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彼を幸せにする十の方法  作者: 玉響なつめ


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19 それは考えていなかった!

 演劇はとても素晴らしくて、終わった後も私はついついはしゃいでしまっていた。

 キリアンはそんな私に嫌な顔一つせず話を聞いてくれて、ようやく落ち着いたところで恥ずかしくなってしまった。


「ごめんなさい、キリアン……」


「楽しんでいただけたなら、なによりです。……ディナーの予約を取っている店はこのすぐ近くなので、散歩を兼ねて夜の町を歩いてみませんか。御者には俺から話しておきますので」


「本当? 嬉しいわ」


「では、ここでお待ちください。入り口付近は人の出入りも激しいので……ロビー内の方が安全ですから」


「はい」


 確かに彼の言うとおりだと私も思うので、大人しく従う。

 ロビー内にはまだ社交をしていたり、私と同じようにまだ熱も冷めやらぬ様子で熱く語っている友人同士と思われる人たちの姿がチラホラある。

 

 対して入り口付近は帰りの人々でごった返しており、順にそれぞれの家門の馬車が出入りしているものだから大変そうだ。

 それでも劇場の従業員たちのおかげで、混乱する様子もないしみんな満足げだ。


「あぁ~ら! またお会いしましたわね、アシュリー伯爵令嬢!」


「……あら。本当ね、またお会いしましたわ。確か……セイフォート家のマリアナさんでよろしかったでしょうか?」


「ええ、そうよ!」


 溌剌とした笑みと化粧がちぐはぐで、私はどんな対応をすべきか少し困ってしまった。

 悪意はなさそう……だし、ちょっと貴族的に言えば礼儀作法がなっていないといえばその通りなのだけれど……。


(学がある人ほど貴族と平民の差を理解して礼儀作法がきちっとすると聞いているけれど、彼女はあまりそういったことには興味がないのかしら)


 この国で学校に通うのは、基本的に貴族と、いっとう裕福な商家の……どこかのお抱え商人の家くらいだ。

 子供が幼少の時に家庭教師を迎えるのもそれと同じ傾向にある。


 裕福、がどこからどこまでを指すのかは難しいところだけれど、私が家庭教師(ガヴァネス)としての職を選んだ段階で彼女の家名を聞いたことがないということは……まあ、そういうことなのだと思う。


(逆を言えば、彼女は貴族家について詳しくないってことにもなるわよね)


 アシュリー家は確かに大貴族かと問われたら違うし、特別お金持ちでもない。

 父も兄も宮仕えではあるけれど要職ってわけでもないし。

 だからといって軽んじられるような身分でもないけれど……あまりキツく咎めるのも、年長者としてはよくない気もするし……。


「何故貴女は私に話しかけてくるのかしら」


「えっ?」


「権威を振りかざすつもりはありませんが、私は伯爵令嬢です。社交をなさるおつもりなら、身分を考慮した言動を心掛けていただきたいです」


 なるべく穏便に、穏便に。

 この場合、許しすぎても私が……というかアシュリー家が貴族社会で舐められるし、かといって相手が平民だとわかったからと強すぎる物言いでは何様だって話になるもの。

 ああ、キリアン、早く帰ってきてくれないかしら!

 いえだめね!!


(彼女はおそらくキリアンに憧れているんだもの。憧れなのかしら? 恋心なのかしら)


 ちょっとだけモヤモヤするけれど、改めて彼がモテるんだなあと実感する。

 キリアンは誠実だから浮気なんてしないと思うけれど、もしも好みの女性が現れたらあの冷静な眼差しに熱が灯るところを私は隣で見なくちゃいけないのかしら?


 そんなことを考えると、胸がやっぱりズキズキ痛んだ。


「な、何よ……そんなこと言ったってわたし知ってるんですからね! 貴女はキリアン様のお飾り妻になる、平民と殆ど変わらない身分になるんでしょ!!」


「……お飾り妻」


 言われて初めてその可能性に気づいたわ!

 まあ! どうしましょう!!

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