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令和のチャラ男、光源氏に転生する  作者: ヴァイオレット式部
1/3

前編

この物語はフィクションです。実在及び架空の人物・団体・事件・源氏物語とは一切関係ありません。

紫式部や源氏物語のガチファンの方、前世が紫式部だった方はお読みにならないことをお勧めします。

この忠告を無視して精神的苦痛を受けた場合、作者はいかなる責任も負いません。

 ウィース。俺、源氏。


 どうやら源氏物語の主人公に転生したらしい。


 って、気が付くのに十年近くかかった。


 仕方ねぇだろ?令和を生きる学生だった転生前の俺、漫画か「小説家になろー」くらいしか読まなかったし。


 そもそも、はじめは平安時代だということすらわからんかった。千年前の日本語なんてほとんど宇宙語だぜ?異世界転生だと思うだろ?


 前世の人生に未練はあったが、死んでしまったものは仕方ない。異世界生活を謳歌しようと、虚空に向かって「ステータスオープン!」とか「ファイアーボール!」なんて叫んだこともあった。


 この時代にそんな奇行を繰り返していれば、下手すりゃ狐憑きなんて言われて処分されるのに。まだ小さかったのもあって周囲からの認識が「ちょっと変わった不思議ちゃん」程度で済んだのは幸いだった。



 そんな俺も、三歳の頃にカーチャンが死んでようやく現実を見るようになった。



 俺の親父は帝である。令和風に言うなら天皇陛下である。そしてカーチャンは数多いる側室の中でも身分低めの更衣だった。


 そんなカーチャンが美貌で帝の寵愛を独占した結果、同輩の更衣はもちろんのことパイセンの女御とかにクッソ嫉妬されて虐められたらしい。で、その心労で早死にしちゃった。


 いやいや、メンタル弱すぎね?親父の寵愛が迷惑だったなら死ぬ前に逃げなよ。それか開き直って、なろーによくいるピンク髪の男爵令嬢のごとく開き直ってほしかったものだ。


 とはいえイジメの被害者が自力で逃げるのは難しいだろう。そもそも入内(帝の嫁になること)はカーチャンの意志ではなかったらしいので、擁護の余地はあるんだけどね。


 大納言だった母方の爺さんが、死ぬ間際に「娘を必ず入内させるのじゃ!!!」などとほざいたらしい。カーチャンの実家は斜陽だったから、美人の娘が生まれて夢見ちゃったんだろうね、爺さん。でもお家復興を子供に押し付けるなよ毒親め。


 しかしながら、俺が爺さんを超えるクズだと考える奴は他にいる。目の前で泣き暮らすこいつ、御父上陛下だ。


「更衣よ、なぜ余を置いて逝ってしまったのだ……」


 あんたがストーカーのように執着したせいですね。というツッコミは胸の内にしまっておいた。母方の後ろ盾がない俺が、親父の庇護まで失ったら人生が詰む。今はまだ、気に食わなくても親父のご機嫌を取らなくては。


「ちちうえげんきだしてー」


 などと心にもないことを言いながら、俺はカーチャンを失ったショックでふさぎ込むクズ親父をなだめ続けた。


 本当は、裕福とは言えない婆ちゃんのほうが心配なんだけど。さすがのクズも一応「お義母さん、よかったら宮中来ます?」って誘ったらしいけど、娘を殺したも同然の輩の世話になりたくないよな。きっぱり断ってた。でも婆ちゃん、大丈夫かな……。


 そんな俺の不安が的中して、婆ちゃんも俺が六歳の時に死んでしまった。その一年後、俺の教育が本格的に始まった。



 俺の前世での学校の成績はせいぜい中の下、大学生になりたてで死んだので専門知識もない。そんな俺が皇子教育受けるとかぜってぇ無理だろ。


 実際、センスとか美的感覚が問われる方面、例えば和歌なんて壊滅的だった。平安貴族の必須技能なのに。


 以前、和歌の授業があまりにも苦痛で「たいくつだ うんこしてぇな うんちっち」と詠んだら先生役の貴族が泣いて出て行ってしまった。なんかごめん。


 とはいえこの体は基本的にスペックが高くて、笛とか琴とか楽譜に従っていれば良い分野、舞みたいな体を動かす系は得意だ。


 仮にも前世で義務教育を修了した身でもあり、論理や暗記がものをいう学問も楽勝だった。



 あとは、生活環境を何とか改善したかった。


 父は帝、母は一応貴族女性。そんな二人から生まれた皇子様の生活環境なんてこの国で最高レベルに近しいはずだろ?しかし、平安の暮らしはマジ無理だった。


 まず、劇的に臭い。この時代の貴族は一か月くらい風呂にも入らないなんて普通だし、入っても湯船に浸かることなんかねぇ。


「日本人=風呂好き」だと思っていた俺が、日本に転生したとなかなか気づけなかった要因でもある。


 あとはメシ。なんか弁当箱にぎゅうぎゅうに詰めて三日くらい放置したようなカチコチの米とか、塩や味噌つけるだけのおかずとか。


 俺が第二皇子だからいびられてんのかな?と思いきや、これで最高級のお食事らしい。マジかよ。


 前世での暮らしなんて高望みはしない。せめて江戸時代くらいの生活水準は目指したい。江戸時代だって機械化なし・基本国産資源のみという条件は平安と一緒なんだから、いけるだろ。


