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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第一章 初桜(高二春編)
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第七話 私の愚痴

 優愛を看病した日の翌日も、学校に優愛は来なかった。

 まあ、少なくとも今週は来ないだろう。

 親のこともあるけど、なんだかんだ昨日の優愛も結構具合は悪そうだったし、今日明日じゃ治んなそうだし。

 というか、やっぱり、昨日のことは忘れられてない。

 優愛のあの言葉は、どういう気持ちだったのだろう。

 いや、そもそもあれは寝言だったし、本音ではない可能性だって全然あるよな。


「ねえ、影」


 私はリビングのソファに深く座って、スマホをつつきながらそう言った。


「もしかして俺に質問しようとしてる?」


「そうだけど」


「じゃあとりあえず俺の質問に答えてくんない?」


 はて何のことだろうか。


「いいけど」


「なんで俺の家にいるの?」


 影はリビングの台所前にある机で焼きそばを食べながら食い気味にそう言いて来た。


「学校終わるじゃん?一緒に帰る人いないじゃん?家に親いるじゃん?だるいじゃん?

 そういうこと」


「どういうk…………まあ、わからんでもないけど」


 影はそういって一口焼きそばを口に運んだ。


「で、なに聞こうとしたんだ?」


「女の子同士の恋愛ってどう思う?」


「やりたいなら勝手にやればいいと思う」


 影はもう一口焼きそばを口に運んだ。


「やけに即答」


「今時失言が怖いからな。

 角を立てないことが大事なんよ」


「ふ~ん」


 私は姿勢を直して影のほうを向いた。


「じゃあ、それが片思いだったら?」


「なんで俺に聞くんだよ」


「悩んでるから」


「お前に好きなやつ…………いわゆる好きピがいるのか!?」


 影は、まじか、と言いつつ焼きそばを食べた。


「そうじゃなくて、私のこと好きそうな女友達がいるの」


 影はもぐもぐしながら、なるほど、とつぶやいた。


「なんでそう思ったんだ?」


「愛してる」


 影は今日初めて私のほうを向いた。


「って、その子が私の名前と一緒に寝言で言ってたの」


「ああ、そういうこと」


 影は再びそっぽを向いて焼きそばを食べ始めた。


「どうすればいいと思う?」


「寝言なんだろ?

 相手が告白でもしてこない限り、特にどうするもねぇんじゃねえの?」


「…………それもそっか」


 私はまたソファに深く座ってスマホをつつき始めた。


「で、それを受けて、百合ってどう思う?」


「いやだから、勝手にすればいいんじゃn」


「部屋に何個かフィギアあったよね隠してたけど」


「え」


「あなたはオタク。

 はい、それを受けて、百合ってどう思う?」


 影は焼きそばを食べる手を止めて、下を向きながら大きく息を吸った。


「百合は…………俺にとっての、百合は!

 神聖で、愛らしくてつけ入るすきもない、完璧なシチュであり、癖であり、美しさの原型、で、、す…………!」


 今までにないくらいの感情的な、かみしめるような言い方で影はそういった。


「オタクだね~」


「てか、どうやってあのフィギア見つけたんだよ」


「別に見つけてないよ?あるんだろうなって思っただけ」


 てか、やっぱりあるんだ。


「…………ブラフ?」


「そ」


 影はそのまま焼きそばにがっつき始めて、一瞬で完食した。

 そのまま食器を台所にもっていって洗い始めた。


「ほんと偉いよね。私だったら絶対に水に浸すだけなのに」


「今日夜ご飯食べる気ないからな。わざわざ後で洗いたくないだけだ」


「なるほどね。そこから思考回路が違うのね」


 焼きそばも自分で作ってたっぽいし家事とか得意なのかな。


「ていうかなんでこんな時間に焼きそば食べたの?夜ごはんじゃないの?」


「昼ご飯食べるの忘れてただけ、あと前、お前が凸ってきたせいで食べ損ねたんだよ」


「それは…………申し訳ない」


 私がのっぺらとそういうと、影は食器を洗い終えて台所から出てきた。


「別に気にしてない」


 影はそういうと机の上からスマホをとった。


「俺は部屋にこもる」


「私も行く」


 私はスマホの画面を切ってゆっくり立ち上がった。

 影はそのまま何も言わずに会談に向かって歩き出した。

 私もそのあとをついて行った。

 階段を登り切って、いろんな部屋を見渡した。


「それにしてもこんなに部屋があるって、ほんとにお金持ちなんだね」


「親、というか、家系がな」


「家系?」


 影は部屋のドアを開けて入っていった。


「うちは昔っからの金持ち家系なんだよ。古いな」


 私も後に続いて中に入ると、影はパソコンの前の椅子に座った。


「古いって?」


 私もベッドに腰を下ろした。心なしか物が減っている?


