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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第一章 初桜(高二春編)
6/101

第五話 自分と雨上がり

 一般的に考えよう。

 

 まず、俺(不登校×未成年飲酒×親のすねかじり)の家に二日間連続女子が来るというこの現状。

 …………あり得るはずがないな。うん。

 しかも、その女子は雨に濡れた状態で、家に入れて、と頼んできた事実。

 …………同人誌の読みすぎだ。

 そして今、俺の半径20メートル以内でその女子が風呂に入っていること。

 …………そういうシチュエーションボイスでも聞いてるのかな?

 となるとこの後の展開は…………


「ふぐぅ!!!」


 俺は何かの妄想が始まりそうな気配を自分の頬をおもいっきし殴ることでかき消した。


 ()()()に考えよう。

 まず、未成年飲酒がばれた。

 …………由々しき事態だ。

 しかも、相手に怒鳴りつけた。

 …………あれ俺って最低なのでは。

 そして今、俺はソファから立ち上がり台所でコップにジンを注いでソーダ割を作っている。

 …………ああ、俺ってどうしようもねえんだな。


 さて、状況の整理がついたな。


 俺はコップをもって台所からソファに向かい、腰を下ろした。


 つまるところ俺は同人誌のような状況に身を置きながら、堂々と未成年飲酒を決め込んでいると。

 

 俺はそのまま口に酒を注いだ。


「…………不味い」


 俺はそう言いつつコップをテーブルに置いてスマホを手に取った。

 天気予想のアプリによると、雨は…………なかなか止まねえな。

 俺の家には傘がない。

 なぜかって?

 親はほぼ家にいない。

 そして子供は引きこもり。

 つまりそういうこと。


 だからと言ってあいつ…………じゃなくて葉菜をここにいさせておくわけにもいかん。

 明日も余裕で平日だ、俺には関係がないが葉菜には学校がある。

 いっそのことタクシーでも呼ぶか。いやこんぐらいのことなら葉菜も考えただろう。

 何か事情でもあるのか?あんまり深く足を突っ込みたくはないな。


 …………にしても


 俺は風呂場の方向に顔を向けた。


 さっきから聞こえてくるシャワーの音が違和感でしかない。

 普段俺が出す音以外何もないことからの違和感もそうだが、その俺以外が女子であることがもっと違和感を増させている。

 そもそもなぜうちに来たんだ。

 雨宿りのためだと言っても、流石に男の家には来ないだろうよ。

 しかも今その家で風呂入ってるんだろ?

 確かに風呂は俺が勝手に提案した物だけどさ、普通の女子だったら断るだろ。

 …………まあいい、一旦俺のやることは昨日のことを謝るのと、帰り方の相談だな。

 いつ風呂から上がってくるのだろう。女子って勝手ながら風呂とか長いイメージなんだが…………


「!?」

 

 そこで俺は衝撃の事実に気づいた。

 風呂から上がった後、葉菜は()()()()つもりなんだ?

 うちには一切女物の服がない…………

 流石にそこら辺を考えずに今風呂に入ってるわけじゃねえだろうな。

 

 やばい、考えれば考えるほど不安要素が増えていく。


 俺はコップの中の酒を一気に飲み干し、いったん考えることをやめた。



ーーー葉菜視点ーーー



 カポン…………、という効果音が鳴りながら、私はお風呂に入っていた。

 お風呂もなかなかに広い。きっと二、三人程度なら余裕で入れる。というかそれを考慮して作ってありそうだ。

 お湯加減もちょうどいいし、ほんといい湯…………なのだが。

 お風呂に顔をうずめて、息を吐いてぶくぶくしていると、私はある問題に気づいてしまった。

 ()()()()()()()()()()()

 いや、考えてもいなかった。

 この家、女物の服はあるのだろうか。

 いや、あったとしても脱衣所になかったら影に取ってきてもらうことになる。

 なんか抵抗あるな。

 …………なかったら?

