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彼を幸せにする十の方法  作者: 玉響なつめ


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18 胡散臭さがとどまるところを知らない

(それで結局この女性はどなたなのかしら……)


 私の方が彼女よりは身分が上の可能性を踏まえて、先に名乗ったけれど。

 それでも貴族的に考えれば、互いに知らないなら名乗りを受けて名乗りを返さないのはとても失礼な行動だ。


 私はここで怒るべき? けれど社交の場で?

 いやいやだけどここで毅然とした態度を取らないのもよくないわけで……。


 かといってキリアンの上司や同僚に関係している人だったら彼に迷惑が……って彼がその場合知らない方がおかしいのか。


「……名乗るおつもりもなく私たちを引き留めるおつもりなら、これで失礼してもよろしいかしら? お連れの方がいらっしゃらなくて寂しいのかもしれませんが、見知らぬ方と過ごすつもりはございませんので……」


 彼女が大きな声で騒ぐから同類と思われるのも嫌で『知らない人である』ということを強調したけれど、伝わっただろうか?

 少なくとも周囲にいる貴族たちには伝わったようでヒソヒソとした声の中に『アシュリー嬢たちが絡まれているらしい』だとか『警備兵はまだか?』なんて声が混じっていたことにそっと胸を撫で下ろす。


「キリアン、行きましょう」


「はい」


「ちょっ……待ちなさい! じゃなかった、お待ちなさい!!」


 丁寧に言ったつもりでまるで変わっていない言葉であることに彼女は気づいているんだろうか。

 でも一応、足を止めて見る。キリアンは少し面倒くさそう。


「わ、わたしはセイフォート家のマリアナです。どうぞ覚えてくださいまし!」


 それだけ声高に言うと彼女の方が踵を返して人混みの中に消えていった。

 なんだったんだろう。


「セイフォート家……?」


 貴族では聞かない名前だなと首を傾げる私に、キリアンは顎に手を当てて何かを考えている。


「思い当たる節が?」


「……先日、騎士団で行動中に助けた商団の名前がセイフォートだった」


「まあ、じゃあそのお身内かしら」


「ええ。同僚から教えてもらいましたが、貴族ではないただの商家だと。それなりに大きな商家のようですが……」


「そうなの……」


「だとしてもあんな女性を見た覚えはないんだが……」


 なんだかキリアンはやっぱり不機嫌そう。

 ブツブツと何かを言っていたけれど、聞き取れなかった。

 

 彼もよく知らない人に急に声をかけられて、疲れてしまったのかしら?

 私も……せっかくの楽しい演目を見る前にどっと疲れてしまったわ!


 周囲の目もあるし、本当に今回のチケットがボックス席で良かったと思う。

 あの場から離れてボックス席に入ってしまえば、もう後は人の目を気にすることもないものね。


「アシュリー嬢」


「はい?」


「その、今日は観劇後にディナーをいかがでしょうか。どうしても貴女と話をしたいことがあって」


「まあ」


 いったいどうしたって言うのかしら。

 意外なことばかり起きて私は少しだけどうしていいのか悩んでしまったけれど……でも、そうよね。


「私もキリアンと話したいことがあったので、是非」


「! そうですか! 良かった……」


 ほっとした様子のキリアンに、もしやお父様かお兄様から何か言われたのだろうかと少しだけ申し訳なく思ってしまった。

 謝罪を述べるべきかどうしようかと思っていると、開演のブザーが聞こえて前を向く。


(……あまり謝罪ばかり重ねても、胡散臭いわよね)

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