13話
「さてと……」
図書館に戻った僕は午前中に使っていた館内の端に位置する席まで向かった。借りていた一年分の新聞は机に置かれたままになっていた。僕は一度昼食のために離れることになるため、司書さんに一度返却しようとしたら短時間であればそのままでいいとの事だったので、ありがたいことに直ぐにまた作業に戻ることが出来た。
・・・・・・バックナンバーを新しい順に遡ってきて、去年の十二月の二十二日の新聞を手に取った時の事だった。
「えっ、なんで」
ついに僕は長い間違い探しの末に、とても大きなこの世界の間違いを発見した。一年前の十二月二十二日は世界的に話題になったあの事件の翌日だった。一般の火星旅行船が丸ごと消息を絶ち、その不可解な点がいくつも存在する事件の噂話はSNS上で絶えず流れ続けていた。そんな世界を騒がした重大な事件が起きた翌日のこの新聞には一切そのような内容の記事が見て取れなかった。粟立つ肌と共に混乱に陥りかけた思考を無理やり立て直して、僕は考え始めた。現状考えられるのは、一つはこの世界ではそもそも事件が起きていないという予想、そして少し二山みたいな考え方になってしまうが、実際に起きていた事件がなんらかのか裏の力が働きもみ消されたとかまで思考してしまう。
・・・・・・そういえば、この世界の初絵が消えたときはどのように報道されたのだろうか。一度ここは新聞から離れてその件を調べるべきだな。そう思い僕は席を立った。新聞のバックナンバーは最初に聞いたときに一年分しか保管されてないと聞いていたので、それらの情報筋以外から何とか探さないといけないが、いったいどこを探せばいいのだろうか。僕はそうやって考えながらふらふらと、本棚を行き来していたら、急に肩を掴まれた。振り返ると、二山がそこにはいた。
「なあ、ちょっとやばいかも」
二山が深刻そうな顔で声を潜めながら話しかけてきた。僕は途端に周りの状況を伺う、しかし、周囲には相変わらず人は居いなかった。
「どうしたんだ。何かあったのか」
二山の尋常ならざる様子にこちらも自然と声が小さくなる。
「いや、ちょっとまって」
あの話し始めたらどんどん熱が上がり最終的にはマシンガンになる二山が言葉を言い淀んでいた。僕がこれは今ここで話しては行けないレベルの内容の可能性が出てきた。
「あ!ルカ君!ちょっとやばいことが分かったの!」
今度は雪が通路から本棚の前で二山と二人で佇む僕たちに向けて大きな声と大げさな身振りで僕を呼びながら小走りで駆け寄ってきた。それは二山のシリアスな雰囲気よりも衝撃的な光景だった。品行方正で周囲の環境に配慮することに関しては一切気を抜かない。あの雪が図書館でそこそこ大きい声で小走りで近づいてくる。隣を見ると先ほどまでの深刻そうな二山ですら、目を丸くして驚いていた。
「どうしたの田中さん。それから少し声抑えないと目立っちゃうよ」
「あっ、ごめん。ちょっと気が動転してたわ」
雪が気まずそうに駆け寄る足を止めて、歩いて近づいてきた。しかしその様子はまだかなりソワソワした様子で忙しなく髪を触ったり、服を触ったりしていた。ここまで浮足立つにはまたたいそうな理由があるに違いなく、それはきっと二山の件も併せて、きっと今聞くべき内容では無さそうだった。
「ごめん。田中さん。たぶん何か話したいことがあるんだと思うんだけど。一度、初絵さんも交えて人の居ない場所で話した方がいいかも、なんだか二山も重大な報告がありそうだし」
「あ、そ、そうだよね。ごめん一人でこの事実抱えるの凄い不安だったから、焦っちゃたわ。それならもうそろそろ時間になるし、帰ってから話すことにしましょう」
雪が携帯の時間を確認していった。そういえば帰りの時刻を話していなかったが、恐らく今日は夕方に雪が前日にいろいろ買っていた生活用品が届くらしいので、それで雪の頭では帰りの時刻と予定が立ててあったのだろう。
「わっかた。言っておくけど俺の見つけたものはあまりにも衝撃的だぞ、今のうちに覚悟しといたほうがいい。」
そうして、僕たちは初絵を呼びに行き、バスを待ち帰路についた。帰りのバスの中では奇妙な空気が流れていた、皆それぞれ落ち着かない様子でチラチラと視線が互いに行きかっていた。どうやら今回の調査ではみんな一様に何かの真実を掴んだようでそれを早く話したくて仕方ないようだった。
しかし、そんな空気の中で一人だけ、初絵ちゃんは持ち帰ったメモ帳代わりのコピー用紙をずっと見ながら、時折何か思いついたようにペンを走らしていた。そんなみんなの様子を眺めてすっかり忘れていたが、そういえば僕もみんなに話さなければいけない内容があったのだった。思い出すと同時にその得た情報についての思考が頭の中で様々、湧き上がってきていつの間にか、僕もソワソワし始めていたのだった。




