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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第三章 椛(高二秋編)
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第六十三話 夜西さんの恋事情会議

 日曜日。

 私はいつも通り影の家で昼ごはんをいただきに来ていた。


「高橋先生?」


「そう、廣瀬先生の好きな人」


「へ~」


 影と私は向かい合わせになってテーブルの上の食べ物を食べている。

 最近の影は一緒に食べてくれることが多くなったように思う。

 ちなみに今日は焼うどんだ。


「…………影もだいぶ学校の生徒になったね

 前までならこんな話題微塵も興味なかったでしょ」


「さすがに一週間もいったからな」


「たった一週間、ね」


「…………はい」


 そう言うと影は、そうだよな、と少し肩を落とした。

 一週間という期間は影にとって大きなものだったのだろう。


「影って高一から不登校なの?」


「いや、不登校になったのは中三の少し前とか」


「中二の最後から…………長いね」


「母さんが亡くなって少ししてから、なんかもう色々面倒になって一回学校休んだら、まあそのまま学校に二度と行かなかったな」


「でも、高一の最初来てたじゃん」


「老人たちの小言が面倒なのが目に見えてたからな

 一応出席だけしてたんだよ

 まあ、なぜか出席しなくても進級できてたけど」


「そこ謎なのはだめでしょ」


「どうせ来年から出席する羽目になるんだから変わらんだろ」



 私はそう言ってからもう一本うどんの麺をすすった。

 全学生たちが欲しがる特権であるはずだ。その入手方法くらい欲しいものである。

 影は徐に箸を皿に置いて、拳を膝の上に置いた。

 顔は無駄に神妙な面持ちだ。


「あの~~~、非常に恐縮ながら一つお願いがあるんですが」


 影がいきなり気まずそうに切り出した。


「その…………」


「何?」


「…………学校を休もうと思いまして~」


「…………この、一回学校休んだら~、の(くだり)でよく言えたね」


「理由はございます…………」


「ほう?」


 わたしも箸をおいて顎を上げて聞く。

 なんか、最近こういうシーンが多い気がするが気のせいだろう。


「休みたいのは、来週の水曜にある体育祭をですね…………」


「体育祭?

