第四話 普段の私
わたしは影君の家から出たあと、山道を登って墓場の方まで戻ってきた。
坂道だからか、さっきよりもどっと疲れてしまった。
でもなんだか疲れた時のけだるさがない。
「あ…………」
影君のお母さんのお墓が見える。
わたしはお墓の前のベンチに駆け寄って腰を下ろした。
「ふう…………疲れた~」
わたしはそう言って少しナーバスだった気分をかき消した。
ふとポケットからスマホを取り出すと、ラインの着信が31件あった。
まあ予想通りすべて優愛からのものだった。
わたしはベンチから立ち上がって一旦ひとつ、ちょっと待って~、と書かれたかわいいサメのスタンプを送った。
それからちらっとお墓を見て
「また来ますっ…………!」
と宣言し、家に向かった。
ーーーーー
夕日が見える頃に家に着いたけど、中には誰もいなかった。
靴もないし親はどこかに出かけているか、仕事に行っているかしているのだろう。
わたしは靴を脱いで家に上がり、階段を上って自分の部屋に入った。
電気は付けずにバッグを放り投げ、ベッドに寝転ぶと、スマホの通知が鳴った。
優愛からだ。
二、三分優愛の機嫌取りをしていったん会話が終わった。
電源を切ると黒い画面にびっくりするほど真顔な自分が映っていた。
私は少し目を細めた後、スマホを置いてうつ伏せになった。
今日はなんだか疲れてしまった。
肉体の疲労もそうだが、なんだか気持ちも疲れた。
「ん…………」
私は寝返って、天井を見つめた。
…………たぶん私は彼にとっての逆鱗に触れたのだろう。
絶望して、開き直り、怒鳴りつける。当たり前だ。
人の暗いところ、命に代える秘密。それがただ一人にでもばれること。
私が一番知っているはずなのに。それがどれだけの意味を持つのか。
そんなに残酷なことをされておいて、少しでも落ち着いた彼は尊敬さえできる。
私も私でなんだか変だった。
いつものわたしなら
お酒を見つけても、茶化して。
怒鳴られても、明るく。
出て行けと言われても、出ていかなかった…………はずだ。
でも動揺した。『裏の顔』と言われて確かに普段のわたしが壊れた。
その前からも動揺はあった。多分お酒を見つけたことによる動揺。やってはならないことだと気づいたことによる動揺。
私は起き上がって体育座りをした。
でもなんで裏の顔なんて言い出したんだ?
確かに私は普段のわたしだったのに。
…………私は明るいわたしを持っている。
『わたし』は誰もが笑顔になるような性格で、陽キャ。
アクティブで誰とでも仲良くできる。
でも中身は純粋で、告白なんかされれば慌てる。
ほかにもいろいろあるけど…………まあ一旦いい。
それと、今の『私』。
外の声が聞こえたり、自分の声が誰かに聞こえるような距離に誰もいないこと。
場所が心から安心できる場所であること。など。
こういう条件が揃うと出てこれる。というかほぼ自動で切り替わる。
根暗で陰キャ。条件を見るように誰ともかかわらない。
途端にいろんな気合がなくなる。
なんの特徴もないといってもいい。
条件があるのだ、普段の私が出てくるには。
だからばれるなんてことはないはず…………なんだけど。
どうして…………
そう考えていると玄関の前で誰かが鍵を取り出す音が聞こえた。
わたしはベッドから降り部屋から出て、階段を下りた。
「ただいま~」
お母さんの声だ。
わたしは階段を下りる足を止めて
「おかえりなさい!」
といった。
ーーーーー
次の日の朝。わたしはニュースを見ながらパンを食べていた。
「お父さんまだ寝てるの?」
「昨日から帰ってきてないかもね」
お母さんはお弁当に具を詰めながらそう答えた。
うちはそこまで裕福じゃないと思う。
というか、かなり貧しいほうだ。
共働きで何とかわたしを学校に通わせてくれている。
家も一応一軒家だけど木造の古くて小さい家だ。
まあ何も不自由に感じたことはないけど。
ニュースは天気予報を知らせている。
「最近晴ればっかだね~。逆に心配にならない?」
「なんだかんだ梅雨の時期だものね~…………さ!お弁当できたよ