「例えば自分の子供を交渉材料にしたり、男女差別が強かったりだな」


「へぇー」


「ま

 親に見捨てられていろんなところにたらいまわしにされたのに、笑ってるように見える奴はいるから、そもそもうちは狂ってるんよ」


「なんかすごい堅苦しい感じだね」


「だから俺は関わりたくないんだよ絶対に」


 影はそういってヘッドホンをつけた。

 私もベッドの隅に行って、部屋の壁の角にもたれかかりながらスマホを取り出した。


ーーーーー


 なんだかんだ暇をつぶしているとだいたい六時くらいになった。

 前と同じように影は自分の世界に入っている。

 この部屋はそもそも窓に黒い板が張ってあったりして、外の様子がわからないが、おそらく暗いか、夕暮れくらいだろう。

 さて、いつぐらいに帰ろうか。

 そう考えていると、影がヘッドホンを外した。


「そういえば、お前いつぐらいに帰るんだ?」


 影が椅子をくるりと回してそう聞いてきた。


「そろそろかな~」


「じゃあ、早めに帰ったほうがいいぞ。

 今日は親父が帰ってくる」


「そういうのもっと早く言ってよ。ていうか、夜ご飯食べないのってそのせい?」


「まぁな。

 親父とは顔合わせたくないんだよ。

 ま、いても数時間ぐらいだろうけど」


「じゃあ、もう帰ろうかな」


「一応、裏口あるからそこ使ったほうがいい。鍵はかけてないから」


 ()()()はおろしていた髪をゴムで縛った。


「わかった。ありがと、影」


「…………どういたしまして」


 影はすぐにヘッドホンをつけて、パソコンに向き直った。

 わたしは荷物を持ち部屋から出て裏口に向かった。

 確か階段裏の通路の奥にそれっぽいのがあったはずだ。

 廊下から見える空はまだ夕暮れのようだ。

 階段を下りてその通路の奥に進むと、やはりそこには裏口のような外に続くドアがあった。

 わたしはササっと正面玄関から靴を持ってきて、そのドアから外に出た。

 すると家の中から、ガチャッというような音が聞こえてきた。

 帰ってきたのだ、影のお父さんが。

 少し気になるが、見つかると被害を被るのは影なので、ここは静かに帰るとしよう。

 でも、この家は窓が大きい。

 墓場のほうから帰りたかったけど、そうするとリビングの窓から見えてしまうので、学校からの帰路をたどることになりそうだ。

 わたしは足音を消しながら家から離れていった。


ーーーーー


 わたしは、五分くらい森を歩き、住宅街への出口についた。

 よく知らない生徒とかがいたら気まずいな。

 そう思いつつ、森の外に出て左右を見渡した。

 すると、右のほうに二人の人影が見えた。

 凛と…………ちょっと奥にいるのは凛の隣の席の子かな。

 あの子、今日も休みだった気がするけど。


「おう。葉菜じゃん。どうしたんだ?」


 そう考えていると、凛がもう目の前にいた。

 わたしは通り過ぎていく凛についていきながら答えた。


「えっと、ちょっと墓参りにね…………

 凛は部活帰り?」


「まあな」


「もう六時半だよ?遅いね」


「いや、今日は早いほうだ。いつもなら七時くらいまでは部活だからな」


「じゃあ、今日はどうしたの?」


「部活内で財布の盗難が起きてな、今日は早めに帰されたんだ」


「最近盗難多いよね」


「学校なんてそんなもんってことだよな」


 凛はどこか遠くを見てそう言った。


「で」


 と凛は一拍おいて、私のほうに視線を落とした。


「学校の時は聞きそびれたが、昨日はどうだったんだ?」


「どうって?」


「優愛の看病行ってきたんだろ?」


「あー、まぁでも、

 特に何もなかったよ?」


「へ~、あっそ」


「なんかあるの?」


「いや~、べつに~」


 凛はあざけるように笑いながらそう言った。


「そういえば凛は、隣の席の子と仲いいの?」


 わたしは後ろをちらっと見ながら小声でそう言った。


「へ?ああ、いや。あいつはただのパシリだよ」


「前、体育の時間の時にあの子凛のジャージ着てたよね」


「あれは、私がジャージを砂で汚したくなかっただけだ」


「持たせるんじゃなくて、着させてたのは?」


「あいつが上着忘れたっていうから、貸してただけだ」


 凛は用意してたかのように、淡々とそう言った。


「ちなみにあの子の名前知ってる?」


「気にしたことないな」


「ふ~ん」


 わたしは少しにやにやしながらそう言った。

 後ろを振り返るとそこにはもう、あの子の姿はなかった。


「あれ?あれ?」


「急にどうしたんだ?」


「いや、さっきまで確かに、あの子が後ろにいたはずなんだけど」


「見間違いだろ」


「そうかな~」


 わたしは前を向きなおした。


「じゃ私は電車だから」


 少し歩くと凛はそういって駅の前で立ち止まった。


「うん、じゃあね」


 そうしてわたしは駅を過ぎて家に向かった。

 スマホを取り出すと、この短時間で10通も優愛から連絡が来ていた。

 そう言えば、影と連絡先交換してないな。

 明日も家にお母さん居るし、また行って交換しようかな。

 気づいたころには、空はもう夕暮れから深い紺色に変わっていっていた。


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