 今度こそ絶望だ。

 制服は結構濡れちゃってるし、着替えなんて持ってきて…………

 今日は体育があった。

 リビングに多分ジャージがあるはず。

 持ってきてもらうしか…………ないよな。


 私はバシャンと勢いよく立ち上がった。

 めまいがして少し倒れかけてしまった。


ーーーーー


 私は脱衣所で置いてあるタオルで体をふいて、髪もある程度乾かした。

 なんか脱衣所も旅館みたいな感じで、カゴがあったりタオル置き場があったりしている。

 全部影が整備してるならすごいな。いや、お金あるだろうし専属の人とかいるのかな。


 私はタオルを巻いて体を隠した。

 さて、ミッション1【影に話しかけて着替えを手に入れる】を遂行しようか。

 幸い脱衣所とリビングは声が聞こえないほど距離はあいていない、大声で何とかなるだろう。

 私は少しだけ脱衣所のドアを開き大きく息を吸った。


「影!私のジャージが入ってるバッグを持ってきて!!」


 …………疲れた。これだけでも息きつい。

 

 私はドアを閉めて鍵をかけた。



ーーー影視点ーーー



 …………いやどこ!?

 探してもバッグなんてないんですけど。

 俺はリビングのありとあらゆるところを探し回った。

 クッションの下、テレビの裏、椅子の下、台所、等々。

 どこにありまして!?

 まじで不明なんだけど。

 …………待てよ。

 あそこに葉菜の教科書とかが入っているバッグがある。

 ワンチャン中にあるのか?

 俺は恐る恐る中をのぞいた。

 …………ない。

 つまるところ、どこにあるというんだよ!


 …………待て待て、落ち着け。記憶を探れ。どこにあっ…………


 来た時バッグ2つも持ってたか?

 ハーン。なるほど。つまりどっかに忘れてきたな。

 俺はできる限り足音を立てつつ脱衣所の前へ向かった。

 コンコンとノックすると


「あった?」


 とドア越しに聞こえた。


「あのさ、この家に着いたときバッグ持ってた記憶ある…………?」


 すると、若間の静寂が続いた。


「…………全くないかも。多分一番最後に持ってた記憶はスーパーで雨宿りしてた時かな…………」


 さすがの記憶力だと言いたいが、ここでは一つ。

 何をしでかしているんだ!


 俺はその言葉をぐっと飲みこんだ。


「…………うちに女物の服はないけど、だからと言って俺の服はきたくないよな?」


「まぁ」


「あと何分耐えれる?」


「そういわれても…………」


 俺はそれを聞いた瞬間、ダッシュで玄関に行って靴を履いた。

 外に出ると雨の勢いは一つも収まっていなかった。

 俺は覚悟を決めて最短距離、そして全速力でスーパーに向かった。

 この町はそれなりに田舎だ。ここら辺のスーパーなんてたかが知れてる。

 俺は雨で足場が悪い中、それはもう全力ダッシュを決め込んだ。



ーーー葉菜視点ーーー



 私の答えを聞くや否や、ドタドタと影が走り出してから、脱衣所の時計を見るに5分ちょっと経った頃ドアのあく音が聞こえた。

 私は脱衣所の木でできた椅子から立ち上がりドアのそばに立った。


「はあ、はあ、はあ。ごほっ。うぅ。」

 

 …………大丈夫かな。


「着替え…………ここに、置い、とく、わ…………」


 そういうと何かが置かれる音が聞こえた。

 私は影がいなくなったころ合いを見て、バッグを回収した。

 中を確認するとちゃんと私のだった。

 スーパーの軒下にあっただろうか、濡れてはいない。

 私は急いで着替えた。


ーーーーー


「えっと」


 私が着替え終わり、リビングに出てくると、なんかびしょぬれになったジャージ姿の影がソファで何かを飲んでいた。

 やはり、影は私の着替えのために雨の中取りに行ってくれたのだろう。


「…………別に気にしないから、シャワーだけでも浴びてきたら?」


 そう言うと影はコップを机に置いて立ち上がった。


「そうする」


 私と目を合わせることはなく影はそのまま私の横を通り過ぎて行った。


 私は影の背中を見送りつつ影が座っていたソファの隣に座った。

 よく見るとこの飲み物お酒だな。まあこの際、飲酒どうこうはいいや。

 私はスマホを取り出した。

 相変わらず画面に映る私には表情がない。

 スマホの電源がつくと15件の着信があった。

 もれなく優愛からのだった。

 いつもならこの数倍は来るが具合が悪いからだろうか、少なめだな。

 見ると大体は親の愚痴だった。

 まあ、わからんでもないけども。

 なかなか癖強いからな。

 過保護だしね、なんて返すと一瞬で既読がついた。

 でもいつもなら一瞬で返信されるが、なかなか来ない。

 もしや寝落ちたな。

 …………まあいいや。体が弱ってるときは寝るに限るし。


 そう思っていると、シャワーの音が聞こえてきた。

 こんなに音聞こえるんだったらあんな大声出さなくてよかったな。


(スマホでもいじって時間つぶそ)