さっさと食べてさっさと着替えて学校行き」
「あ~い」
わたしはパンを口に放り込んで、ごもごもと、ごちそうさま、といって、部屋に戻った。
クローゼットから制服を出してベッドに放った。
そして寝間着を脱いで、制服に着替えた。
クローゼットに置いてある鏡の前でおかしいところがないか見た後に髪ゴムで髪をまとめた。
クローゼットを閉じ、脱いだ寝間着をもって下に降りた。
洗面台で歯を磨いて、肌のケアとかいろいろして、カバンにものを詰め込んだ。
「行くねー!」
「はーい」
わたしは玄関で靴を履いて、棚から鍵をとってポケットにつっこんだ。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
お母さんに見送られながらわたしは学校に向かった。
ーーーーー
学校についたわたしは(まあ道中で優愛の襲撃を受けたりしたけど)自分の教室に向かった。
優愛と話しながら歩いていると、玄関にあの先輩がいた。告白してきたあの先輩。楽しそうに友達としゃべっている。なんだ、楽しそうじゃん。
先輩はこっちを見つけるとなんか恥ずかしそうに目をそらした。
教室につくと珍しく凛が先に学校に来ていた。
わたしは
「わたしたちより早いの珍しいねー」
と言いつつカバンを下ろし席についた。
凛はこちらを見ずに、そして
「お前知ってるか?」
と、なんか怒ってる感じ?で尋ねてきた。
「な、何を?」
そうわたしが返すと、凛は息を吸って
「朝早起きすることを強制されて学校に来たと思えば先生に呼び出されて謎のプリントを渡されたかと思えばみんなに配れって命令されていわれた通り渡すと生徒から枚数が違うとか言われてむかつくしぃ」
すると凛は振り向いて
「先生に渡される謎の日誌のために聞きたくもない担任の朝の連絡メモってぇ授業とかの号令もして黒板消すのはまだいいとして先生に呼び出されたかと思えば謎の雑用を任されるようなゴm」
「日直ね」
早口、そしてなんか落ち着きのない口調で言って、なんか失言が出てきそうだったから、わたしも強めに凛の言葉を断ち切った。
凛はノンストップで詠唱してたからかすごい息が切れていた。
「はあ、はあ、ん…………まあ、そういうことよ」
「よく息持ったね」
「吹部なめんなよ」
そうだった吹部か。
あまりにも意外過ぎるんだよな~。ピアノ弾けるって言ってたし。
「大会近いんだっけ」
「いや…………ああでも、来週末本番あるから今日からほぼ休みないな」
凛は少し落ち着いて、黒板のほうに向きなおった。
「そっか…………相変わらずブラックだね」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!凛たん一緒に帰れないの!?」
わたしたちの会話を聞いた優愛がわたしの机を台パンしながら割り込んできた。
「お前の場合葉菜と二人っきりに慣れてラッキーとか思ってるだろどうせ
てか、たんはやめr」
「確かに葉菜ちゃんと二人っきり…………ぐへへ」
何を考えているんだこの子…………怖い。
てかなんか凛今日ちょっと不憫だな。
わたしが、あはは…………、と苦笑いをすると、教室のドアが開いて担任が入ってきた。
「朝の会を始めますよぉ
日直さんお願いしまぁす」
担任の先生、廣瀬 由喜先生。
今日も相変わらずぽわぽわしてて眠気を誘う声をしてる。
なんというか、怒っている想像が何一つできない。そんな感じ。
「起立…………」
凛の隣の席の子が号令をした。
まさか全部この子に一任させる気じゃないだろうな…………
ーーーーー
そんなこんなで昼休み。
ちなみに凛は隣の子にほぼすべてのことを任せていて少し先生に注意されていた。
めったに学校に来ない子なんだし、もうちょい優しくしてあげてもいいのに。
「葉菜ちゃ~ん!一緒にお弁当食べよ!」
優愛がお弁当を持ってきてそういった。
「いいよう~」
優愛は自分の椅子をこっちに向けて座りわたしの机にお弁当を置いた。
ちょっと狭い。
「ていうか、さっき誘われてたのはいいの?」
そう、さっき優愛は友達に誘われていたはずだ。