 ああ、あったねそういえば」


 毎年秋初めに行われるイベントだ。

 一日中いろんな競技が開催されて、クラスの順位が決まる、


「その、自分は人と一緒に運動をしたり、人ごみの中で試合を見るとかそういうのが限りなくきつくてですね

 先日も体育で二人一組作れとか言われて…………ああ、頭が…………」


 影は恐怖に浸ったような表情をにじませた。


「でも、もうどの競技に出るとかは決めたでしょ?」


「はい」


「休んでも大丈夫そうなやつなの?」


「…………リレー」


「絶対欠けたらだめなやつじゃん」


「…………アンカー」


「もっとダメじゃん!!」


 なんと。

 確かにガタイもよく足も速そうだが、まさかのアンカーまでなるとは。


「違うんだ…………もう断れなかったんだ…………

 みんなやりたくねえっていうから、いろんな不運が立て込んで俺に矛先が…………」


 影は急に気を戻して、そう嘆いた。


「どうせ断り切れなかったんでしょ」


「…………はい」


 影はそう言ってまたおとなしくなって下を向いた。


「まあいいや

 ご馳走様」


 私は焼うどんを食べきってそう言った。


「はいお粗末様…………って

 いいのか!?」


「まあね」


 私は立ち上がって、ソファに向かった。


「ただし」


 そう言って立ち止まり振り返った。


「その日以外は絶対に出席することと、明日の()()には来てね」


「…………わかってるよ」


 そんな感じに話がまとまってあとは二人ともいつも通り、特にしゃべりもせずに時間を過ごした。


ーーーーー


 翌日月曜日の放課後。

 私は図書館に向かっていた。

 目的はもちろん、夜西さんの恋事情会議のためである。

 毎週月曜に開かれることになっている。


「あ」


 廊下を歩いていると、横の通路から出てきた影と出くわした。


「図書館向かってるんですか?」


「うん、そっちは?」


「同じくです」


 そういうことでわたしたちは横に並んで歩きだした。

 相変わらずこう歩くと身長差を感じてしまう。


「そう言えば、明さん?と腐れ縁って言ってたけど、なんかあったの?」


「家の都合で…………かかわりが昔から結構あって…………」


「へ~」


 いけない。

 これ以上はおそらく踏み込みすぎだ。

 確かに、あの条件の紙はノリで見つけたが、こういう微妙な気配は危ない。


「二人共」


 図書室の前まで来ると、夜西さんが扉の前で本を持ちながら立っていた。


「待ってた」


 そう言って夜西さんは紙をふわっと浮かせて振り返り図書室の中に入っていった。


 わたしたちも同じように中に入っていった。


ーーーーー


「第一回 恋事情会議

 始めよう」


パチパチパチ888


 そんなこんなで、わたしたちは前と同じく誰もいない図書室でテーブルを囲み、そんな掛け声と、わたしと影の物寂しい拍手とともに会議が始まった。


「議題というか、なんかあるの?」


「一応、当面の目標設定をしたい」


「告白云々の前に、何か目指すものを決めたいのね」


「ものわかりが早いな」


 夜西さんはいつも通り平坦な口調と表情で、影は夜西さんの横でずっと固まっている。

 2人ともなかなか個性が強くてわたしの立場というか、保護者な感じが強い。


「ちなみに夜西さんは、明さんとの接点とかあるの?」


「…………いつも目で追いかけている」


「うん、()()んだね

 話したことは?」


「目で訴え―――」


()()んだね」


 わたしがそう言うと、心なしか夜西さんはしゅんとしぼむように体を小さくして、本を抱く力を強めた。

 どれだけ、夜西さんからの思いが強いかはよくわかるが、接点がないというのはなかなか難しい。


「そこで、満月君の手を借りたいのだが…………」


「自分ですか…………」


 二人とも、人見知り×根暗、ということで話のスピードがあまりに遅い。


「ねえ影、一旦さ、明さんに夜西さんのこと知ってるか聞かない?」


「…………わかりました」


 影は、もうこの話に乗ってしまったということで渋々ながらも素直に承諾してくれた。


「だが、それだけでは仲を作るには足りないな」


「なんかちょうどいいイベントがあるといいんだけどね」


「イベントと言っても、そんなの学校行事くらいしか…………」


 影がそう言うと、影の目線が「まさか…………」と言わんばかりにこちらに向けられた。

 夜西さんは影のほうを横目に見ている。


「体育祭…………か」


「…………」


 夜西さんが言いづらそうにそう言うと、影は後悔するように机の上におでこをくっつけた。


「明君は運動部だし、応援とかに行く…………だけじゃ足りないし…………」


「やはり一緒に何かやるしかないな」


「一緒にって競技をですか?」


「それは、んん」


 競技を一緒にはかなり難しいだろう。

 なにか、互いに少し意識するくらいのことがあればいいんだけど。


「満月君は明さんとどんな関係なんだ?

 腐れ縁だけではよくわからない」


「え、あーえっと、保護者的な?」


「では、君の近くに居たら意識されるか?」


「まあたぶん…………」


 さて、影の顔がだんだん嫌な予感を感じ取って苦くなっていっている。


「では、君と明さんの競技を応援しに行くことにしよう」


「う…………!」


 影はそう言われて、こっちに肘を机にスライドさせながら近づいてきた。


「自分も体育祭…………」


「いかなきゃだね」


「ですよね~~」


 影はわたしと小声でそんなやり取りをして、また元の体勢に戻った。


「…………承知しました」


「感謝するよ満月君」


 そうして体育祭作戦「明さんに認知されよう」が出来上がった。


「ちなみに付き合っているという設定にしたら…………」


「…………却下で」


  影の反応に若干ディレイがあったのは、きっとあの紙のせいだろう。



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