 そして私はソファに深く座って体育座りみたいな恰好でくつろぎ始めた。



ーーーーー


 五分ほどたっただろうか、すぐに影はお風呂場から出てきた。

 服は変わっていないように見えた。

 どんな寝間着なのか少し気になってたんだけど。


「俺は部屋にこもる。なんかあったら来い」


「私もついてく」


 そういって私はスマホの画面を切って、立ち上がった。


「ついてきて何すんの?」


「なんもしない」


 影は、あっそ、と言って階段に向かっていった。

 私もそのあとをついて行った。

 階段を上り切ると影は左右の分かれ道を右に進んで行った。

 昨日も思ったがこの家はやたらと部屋が多い。

 そもそも家が広いのもあるけど、なんで影はここに住んでいるのだろうか。


「ねえ、なんでこんなに部屋が多いの?」


 私は歩きながら聞いた。


「もともとは別荘みたいなもんだから客室が多いんだよ」


 影は相変わらずこっちを見ずに答えた。

 なるほどやっぱり別荘か。

 納得だけど別荘があるってどんだけ金持ちなんだ。

 というかなんでこんな森の中に?


「影ってお金持ちなの?」


「俺の家が無駄に金持ってるだけだよ」


 影は部屋の扉を開けながら答えた。


 扉には、影の部屋、とかわいい字で書いてある看板がかかっていて、カラカラと音を立てた。

 こんなに部屋があるのに昨日私が部屋にたどり着けたのはこの看板があったからだ。

 私も部屋の中に入って扉を閉めた。

 影はパソコンの前に座った。

 私はもう一度部屋を見渡した。


 広さは確実に私の部屋よりかは大きいけれどそれよりもなんか機会が多くてすごい圧迫感を感じる。

 窓とかにも黒い板が張ってあってなんかすごい違和感。

 扉の隣にある棚にはやっぱりお酒が置いてある。結構な数置いてある。

 パソコンもノートパソコンとかじゃなくてちゃんとしたデスクトップPCだし、両側にスピーカーあるし、なんかキーボードとかもいろいろ置いてあるし。

 パソコンの隣にあるベッドもなかな大きめだけど紙とか散らばってて小さく感じる。

 なんかこう汚部屋ではないけど物が多いだけの部屋だな。


「ベッド座ってもいい?」


「別にいいけど」


 影はそう言いながらヘッドホンをつけた。

 私はベッドの一番壁の角に座って壁に寄りかかって紙をどけながら足を延ばした。


 そのあとは無言の時間が続いた。

 私はパソコンの画面を見ないようにずっとスマホをいじって途中から体育座りになって縮こまっていた。

 というのも、最初はおどおどしながらパソコンをいじってた影だが、しばらくすると自分の世界に入ったようで、時にはずっとちまちまマウスクリックしてたり、ピアノ弾き始めたり(影はイヤホンしてたので私には聞こえなかった)、口が笑ってたり、お酒飲んだり…………なんか私の存在がだんだんなくなっていったのだ。


 でも…………居心地は悪くない。


 ふと時計を見ると、もう時間は6時を回っていた。

 私はトイレにでも行こうと思いベットから降りて影の部屋から出た。

 たしか脱衣所の隣がトイレだったはず。

 そうして私が階段を降りるとあることに気づいた。

 ()()()()()()()

 これだからスマホの天気予報もほんと信用ないな。

 時間もいい頃だし、また雨が降り出す前に帰ろうかな。

 

 私はトイレを済ませて部屋に戻ってきた。

 影はまたパソコンとにらめっこしていた。

 そんな影の肩を私はポンポンとたたいた。

 すると影はヘッドホンを外した。


「何かあった?」

 