「葉菜ちゃんより一緒に食べたい人はいないからいいの!」
優愛はそう言いお弁当を開けた。
ほんとかわいいな、お弁当。
「そ」
わたしもお弁当を開けた。
「いただきま~す!」
「いただきます」
そうして二人はお弁当をほうばりはじめた。
「てぇゆうは――」
「食べながら話さないの」
そいってわたしは優愛にチョップを仕掛けた。
優愛は口の中のものを飲み込んで、チョップが当たると、いて、といった。
優愛は頭をさすさすしながら
「ていうか、凛たんはどこ行ったの?」
そういえばいないな。
あ、そういえば。
「ああ、えっとね、さっき授業が終わってすぐお弁当持って教室出て行ったはず」
「そうなんだ。珍しいこともあるもんだ」
まあ、いつもなら優愛につかまって一緒に食べてるのだ。嫌になることもあるだろう。
わたしたちはそのまましゃべりながらお弁当を食べて、いつも通りの昼休みを過ごした。
ーーーーー
五時間目体育の時間。
わたしたちはグラウンドで50m走をしていた。
この学校のグラウンドはなかなか広い。
なかなかの田舎であるので敷地はある。裏の森も含めればかなりのものだ。
そしてそれなりに有名な私立校でもある。
維持費はそれなりに賄えるのだろう。
同時に森があるということは虫も大量にいるわけだけど…………まあそれはいいや。
わたしは走り終えて周りを見渡した。
みんなジャージを着ていて、大半は半袖になっている。
優愛は、次くらいに走るのかな、順番待ちでそわそわしてる。
凛は…………もう走り終わって友達としゃべっていた。
後ろには一人でうつむいてなんか恥ずかしがってる感じの、凛の隣の子がいた。
そういえばあの子の名前知らないな。
…………ん?なんか受け入れてたけど妙にジャージの袖が長い。
別にほかに上着を着て長袖の人がいないわけじゃないけど、普通は自分に合ったものを買うし。
…………よく見ればジャージについてる名前の刺繍が、水尾、と書いてあった。
あの二人、案外仲いいのかな。
優愛の方に目線を戻すと、スタートの旗が風を切る音が聞こえた。
確か去年の記録は7.9秒。
速い。わたしなんかさっき走って9.8秒だったのに。
数秒後優愛は走り終えて、記録を聞くとさっき走ってたのが遅いと感じるくらいとんでもないスピードで爆走してきた。
「は~~~~~~~~~なちゃ~~~~~~~ん!!」
揺れているのは言うまでもない。主語がないと?うるさい。妄想を膨らませるのだ。
「あで!」
すると足元にあった石に転び、それもまたすごいスピードでコロコロ転がった。
いやいや、やばくない?
わたしは優愛に駆け寄った。
「だ、だ、大丈夫?…………じゃ、ないよね」
「アハハハハハ…………ダイジョブダイジョブ」
いや全然大丈夫ではないよね。
だってもう見るからに血だもん。ジャージも破けてるし…………
すると体育の先生が走ってきて、
「あらあら、すごい傷。すぐに水で洗ってきなさい。」
そして先生は優愛から目線を外しわたしたちを見た。
「誰か保健室に連れて行ってくれませんか?」
優愛はそれを聞くと力なく立ち上がって、
「……………………葉菜ちゃん」
と小声でわたしの名前を呼んだ。
「ああ、うん、そうなるよね」
そしてわたしは優愛に肩を貸して保健室に向かった。
ーーーーー
「それじゃあ、親御さんにも連絡するからね」
優愛のけがはそこまでひどいものではなかった。
ただ、妙にいつもの優愛より元気がなかった。
心配をしていると保健室の先生がおでこに触れた。
すると、体温計持ってくるね、と言って優愛は検温された。
38度7分。ちゃんと、というかだいぶ高熱だった。
「や、やだぁ。葉菜ちゃんとぉ、かえるぅ」
優愛のうちはだいぶ過保護だ。
おそらく娘が体調不良なんて聞いたらおそらく飛んでくることだろう。
優愛の声はさっきから小さくて、先生はそのまま電話を掛けた。
すると優愛は隣に座っているわたしのジャージの袖をつまんできた。
「葉菜ちゃん…………やぁ、だぁ」
この世の自分を含めた女性に先に謝っておく。
なんか、めっちゃかわいくない?