 そんなガバガバ理論の下、俺は親父の庇護から早く抜け出すためにもがんばった。


 小学生のころ「むかしのくらし」みたいな授業で習った道具を作らせたり、宮中に洗い場と湯舟を完備した風呂作らせたり、国産食材で再現できそうなレシピの数々を再現してみたり、それらが貴族間でバズって衛生と栄養が改善した結果、疫病が減ったり。


 体のスペックの高さも相まって、発案することすべてなんやかんやでうまくいった。


 おまけに俺は自分で言うのもなんだが、死んだカーチャンに似て絶世の美少年らしい。平安と令和の美醜基準が乖離しているせいもあって、自分の顔の良し悪しはよくわからんけど。



 そんな感じで俺は、一部に残念な奇行はあれど学問に優れ文明を飛躍的に向上させ、(親父の前では猫を被っていたので)帝の覚えもめでたい美貌の皇子様、光る君と評判になった。


 そうなると俺のことが気に食わないという輩も出てくる。その筆頭が弘徽殿の女御とかいうオバハンだ。第一皇子の母親で、カーチャンをいじめ殺した親玉である。


 なので俺は弘徽殿のオバハン及びその父である右大臣サイドに対して、「帝になる気なんてありませんよー」と徹底的にアピールした。


 弘徽殿のオバハンは俺の考案した風呂と料理の隠れファンだから殺されはしないだろう。多分おそらく俺の精神安定上そうであってくれ。


 それにこの間、韓国から来たっていう偉い占い師も俺のこと


「この子は王様になりそうなツラしてるアルね!でも実際に王様になったら世が乱れちゃうアルよ!」


とか言っていたし。それで親父も俺を臣籍に下すことを決意し、俺に与えられた姓が源氏である。ここでようやく俺は


「俺が転生したの光源氏だったのかよ!!!?」


と気づいたのだ(遅い)。



 そんなある日、俺は父親である帝に呼ばれた。俺は不本意ながら親父のお気に入りだったので、こんなことは日常茶飯事である。


(だから俺が弘徽殿のオバハンに睨まれるんだよ、空気読めよクソ親父)


と内心で毒づきつつ、いつものことなので警戒もせずに父親の元を訪れた俺を待っていたのは、最悪の出会いだった。


「よく来たね、光。紹介しよう、新しく女御として入内した藤壺だよ。そなたの母にそっくりだろう?」


 嬉しいだろう?と言わんばかりの顔で父親が紹介したのは、俺よりいくつか年上と思われる女だった。新しく親父の嫁になったという、まだ少女といってもいいその女は、なるほどカーチャンに似ている気がした。


「彼女は先帝の四の君で……」


 いつになく黙り込む俺を気に留める様子もなく、親父は新しい嫁を自慢げに披露していた。カーチャンとそっくりだが身分はずっと高いとか、俺と六つしか年が変わらないだとか、そんなことを。


 俺は、令和の倫理観を持ち合わせてはいるけれど、平安の皇子に生まれたからには皇族・貴族に複数の嫁が必要なことくらい理解していた。乳児の死亡率が高いこの時代、血統を守るためには仕方のないこと。親子くらい年の離れた結婚だってこの時代ではめずらしいことじゃない。


 でも、これはダメだ。キモ過ぎる。


 ……今まで猫をかぶってきたけど、もういいかな。


 俺、頑張ったよ?評判の皇子様になるくらい頑張ったんだ。


 もう、本音を出してもいいよね?


「この藤壺を母と思って、ぜひ仲良く」


「無理です」


 食い気味に答えると、言葉を遮られたことなどないであろう親父が明らかに気分を害した顔をした。そんな顔をしたいのはこちらの方だ。


「普通に考えて無理だよね?弘徽殿のオバハン見ればわかるだろ?継子なんて目障りでしかないのに、仲良くなれるわけないっしょ」


「ふ、藤壺はそのような人ではない!あのような女と一緒にするな!」


「……あのような女、ね。栄えある右大臣家の娘で、父上が東宮(皇太子)のころから支え、第一皇子まで産んだ弘徽殿のお方をそのようにないがしろにしてきたから、母上が死ぬ羽目になったのでしょう?」


 どうして愛しの更衣が死んだのか?いつかの問いかけの答えを突き付けてやると、親父が息をのんだ。


「本当に母を愛していたなら手放してやることだって、あんたが帝の位を降りてから一緒になることだってできたはずだ。右大臣家の後ろ盾は欲しい、でもお気に入りの女も傍に置いておきたい。カーチャン死んだのアンタのせいなのになんで被害者ぶってんの?」


