10話
「つまり、町のコンビニあった某黄色の有名誌でバイトの募集探したら、履歴書不要のバイト先がいくつか、あったってことね」
二山の見てきた場所は主に隣町の小規模商店街を中心に見てきたらしい。ただ一番最初の報告から雲行きが怪しい。
「二山、履歴書不要って言っても身分証明が必要なのは変わらないよ。それにほとんど給料は口座振り込みだし。無理だよ、一時的に働くことが出来ても万が一怪しまれたら大変だから」
「あー、そっか、俺もバイトしてるところは確か親の同意みたいな書類書かされ記憶あるわ。うんー、でも気づいたことってほぼないぞ。町中見て回ったけど特に変わったもの無かったし」
二山は少し声が小さくなり気まずそうにしている。次はいよいよ僕の番となるわけだが、先ほどの二山の件があってか僕は少し荷が下りたような気になり、促されるより先に自分から話し始めた。
「二山大丈夫だよ、なにも違和感がないってだけでも情報になった。僕も二山と一緒で町中見てきたけど報告できることはないかな。ただ一つだけ、これは多分気のせいだけど月の模様がなんか違うような気がした。目視できるはずのクレーターが少なかったような気がした、あんまり自信はないけど」
僕達が調査を終えて帰りのバスの中で見た大きなスーパームーンにはクレーターが”少なかった”それは確かだった。目視できる範囲で具体的にいくつ足りないかは数えなかったが、例の偉大なる天文学者の名を冠するただの大きな穴ぼこが見えないのは確実だった。ではなぜこの場で強くそのことを言いきらなかったのかというと、この次は彼女の番だ、どうせ然る後、ただしい注釈と考察が来ることが分かっていた。それに僕は彼女と違って自分の中にある考えや知識を話すことに忌避感をがあるため、僕は曖昧に締めくくり、初絵の方に視線を向けた。二山はカーテンから空を見ようとしていたが軒に阻まれて上手く見えないようだった。
「私の番だね。まずみんなお疲れ様~。私は図書館で座ってるだけだったけど、みんなは一日歩き回ってたから結構疲れたんじゃない?」
「いやあーまじで疲れたあー!なんか知ってる街並みだけど事情が事情だから凄い居心地が悪かったし、緊張もしたから。ヘトヘトだわ」
二山はもうほとんど布団の中に潜り込んで寝る準備に入っていた。
「まあ、そうは言っても、初さんも長時間頭使って疲れたでしょ?お疲れ様、私も明日からは買い出し終わったら図書館に合流して調べもの手伝おうか?」
雪は珍しく柔らかく微笑みを初絵に向けて話しかけた。心なしかこの世界に来てから雪の初絵に対する態度が柔らかくなった気がする。
「ありがとう、雪ちゃん。ぜひ手伝って欲しいな。まず、この世界と前いた世界の違いの話からするけど、まあ、みんなも今日一日見てきて分かったように、この世界の歴史は私たちが元居た世界と変わらないよ。もちろん全部は調べられてないから断言はできないけど、少なくとも時代の転換点の出来事や重要な人物は完全に一致していたよ、多少、ドッペルゲンガーちゃんの記憶で知ってはいたけど、まさかここまで一致してるとは私も思わなかったよ」
「え!!それじゃあ、何の手掛かりもなかったの!?」
僕はつい驚いてしまった。隣の雪も目を大きく開き驚きを隠せないようだった。実際、僕たちは初絵ちゃんに全幅の信頼を置いていたため、その分驚きも大きかった。いや、言い直した方がいいかもしれない、僕たちの初絵に対するこの評価はもはや妄信、過信の類にまでなっている。
「いや、ルカ君、まってよ。ごめんごめん。私も予想以上に報告できる内容が少なかったから、少しもったいぶって遠回しに話しちゃったけど、ちゃんとこの世界の正体について確度の高い仮説が一個あるんだ。ルカ君もさ、さっき言ってたけど月のクレーターの件、私も天文学らへんの書物調べたから分かるけど、少ないのは間違いないよ。それから星座がねーなんか一応サソリとか双子とか全種類あるんだけど、なんか形が変なんだよね。」
「うん?ということはもしや、この世界って宇宙のどこかにある類似の惑星ってことか?」
僕達が初絵の言葉の先を待っていると、二山が布団から勢いよく上半身を起こして目を輝かしながら初絵に向かって言った。初絵は苦虫を噛んだように口元を歪めて頷いた。
「いやー、まいったねー。糺くんにズバリ当てられるくらいバカバカしい話だっていうのは私も理解してるんだけど、現状もっとも可能性が高い説はそれなんだよね。ドッペルゲンガーが私の居た世界に来た時も宇宙に出たとき、私たちがこの世界に来たのも宇宙に出たとき。それから私たちの世界で起きて
いた火星旅行中の神隠しも、全部偶然だとは思えないんだよね。」
初絵の示した可能性はあくまで取っ掛かりに過ぎないものだったが、僕たちに混乱を齎した。シンっと静まり返る薄暗い部屋の中でみんな一様に思考を整理する時間を過ごしていた。
「まさか、唯一の手掛かりが宇宙にあるなんて……ルカ君の件から少し考えていたけど、一番手が届かない場所じゃない」
雪がため息交じりに愚痴をこぼした。
「やっぱさーなんかあれじゃね?俺たち宇宙人に誘拐されたんじゃね?なんか昔読んだオカルトの本に宇宙人に誘拐される話しあったぞ!」
頭を抱え始めた雪とは対照的に、さっきまで眠りかけていたはずの二山は今日一番の元気を振りまいていた。
「まあさ、もっと調べないとだからさ、さっき雪ちゃんが手伝ってくれるって言ってたけど、やっぱり明日は皆で図書館に行こうよ。もう私たちですら、考えれば考えるほど頭が痛くなるし、堂々巡り何だよー。とりあえず今日は寝よー」
携帯で時刻を確認すると22時を過ぎていた。普段であれば寝るのは0時を過ぎてからなのだが、起きていたところで暗く何もないこの部屋では、なにもすることが無いため大人しく寝ることにした。川の字に敷かれた布団の一番端を陣取り布団にもぐると、眠気と不安でざわつき始めた心が同時に襲ってきたが、布団の中にもぐり徐々に温まってくると伴に眠気のほうが強くなり、僕はやっと眠りについた。
おはようございまーす。




