勘違い神様
しばらくは1日1回夜投稿するのでよかったら読んでください。
俺の名前は幽谷玲。少し前は影が薄くて弱気だっ25歳、元インキャだ。
前の世界では普通の生活を心がけていたのだが、今は存在してはいけない存在の魂を体内に宿し天界にやって来た。天界は天国だ、見渡す限り無の空間。
その見えちゃいけない存在はご存知の通り幽霊だ。
癖で常に敬語だった口調だが、お馴染みの広子さんの性格が【霊体融合】時に反映されて敬語が少なくなった。俺のアイデンティティがなくなったのは少し残念。まあ臨機応変に敬語を使えるようになったから良し、常に敬語を使うのも疲れてしまう。
【霊体融合】とは死の直前に幽霊の身と心が人体と重なることで起きる現象。霊界では有名な現象らしい。
本来なら霊体融合の後は現世でそのまま幽谷玲として生きていられるのだが、ドッペルゲンガーと遭遇して早々、俺は何故か天界へ飛ばされた。
…それぞれ個性ある人間が同一に2人存在してはならない。これは神によって定められた決まり事。
また、本来なら偽物のドッペルゲンガーが天界に飛ばされるはずだったが神様は勘違いしてして俺を天界に送ってしまった。
「えー、どうも神です。あ、どもどもお疲れ様です」
低姿勢な男性の神は幽霊たちにお辞儀をして感謝も述べる。
「偽物さんを捕まえてくださりどもどもです〜。幽霊さんたちは楽に成仏するので安心してくださいね〜」
「待ってくださいよ!俺は本物の幽谷玲です!」
神様はみんなそう言いますよ〜と軽くあしらう。腹立たしいのだが神様に喧嘩を売るのはなんかされそうで怖い。
幽霊の中で一番まともな影山さんが神様に耳打ちをする。神様は納得したようにうなづいた。幽霊と神様は会話できるんだ…羨ましい。
「えっと…ごめんなさいね?確かに霊体と融合できるのは生身の人間だけだった〜」
どうしよう、神様をこんなに憎いと思ったのが初めてで動揺が隠せない。
神様は俺の複雑そうな顔を見て申し訳ないと思ったのか幽霊は成仏せずそのまま俺の体に融合させておくのを許してくれた。
「あと、サービスで…」
影山さんが叫び出した。
「という風に幽霊さんと幽谷玲くんが会話できるようにしました〜」
嬉しい誤算なのだが、影山さんを苦しめるのはやめてほしい。
「ほいじゃ、みんな頑張ってね〜」
神様と会話して数十分、俺たちは異世界に飛ばされたのであった。
◇
見渡す限り緑の森、空気がとても美味しい。ね、みんなもそう思うでしょ?
早速幽霊たちに声をかける、返事をしてくれたのは影山さん。神様から聞いた話だが天界以外での幽霊との会話は1人のみで制限されているとのこと。加えて幽霊たちは融合されて個別行動を取れなくなっている。
「ですね…緑の木々を見るのは2、30年ぶりですかね…」
同じ男性のためとても話しやすい…でもさ、腹から体を出すのやめてくれないかな…少し気持ち悪い。
「ちょっと〜!私も玲ちゃんとお話したい〜!」
女性の声の主の手が影山さんを体内に引き込み、次は広子さんが出てきた。
「あれ?玲ちゃん少し顔変わった?」
融合により性格は広子さん寄り、見た目は影山さん寄りの大人びた顔になっていた。恋さん、愛さん、コックリさんの要素がどこに出てくるのか楽しみだ。
「確かに融合されてるんで顔が変わってもおかしくないですね…うぎゃ!」
広子さんも影山さんと同じように体に引き込まれて恋さんが登場。
「うん、おつかれ」
恋さんは俺の顔を見ると、どこか残念そうな顔をして引っ込んだ。やはり悪霊は性格が悪いものなのかな?
「あ〜確かに残念な顔になったね〜」
お次に愛さん。今まで面食いの愛さんが俺に執着する理由がわからなかった。
「あの、愛さん。ずっと気になってたんですけど面食いなのになんで俺に着いて来てくれたんですか?」
「それはね〜なんか可哀想だったから!」
どうやら同情されていたようだ。さて、俺の何が可哀想なんだろうか…みんな優しいな、恋さんを除いて。
「あ、玲くん。恋ちゃんはツンデレだから気にしなくてもいいよ!」
急にツンデレ言われても困る。
さて、幽霊と会話して盛り上がっていたのは良いが現状を見ると異常だ。森林で独り言をしているのだから。
「とりあえず移動しますか」
これから何をしようか、定められた目標もない。とりあえず街を目指そう