白銀村、雪(1)
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。また作中の表現及び発言においても、あくまで創作上のものであり、特定の個人や思想、概念を否定あるいは肯定するものではないことをご理解下さい。
高校卒業と同時に春鹿は上京し、時同じくして父親に弟子入りした晴嵐の人生は、長い間、不遇とは言わないまでも平凡で暇なものだった。
しかし、北の端の山奥の限界集落で生まれ育ち、そこに住み、同じ場所で仕事にも就いているのだから、それも当然のことだと思っていた。
ささやかさにぼやきながらも、喜びと幸せに感謝しつつ、大きくはこれまでと同じように、この先も暇で、平凡に、人生は過ぎて行くのだろうと考えていた。
しかし、転機はいきなりやってくる。
しかも、人生をゆるがすビッグイベントが二つ、いや三つも同時に起こるなんて。
十代、二十代、三十代と、時間だけはたっぷりあったのだから、小出しにして欲しかったと晴嵐は思う。
そうすれば、人生を諦めながら生きることもなかっただろうに。
正面の白銀山の緑がやたらときれいに見える。
何十年、何百日、何千回、見た中で、間違いなく、今日が一番美しい。
「っだぐ、白銀の神様のへそ曲がりが」
つくづく、焦らしプレイ好きの変態か、捻くれ者の性悪か、絶対どっちかだ。
そんな悪口が神様の耳に入れば、また意地悪されそうなので、晴嵐は代わりに山に向かって手を合わせた。
「……絶対に幸せにしますがら」