そんなことを思っていいるとどこからか優愛の親が飛び出してきて、
「愛しの我が娘よ~!!」
とか言いつつ優愛を連行していった。
ーーーーー
というわけで六時間目も終わり放課後。
結局一人で帰ることになった。
なんだかんだ一人で帰るの年単位で久しぶりなのではないか。
まあ、そういう日もあるか。
「じゃあまた明日」
「おうよ」
凛にそういって、わたしは教室から出て窓から空を見上げた。
雲がどす黒い。
なんか、嫌な予感がする。
下駄箱で靴を履き替えた後外に出て少し経ったのち、雨が一粒頭に落ちた。
やはり雨が降ってきた。
ちょっとすると結構土砂降りになった。
「あの天気予報信用ないな…………」
わたしは近くのスーパーの軒下で雨宿りをして、ジャージのバッグを下ろし、スマホを見た。
なんと今日中にやまないのだとか。
周りを見るとみんな走って家に向かっていた。
さてさてわたしはどうしたものか。
学校に戻っ…………ても意味ないし、走るとなっても30分近く雨に当たるし…………。
親は…………仕事だから電話しても意味ないし。
わたしはふとスーパーの隣にある森に入る道を見た。
影君の家なら走って五分もないはず…………
それに木の葉っぱで多少は雨もましになるのでは。
わたしはカバンを頭の上にして雨をしのぎつつ、その道に入っていった。
ーーー影視点ーーー
俺は今リビングで飯を食っている。
さっきまでは部屋で作業をしていたのだが急な雨で気がめいってしまった。
というか結構すごい雨だな。雨音だけでもなんか、こう、裏返したバケツに水玉を落としたみたいな音がする。
電気をつけるのもめんどいので、薄暗闇の中、作った焼きそばを食べていた時だった。
ピンポーン
と、いつぶりに聞いたであろうか、インターホンの音が雨の音とは異質にはっきり聞こえた。
俺は皿に箸をおいて誰が来たのか確認しに立ち上がり、インターホンに向かった。
見るとぶるぶると身を震わせ縮こまっている女子がそこにいた。
俺は、まさか、と思いつつ通話ボタンを押して
「あの…………?」
というと、ずびびと寒そうな声で
「い、いれてよー」
と返してきた。
波島さんの声だ。
俺は通話を切って玄関に向かいドアの鍵を開けた。
開こうとしたときあることに気づいた。
どうしよう、雨に濡れて制服ってことは…………
「シャツが透けてる説があるよな…………」
それにもしも雨宿りとしてやってきたなら俺はどうすればよいので…………?
…………待て待て、この雨の中外に放りだすということは風邪をひけと言っているのと同じでは?