 影はくるりと椅子を回してこちらを向いた。


「雨がやんでそうだから帰ろうかな」

 

「そ」


 そういって影は立ち上がった。


「じゃあ森の外まで送るよ

 夜の森は暗いし、雨でぬかるんでるから」


 そう、伸びをしながら言うと、影は部屋から出て行った。

 予想外の提案だった。

 てっきり、もうちょい淡泊な反応をされると思ってたのに。


 ()()()も髪を縛りなおして部屋を後にした。


ーーーーー


「忘れ物ないですか?」


 家から出た後、影はドアの鍵を閉めてそういった。


「ん~…………ない!」


 わたしはポケットとか鞄とかを確認した。


「じゃあ行きますか」


「うん」


 そうしてわたしたちは横並びで森の中を進んでいった。


「ていうか、また敬語になったね」


「言っているでしょう?陽キャがとことん苦手なんです」


「でもわたしがしゃべる前から敬語だったよね?」


「オーラが違うんですよ

 さっきあなたが二階から降りてきたとき、自分の提案を後悔しましたし…………」


 影はさっきからうつむいたままだ。

 前髪が垂れて横顔が見えそうで見えないのがもどかしい…………


「そう、違うもんかなー

 でもでも、初めて会った時よりもフレンドリーにはなったね」


「まあ、もう初対面ともいえんでしょうから…………」


 はて


「友達じゃないの?」


「友達の基準低くないですか?」


「そうかな~」


 わたしは顎に手を当てて考えた。


「こう、もうちょい自然な関係というかなんというか」


「でもわたし、男子の家に上がったのはじめてだよ?」


 影は、え!?、という感じの心底驚きの反応をした。


「そういうのを解釈違いっていうんですけど…………」


「でも先月告白はされたかな」


 影は、はあ、と感心するような声を出した。


「最近の若者はすごいですね…………」


 影はどこか遠くを見てそういった。


「玉砕したけどね」


 また影は、え!?、と言って驚いた。


「それまたなぜ…………」


「さっきまでその理由に会ってたでしょ?」


「まぁ、確かに」


 わたしだって最初っから結婚とか考えてるわけじゃないけど、長続きしないものを最初からわかってるのに付き合うのなんて、ただだるいだけだ。

 

「そういえばさ、影は一人暮らしなの?」


「一応父親と過ごしてますけど…………一か月に一回帰ってくればいいほうですかねぇ」


 やっぱりお金持ちはそれはそれで忙しいんだな。


「じゃあ、家事とかも大体影がやってるの?」


「ですね」


「すごいじゃん、お風呂場とかリビングとかきれいだったし」


「暇人なだけです」


「ふ~ん」


 だとしてもやらない人はやらないと思うけど。優愛とか。


「じゃあ学校行こうとは思わないの?」


「だいぶダイレクトに聞きますね…………」


「今更でしょ」


 影は、まあ、と相づちを打って、少し考えるそぶりをした


「思ったことがないわけじゃないですけど、行きたいとはなりませんっでしたね」


「あっそ」


 まぁ、理由があるのなら無理強いをすることじゃない。

 そうして、わたしたちは雨の時にわたしが入ってきた森の道の入り口に着いた。

 私は影の前に出て、くるりと振り返った。


「今日はありがとね」


 影は少し顔を逸らした。


「なんもしてないですけどね」


「でも、私のジャージ取りにいってくれたじゃん」


「なんのことやら」


 何を恥ずかしがっているのだろう。気づかないほどわたしもバカじゃないのに。


「それでも今、送ってくれたでしょ?」


「まぁ」


「じゃあ、ありがとうでしょ」


「…………ど、どういたしまして」


 わたしはくすりと笑った後に歩道に出て、腕を後ろに組んだ。


「またね」

 

 わたしが満面の笑みで言うと


「!…………ま、また」


 影はなんだか照れながら、もっと顔を背けてそういった。

 わたしは笑みのまま下校の道をたどっていった。


 歩いてる途中に何かスマホの通知が鳴った。

 スマホを見ると、まあ、優愛からのものであるのだけど体調悪いからかな、二通しか来てなかった。


寝落ちちゃった~^^


 やっぱりか。


ねえ、なんかささみしいからさ、できれば来てくれたりしない?


 …………え?


 

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