む。

 私が『あの方、素敵ね!』なんて何も考えずに口にしたせいで。


「こんなことなら、いっそお父様がお相手を決めてくださったら良かったのに……」


「何がですか」


「えっ……」


 思わず、口をついて出た言葉。

 あとは迎えの馬車に乗り込むだけだと油断していたからこそ出てしまった言葉だけれど、それを咎めるように問うてきた相手の声に覚えがあって、私は視線をゆっくりとそちらに向けた。


 普段なら馬車に乗るのを手助けするのは御者なのに、そこにいたのは騎士隊の制服を着たキリアン。

 その眼差しは相変わらず冷めていて、でも今日は少しだけ不機嫌なような……?


「キリアン……どうして、ここに」


「とりあえず馬車の中へどうぞ、アシュリー嬢」


「え、ええ……ありがとう、キリアン」


「……」


 お礼を言っても反応はなく、ああ、いつも通りだななんて思ってしまう自分がまた少しだけ惨めに感じた。

 けれど彼の言うとおりそのまま馬車に乗ろうとしたままというのもおかしな話なので、彼の手を借りて座席に移動した。


(……このままうちに来るのかしら?)


 いつもキリアンは私を馬車に乗せて、自分は馬で移動していたから今日もそうなのだろうと私は外を気にするでもなく荷物を傍らに置く。

 するとぎしりと少しだけ馬車が揺れて、私の向かい側にキリアンが座ったではないか。


「……え?」


「ドアを閉めます」


「え、ええ」


 どういうことなのか、まるでわからない。


 私から会いに行かないと会えない、声をかけなければ何も言わないキリアンがどうしてここにいるのかとか、私の目の前に何故座ったのかとか。


(驚きすぎると人間、言葉が出ないと聞くけれど……本当なんだわ)


 本当なら、婚約者らしく(・・・)最近どう過ごしていたのかとか、騎士隊の生活で怪我をしていないかとか……こちらも忙しさのあまり手紙を出せなかったことを詫びるとか、いろいろと話題はあっただろうに私の口は閉じたままだ。


 勿論、キリアンも何も言わない。

 口元を一文字に引き締めたまま、私をじっと見ているからそれがとても落ち着かないのだけれど……。


(でも、これは良いタイミングなのかもしれない)


 私が踏み出せなかった、今後の話をするのに。

 彼から来てくれたなら……もう、無駄な期待などせずに。


 キリアンの幸せのために、何ができるのかを模索していくと決めたのだ。

 私の想いばかりを押しつけてはいけない。


「キリアン、あの……」


「俺を避けていたでしょう」


 我が家に着くまであと少し。

 だから、話がしたいと言おうとした途端被せられるようにキリアンが口を開いた。


 その目は、馬車に乗る前よりも鋭さが増している。

 彼の真っ黒な瞳に射貫かれるように見つめられて、私はまるで魅入られたみたいにただ彼の目を見るしかできない。


「どうしてですか」

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