というか昨日結んだ約束に反してしまう…………
そうなると開けるしかない、よな。
そして俺はそのドアを押し開けた。
「…………入ってもいい?」
「え?ああ、はいどうぞ」
そういって俺は波島さんを家に入れた。
うん。若干透けてたのは気にしない路線で行こう。
そして俺が靴を脱いで家に入った。
それなのに波島さんは下を向いたままなかなか動き出さなかった。
「あの…………上がんないので?」
「影君、やっぱり敬語なんだね」
「その…………癖なので、すいません」
「いいよ謝んなくて。わたしが悪いんだもん」
波島さんは顔を上にあげながら、
「それよりさ…………」
波島さんはそう一泊置いて
「なんであの時裏の顔なんて言いだしたの?」
波島さんはかろうじて笑顔を作りながら、同時にとても不安そうに、そう問いてきた。
「…………あなたに名前の由来を聞いたとき急に声色が変わって、答えるのにも結構時間がかかっていて…………
その、申し訳ないんですけど、あなたとは反対なはずの、自分みたいな感じが一瞬感じたんです…………
だから、その」
と俺が言い悶えているとき、ふと波島さんの顔を見ると、やっぱり、と口を動かしていた。
「そっか、そうだよね、じゃ、仕方ないよね」
と、もう一回下を向いていうと、後ろ髪に手をかけて髪ゴムをとりながら顔を上にあげた。
「!?」
驚き、だろうか、いや、勘付いてはいた。
そこにはさっきまでの波島さんはいなかった。
目にはもう光がなくてただただ黒かった。
表情というのは消えていて真顔というにも感情がない。
しゃべりだされるのが怖いほどの、何かの圧。
俺は一つ息をついて。動転した気持ちを落ち着かせた。
「…………15分」
「?」
俺は振り向き彼女のほうを向きながら
「風呂が沸くのにかかる時間…………」
そういって俺は風呂場に向かった。
すぐに彼女が靴を脱いで家に上がってきた音が聞こえた。
ーーー葉菜視点ーーー
そんなこんなで家に来てしまった。
結構濡れたけど寒い中歩くよりかはマシだ。
昨日の約束をちゃんと覚えていたのだろうか、結構すんなり中に入れてもらえた。
とりあえず聞きたいことを聞いたけれど…………私ってそんなにわかりやすいだろうか。
今までで『私』のことを知ったのは影君が初めてだ。
そもそも、昨日私が出てきた覚えがない。
するとお風呂場からだろうか、奥から影君が帰ってきた。
「ねえ、影君。昨日の私ってそんなにわかりやすかったの?」
「…………だいぶ」
そういって影君は少し離れたところにあるソファに座った。
「さっき、昨日質問の答えに時間がかかっていたといってたけど私はそんなに覚えてないんだ」
「記憶力いいんじゃ?」
「覚えてることと食い違ってるってこと」
「ああ、えっと。結構時間あったはず…………というか聞いちゃいけんことかなって不安になったし」
「へー」
私はかなり記憶力がいい。それこそ会話も大体覚えている。
でも私の記憶ではそんなしゃべり方はしていない。
でも記憶は曖昧でなくても信用性に欠ける。
私が聞いたわたしの声は少しフィルターがかかっていたかっもしれない…………
ん?待て待て、何か違和感…………
そこで気づいた、影君が敬語じゃない…………!?
「ねえ影君。なんかしゃべり方違うね」
「俺は陽キャが結構苦手、というか初対面がちょっと苦手なだけというか…………てかお前には言われたくない」
お前、かぁ
「…………名前で呼んでもいいんだよ」
「波島?」
「葉菜でいいよ」
「…………葉菜」
うん気分がいい。
「ていうかこれだと君をつけてる分私のほうが距離とってるみたいだな…………影って呼んでもいいかい?」
「…………いいけど」
何か歯切れが悪い。
「…………不満?」
「ていうよりは、ギャップというか、声質が違うといいますか」
ああなるほど。
「私にとって、影はもうこの私を知ってるでしょ?
だからわざわざいつものわたしになる必要がないだけだよ」
「なるほど…………?」
なんか納得していなさそうだが、まあいいか。
というか濡れてる状態でいるのかなり寒い。
どうしたものか…………
「…………ねえ、シャワー浴びてたらお風呂沸くかな」
「多分…………」
私はソファから立ち上がって
「じゃあ、シャワー浴びてきてもいい?」
「…………どうぞ」
私はそのままさっき影が出てきたほうへ向かった。
凛の隣の男の子(年齢不明)
とっきどき学校に来る背の小さい男の子。
ずっと下を向いていて目が合わない。
人としゃべってるところは見たことない。
声は男子にしては少し高め。
凛と仲いい説が浮上。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廣瀬 由喜(28)
いつも糸目なふんわり系教師。
髪型はボブで服はちょっとおしゃれ(肌白めで、半袖着てくること多い)。
背はあんまり高くなくて体型もぬいぐるみみたい。
担当教科は数学。大体みんな寝てる。
未既婚。