第六十五話 もしかして、ひよった?
「え~~とぉ」
金曜日の放課後。
わたしは凛と優愛と一緒に、廣瀬先生を理科準備室に呼び出して、座っている先生の前に腕を組んで三人並んで立っていた。
「なんで呼び出されたかわかります?」
「ん~~、テストの点数交渉とか…………?」
「私らそこまでがめつくないっすよ」
「…………そうよねえ」
先生は凛に反論されて、しょぼんとしてしまった。
付け加えるなら点数も悪くないのだが。
「わたしたちの用事は一つです
先生、あの話しました?」
「あの話?」
「高橋先生に話しかけるんでしょう?」
「あ、うん、そうなんだけどね…………」
先生は途端にもじもじしながら顔をそむけた。
「もしかかして先生!
ひよったぁ?」
「…………はいぃ」
優愛がニンマリとあざ笑うようにそう言うと、先生は動きを止めて、申し訳なさげに認めた。
「恥ずかしくなっちゃたんですか?」
「…………だって、職員室で話しかけようとしても、周りに人がいたりするしぃ
そもそも普段あんまりしゃべらない人がいきなりしゃべりかけてるとかちょっとぉ…………」
「先生のこと誰も見てませんよ」
「え…………」
わたしがそう刺すと、先生は顔を上げたまま石化してしまった。
「先生のことを見てもらうために話しかけるんでしょ?」
「…………はっ!
そ、そうよねぇ…………!」
優愛の一言で先生は石化を解き、メンタルを立て直した。
「先生
別に話しかけるためにおめかしする必要も何もないんですからね?
そういうのはデートとかに行くときすればいいんです」
「…………そう言われても…………気になるものは気になるのぉ…………!」
先生はだんだん駄々をこねる子供みたいな口調になってきた。
すると優愛がしゃがんで、先生の目線より下に行った。
「先生は会話の話題がなくて、困ってるんですか?」
「っそ…………そうなのぉ!!」
いきなり先生は声のボルテージを上げた。
「いっつも話しかけようとして服とか前髪とか確認してから、よしっ、て思って行くんだけど…………いざとなった時、言葉が思いつかなくてぇ…………」
「じゃあ今からいくつか話題を考えてみましょうか」
「いいのぉ?」
「そのための私たちだからな」
そう言うと先生は立ち上がって、隅に置いてあった椅子を持ってきてわたしたちを座らせた。
優愛はどこか楽しそうな顔をしながら、いたずらな顔をしている。文字通りね。
~第二回廣瀬先生の恋事情会議~
「ちなみにぱっと思いつくのとかあります?」
「そういうのがないから困るのよねぇ…………」
先生は右頬に手を置いてそう言った。
「いきなり『恋人とか…………いるんですか?』って照れ顔で言ってみたらどうですか?」
優愛が早速ぶっこんできた。
「そ、そんなの…………」
「でも、もしも先生が転勤とかになるんだったら猶予は来年の三月いっぱいですよ?
時間が惜しくないですか?」
「それは…………そうよねぇ…………」
優愛の猛攻が止まらない。
少し制止しよう。
「そういうのじゃなくても、お昼に『今日のお弁当はなんですかぁ~~』とか、『面談あるんですかぁ?』とかの些細な話題でもいいんですよ?
そういうところから交流は始まるんです」
「それもそうよねぇ…………」
「むう…………!」
先生は少しほっとした様子だが、優愛はちょっと不満らしい。
「お前ら二人とも、先生の物まね誇張しすぎだろ」
「「そう?」」
「お前らほんと仲いいな…………!」
そんな誇張だなんて。
特徴をとらえていると言ってほしい。
「まあでも、あれじゃないすか?
高橋先生実直ですし、『私があなたのこと好きって言ったらどうします?』的なこと、すんなり言ってみたらどうっすか」
「えぇ!?」
先生が驚くのは普通の、一般的なことだ。
「ねえ、凛
それ優愛のよりハード」
「そうだよ!凛たん!!」
「でもあの先生、直接言わないとどうせ何も察さないぞ」
「「「そうだけど!!」」」
先生ともセリフが被った。
高橋先生へのイメージはやはり、みんな同じらしい。
「でも分かったぁ…………!
頑張ってみます!」
そう言って先生は拳を胸に当てた。
あれ、この先生わたしよりもバストでかく…………
「ぐふうっ…………!!!」
「どうしたの!葉菜ちゃん!!!」
わたしは痛みにより現実から目をそらすことを選んで、思いっきり頬をぶった。
ーーーーー
「優愛も一緒に帰るか?」
「いや、わたしはいいや」
「な~ん~で~!!??」
わたしは準備室から出た後、優愛の駄々を跳ね飛ばして学校にとどまった。
実は影に呼び出されているのだ。
ーー凛視点ーー
「葉菜、何の用事だろうな」
私と優愛はすっかり昼が短くなった夕焼け空の下で帰路をたどっていた。
「葉菜ちゃん、ああなると口堅いから
でもたぶんそんなに心配するようなことじゃないと思う」
優愛は不服ながらもそういった。
こいつはこいつで、葉菜にある程度の信頼を置いてるようだ。
「もしあってるのが男だったらどうする?」
「〇って―して―――から――――――――――…………」
「言いすぎじゃね?」
放送禁止ワードの量がすごい。
葉菜の前で気を使ってるのが外れてるのか。
「だって、そんなの浮気じゃん
浮気ダメ絶対」
あまりに極端思考すぎる。
「よくそんなこと言えるな」
「…………?
どういうこと?」
「さっきの先生にも言ってたけどよ
お前も十分ひより続けてるだろ
浮気っつったって、晴斗の時みたいにコロッと彼氏作るかもしれないぞ」
「…………うるさい」
優愛は突然歩行速度を上げた。
「ちょっと待てよ!
悪かったって」
私はそう言って少し小走りで追いかけた。
優愛はいつになったら、素直になるのだろう?
いや、もう素直ではあるんだろう。
じゃあいつ、その願いは…………
「お前夜西さんのストーカーしてないよな」
「しておりませんよ、私は」
「私は!?」