「い、いったいどうしてしまったのだ、光よ……?」


 今まで父親の前では模範的な皇子を演じていた俺の豹変ぶりに、クソ親父は怒りを通り越して困惑を滲ませ始めた。帝のくせにおろおろするばかりの親父から視線を外し、俺は藤壺とかいう女も睨みつけた。


「あんたもさ、俺のカーチャンに似てるってだけでお妃になるとかプライドないの?そいつ、カーチャンのこともあんたのことも、中身なんか何にも見てないよ?」


「そ、そんな。わたくしはただ、皇子殿下と仲良くしていただければと……」


「だから無理って言ってんだろ。頭悪いの?それとも耳が悪いのか?どっちでもいいけど、二度とそのムカつくツラ見せんなよ」


 深窓のお姫様だという藤壺は泣き崩れた。あーあ、これじゃぁ弘徽殿のオバハンに対抗するなんて無理じゃねぇの?ま、俺には関係ないけど。人の心がわからない者同士、お似合いの夫婦ではあるのかもね。


「話がそれだけなら、俺は失礼します」


 地獄みてぇな空気を置いて、さっさと退出した。怒りに任せて歩き出した俺だが、帝の御所は広い。普段俺が生活しているのは昔カーチャンが使っていた部屋なんだが、そこに向かうまでにだんだん頭も冷えてきた。


「……あーあ、やっちまったよ」


 ついには勾欄(外廊下についてる手すり)にもたれ掛かって、頭を抱えた。


 よく考えたら俺、元服もまだなんだよな。いくら各部署に口出しして成果を上げたとはいえ、今は無位無官の未成年である。


 令和の倫理観と、十歳にも満たない未熟な精神が限界を迎えてついブチギレてしまったが、今親父に嫌われるのやばくね?


 まぁ、不敬罪だ!って衛士が飛んでこないところを見るに、命まで取る気はないようだけど。与えられた部屋に居づらくなるよう、細々とした嫌がらせが始まるのは想像に難くない。


 思えば前世で俺が若くして死んだのも、腹が立ったら考えなしに口に出してしまう性格のせいだった。


 気に食わない教師にたてついて死んだのだ。性根は死んでも治らなかったらしい。


「これからどうすっかな」


 宮中を出るなら母親の実家に戻るしかないわけだが、婆ちゃん死んでからろくに手入れしてないし未成年が住んで大丈夫かな。


「それでは、我が家にいらっしゃいませんか?」


 そんな声掛けに振り替えると、柔和そうな顔立ちのおっさんがニコニコしながら立っていた。立派な身なりのおっさんは、確か……。


「貴方は、左大臣?どうして……?」


「失礼ながら、先ほどの陛下と若君のやり取りを耳にしたものですから」


 一応猫かぶりモードで対応するも、俺の本性はすでに承知の上らしい。左大臣ほどの重臣なら俺が親父の元に呼ばれた理由も察しているだろうし、開放的な寝殿造の建物であれだけ声を張り上げたんだ。筒抜けだわな。


「帝に見捨てられる予定のぼっち皇子に関わって大丈夫なんすか?」


「ははは、そう悲観なさることもありますまい。若君は優秀な方ですから、お近づきになりたい者はたくさんおりますよ。私もその一人です。かねてより陛下へうちの娘婿にしていただけないかとお願いしていたのです」


「その陛下に盛大に喧嘩売りましたけど、俺」


「そうですね。はじめての親子喧嘩に戸惑い落ち込んでおられる幼子に見えます。そんなお方を放っておけましょうや?」


 思いがけず優しく言葉をかけられて、俺は少し揺らいだ。そんな動揺を見透かしたように、左大臣は笑みを深める。


「若君の考案された風呂や料理は良いものですな。我が家でも最近、風呂を新造しまして。それに今日は山鳥が手に入ったので、夕餉は『はんばぁぐ』なる料理なのですよ」


 そこでついていったら風呂とハンバーグにつられたみたいだろ、と警戒する一方で、でもそれもいいかもしれないな、と俺は思い直す。そして、目の前の男について頭の中でさっと整理してみた。


 弘徽殿のオバハンの父である右大臣に比肩する重臣で、一男一女の父。北の方(正妻)が親父の妹というのがちょいと気になるが、真面目で実直な仕事ぶりと評判の人だ。


 何より、奥さん一筋というのがいい。いや、帝の妹に気を遣っているだけで、どこかには愛人を囲っているかもしれないけど。少なくとも表立って北の方以外の妻やその子供がいるという話は聞いたことがない。


 ……きっとこの人なら奥さんが亡くなっても、そっくりな女を連れてきて「お母さんと呼びなさい」なんて言わないんだろうな。


 そう考えたら矢も楯も止まらず、「行きます」と答えていた。

大河ブームの予感に源氏物語を読み返してみたら、出てくる登場人物(特に男)みんな令和の倫理観だとクズ過ぎwww

イラっとした勢いで書いた。紫式部ごめん。

ちなみに筆名はパープル式部のほうがよりバカっぽくて良かったんだけどすでに先達がいた。パネェwww

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